つくろう、島の未来

2023年01月28日 土曜日

つくろう、島の未来

漁業に限らず、すべての産業は「つづけること」も大事なテーマ。

対馬島(つしまじま|長崎県)から、磯焼けを起こす食害魚をおいしく調理・加工して、「そう介」という新商品を生み出した犬束ゆかりさんにその背景や今の取り組みについてお話を伺います。自分だけがよくてはいけない、地域に貢献、犬束さんの話から感じられる持続可能な「海業」とは。

また、隠岐諸島(おきしょとう|島根県)の島後(どうご)から福本真悟さん。今は巻き網漁の7隻の船団をまとめる漁労長。漁師を意識することのない幼少期を過ごしながら、ある日お父さんから「お前の船を造ろうと思うけど継がないか」という話。当時在籍していた大学院を辞めて、Uターンして漁師に。

「つづけること」をキーワードに、お二人からどんな話が飛び出すでしょうか。

人物紹介

漁師・有限会社天祐丸 取締役漁労長 福本真悟さん
2014年に島後(隠岐の島町)にUターン、巻き網漁の漁労長を務める。幼少期よりズワイガニを食べすぎて最近はかゆくなる。休みの日はゴロゴロしたり読書をして過ごす、休日インドア派。

漁業者・有限会社丸徳水産 専務 犬束ゆかりさん
対馬出身。食害魚のイスズミなどを加工した「そう介」を考案・販売。2019年に「第7回 Fish-1グランプリ・国産魚ファストフィッシュ商品コンテスト」でグランプリ受賞。休日は島内外のセミナーなどで学び、島のサスティナビリティについて考える。
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ネルソン水嶋
合同会社オトナキ代表。ライターと外国人支援事業の二足のわらじ。鹿児島県・沖永良部島在住。祖母と二人暮らし、帰宅が深夜になると40歳手前なのに叱られる。
Twitter

離島経済新聞社 石原みどり
『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。

父から「お前の船を造る」と言われ

福本さんは2014年に、家業の巻き網漁を継がれたのですよね。

はい。東京の大学院で水産経済を研究していたんですが、中退して島後(隠岐の島町)に戻り、24歳で継ぎました。

元々家業を継がれるつもりで学ばれていたのでしょうか?

ぶっちゃけるとそこしか受からなかったんですが、入ってから意識しましたね。修了後はどうしようかなとは思っていたんですが、途中で父親から「お前の船を造ろうと思うんだけど継がないか」と言われ、帰ることにしました。

それまでは継ぎたいと言っても、継ぐなと言われるような感じでしたね。

お父様にも心境の変化があったんでしょうか?

いやー、どうなんですかね。言うのを我慢していたのか、本当に継がなくていいと思っていたのか分からないですけど。そのときに初めて言われて心が動かされました。

大漁旗を掲げる「天祐丸」

巻き網漁へはどれくらいの人数で出漁されているのですか?

7隻で、25人くらいの体制です。私は網船(あみぶね)というメインの船で、漁労長(※)という役職に就いています。

出漁日は年間180日くらいですが、全国の巻き網漁では250日出ているところもあれば100日もないというところもあるそうです。巻き網以外にも、弊社には11月から3カ月間のズワイガニ漁部門もあります。
※ 操業の全てを取り仕切る船の総責任者

漁師になると同時に船を持つって、よくあることなんですか?

すごく稀なパターンだと思います。一隻20年以上使うので、造船は売上や造船所の混み具合を見ながらタイミングを決めるんですね。

私が乗る船も元々2〜3年先に造船の予定を立てていましたが、造船所から「キャンセルが出たので造らないか」という連絡があり、という感じで。そのキャンセルがなかったら今私は漁師をしていないかもしれないですね。

大漁に水揚げされたマイワシ

私は島に戻って1年半で今の漁労長という職に就いてるんですね。というのも、当時の漁労長が体調を崩して入院して、急遽私しかいないだろうと代わってそのままという感じです。船長になるには本来、みっちり教えて最低でも2〜3年ですね。

では、船舶や無線の免許は1年半で取られたんですか?

そうですね、帰ってから一生懸命勉強しました。

すごいですね、一発合格!

はい、なんとか。

「自分だけがいい」では成り立たない

犬束さんの丸徳水産では養殖や水産加工、レストラン運営もされています。また、対馬の海を守る活動として、磯焼けを起こして海の嫌われ者になっている魚を食べられるよう加工する「そう介プロジェクト」も展開していますよね。

リトケイのイベント「島の魚食WEEK」でも「そう介のメンチカツ」を提供したことで「これは何?」と島のことに話題が広がり、お客様に好評でした。

ありがとうございます。

未利用魚をおいしく料理し漁業を守る取り組みも行う「肴やえん」

直営レストランの「肴やえん」ではどんな魚を出されているのですか?

アラカブ(カサゴ)のから揚げやクエの刺身そのほか、これまで活用されていなかった魚を活かすメニューも提供しています。

そのひとつがサバの刺し身や塩焼きです。春先の対馬で釣れる鯖は小型の小さい鯖でお金になりません。

市場で価値のつかない「ローソクサバ」(小型のマサバ)を自己申告の数だけ漁師さんから買い取り、自社の海上生け簀で養殖し、半年から一年育てたものをレストランで提供しています。

また、対馬は穴子の水揚げ量が全国一で有名ですが、活魚でないと売れないので漁師さんは人にあげちゃうんですね。それも買い取り、穴子重や天ぷらにしています。

「肴やえん」で提供する料理

島の漁師さんたちとの関係性の中でお仕事されているのですね。

自分だけが儲かればいいという考えだと成り立たないですね、地元優先で考えないと。

対馬は2018年に韓国人観光客が40万人も来ましたが、今はコロナや政治的な理由で来なくなりました。

その中でどうにか経営を続けられるのは、地元のお客さんの支援。地域に貢献することで、うちも「丸徳水産さんがすることなら」と周りの理解を得られるので。

ホームページを見ているといろんな干物があって、バリエーションの豊かさを感じます。ウニ、穴子、サザエ、桧扇貝、あじ、かます、連子鯛、サバ…。

何でも屋さんです(笑)

「肴やえん」で出される穴子重

地域貢献は、会社の立ち上げから意識されていたんですか?

いえ。うちは社長である夫が脱サラしてはじめたんですが、当初はサザエやアワビなど資源も豊富で生活は楽でした。でも、周りの漁師さんたちの生活が徐々に苦しくなって、朝市をしても品物が徐々に少なくなっていく。

また、子どもたちが学校に行くようになってからはより「自分たちだけがいい」という想いが減り、意識が変わっていきました。

昔より減った海の幸と復活の取り組み

福本さんは、子どもの頃から食卓にいろんな魚が並んでいたんでしょうか?

そうですね。巻き網漁で捕れるもの、マアジ、マサバ、マイワシ、うるめイワシ、カタクチイワシ、この5種類。冬はブリがあったり。

冬はズワイガニが捕れるので、人の何倍も食べている自信がありますね。最近食べると身体が痒くなるので、ちょっとやばいなと思ってます(笑)

福本さんが食べ過ぎてしまったズワイガニは「隠岐松葉ガニ」(豊富な海の幸を食べて育った雄のズワイガニ)と呼ばれる島のブランド食材

どれだけ食べたのやら(笑)。魚を使った郷土料理はどんなものがありますか?

出汁をマサバで取り、具材もサバの身という「隠岐そば」がありますね。麺もつなぎを使ってないのか箸で切れるのですすれないんですよ。小さいときは「そばはかきこむもの」だと思ってたくらい。年越しでも「隠岐そば」を食べます。

年越しそばって、麺の長さを長寿にかけた縁起物ですよね(笑)

そうなんですよね、今考えると不思議な地域だと(笑)

蕎麦粉だけで打った太く短い麺を鯖のダシでとったつゆで食べる「隠岐そば」。ごまやネギ、ゆずなどの薬味が鯖のクセを和らげ、おいしくいただける

対馬では、どんな魚料理が親しまれていますか?

さつまいもを発酵させた麺(※)をクロ(メジナ)で出汁をとって食べる「六兵衛(ろくべえ)」がありますね。

あとは福本さんが言われたように、すするというよりすくう対州そば。あと、石焼きと言ってブリの切り身を熱した石の上で焼いて食べるものがあります。
※ さつまいもからデンプンを取り出して乾燥させた「せん」を、「六兵衛突き」と呼ばれる穴の並んだ箱に入れ、熱湯の中に押し出してつくる。

どちらもおいしそう!

クロ(メジナ)の出汁で食べる麺「六兵衛(ろくべえ)」
熱した石の上で魚介や野菜を焼いて食べる「石焼き」

犬束さんの子どもの頃も、海が身近だったんでしょうか?

海でサザエやミナと呼ばれる巻き貝やトコブシを捕っていました。あんまり裕福な家庭じゃなかったので、おかずを取りに行ってたようなものですね。

今は素人が行ってもプロが行っても捕れない。それだけ海藻が少なくなりました。

海藻を食べるイスズミやアイゴを捕っておいしく加工する「そう介プロジェクト」にもつながっていきますね。取り組みは環境変化への危機感も感じられての動きでしょうか。

ほとんどそうですね。水産普及センター(※)の若い子たちがよくお店にコーヒーを飲みに来てて、そこで熱く語ってたんですよ。

「駆除が上手くいってない」「イスズミが焼却処分されている」と聞き、もったいないなと感じたことから始まりました。
※ 長崎県対馬振興局 農林水産部 水産課 対馬水産業普及指導センター

熱意が伝播したんですね!ドラマチック。

ほかの魚が不漁でも、イスズミもアイゴもトン単位でたくさん捕れる水産資源なんです。付加価値を与えれば、漁師さんたちにお金が落ちる。

最近は学校給食で月2回使ってくれる学校もあるんですよ。全国的にこれほど食害魚を使う島もないと思っています。

「そう介」という名前はどなたが考えたのですか?

私です。色が黒いので古風な男の子をイメージして、創意工夫の創、おいしい惣菜に変わる惣、海を守る漁師さんの想いの想、海藻の藻、それに助けるという意味で介護の介で、「そう介」という名前を付けました。

全国漁業協同組合連合会主催の「Fish-1グランプリ」で受賞したそう介のメンチカツ

持続可能な漁業のためにしていること

「そう介プロジェクト」以外に、持続可能な漁業のための取り組みはありますか?

漁業者がお客さんを漁船に乗せて、漁業者が案内し、磯焼けや養殖の様子、地層や漂着ゴミを見て、海の可能性や課題について学んでもらう体験ツアーをしています。修学旅行の受け入れも行っています。

あとは私自身が、島外のいろんな集まりに出掛けて、いただいたいろんな知識や情報を家族やスタッフに話すようにしています。それを島のいろんなところで共有してもらうことが問題解決につながるかなと思っていますので。

体験ツアーは未来の漁業の担い手をつくるきっかけになるかもしれませんね。

養殖場から水揚げする様子

福本さんはどうですか?

最近は巻き網漁でもいわゆるSDGsの考え方に則った製品が出てきているので、なるべくそういう道具を使っています。ただ、海が荒れたときに仕掛けた網が流れてしまうこともあり、どうしてもゼロにはできない。

年に数回、漂着物にぶつかって、船体に穴が空いたり、プロペラが曲がったりすることもあるので。そこで最近は「SEABIN(シービン ※)」という海に設置するゴミ箱のようなものもあって、導入を検討しています。

シービンを仕掛けると漂着物が溜まっていくんですか?

はい、そうですね。毎日続けるためには簡単で導入しやすい、日々の運用が楽な方がいいので。取り入れやすいというのは大事ですね。

※ SEABIN(シービン)……水中に設置し、海洋浮遊ゴミを回収する装置。推定平均捕獲量は、1日当たり1.5kg、2mm超のマイクロプラスチックゴミもキャッチ可能
https://seabin.co.jp/

島への思いと読者へのメッセージ

島の魅力について聞かせてもらえますか?

「人」じゃないかなと思ってます。対馬には大陸との文化や歴史、動物にしてもツシマヤマネコなどがあるんですが、それよりも私は、対馬の魅力と言われたらまずは人でしょと言いたいですね。

犬束さんはお仕事でも島内のいろんな人とのつながりの中で活動されていますもんね。

はい、そうですね。

犬束さんとご家族の皆さん

福本さんには、2016年に『季刊ritokei』でコラム(※)を書いていただきましたね。

当時、島に戻られて2年くらいで「これから地元の魅力を探してみたい」と書かれていましたが、その後いかがでしょうか。
※ 2016年2月発行『季刊ritokei』16号掲載「島に帰り、網船を操縦する今」【島人コラム|島後・福本真悟】

良いところなのか悪いところなのか分からないんですけど、現状を受け入れて楽しんでいるところがあるので、一概にこれが魅力と言うことは難しいなと思っていて。

私も「人です」と言おうと思っていたら犬束さんが先に言われたので(笑)。まだ、自分の中で言葉にするには時間がかかる、魅力の定義からだなと思っています。

良し悪しって、表裏一体だったりしますもんね。

そうなんですよね。ほかの地域の話を聞いて、真似すれば良いと思うこともあれば、これは譲れないということもあるので。「島後はこれを推します」というのは、まだちょっと時間がかかると思っています。

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

いろんな島に行ってみたいし、リトケイの読者さんとも話してみたいと思っています。リトケイさんに何かイベントでも開いてもらって、そのときに交流したいですね。

全国の島が集まる「アイランダー」というイベントがありますね。

学生時代に「アイランダー」の地元の出展ブースを手伝っていましたよ。

そうした関わりが、地元に帰ることにつながったかもしれないですね!犬束さんもメッセージをお願いします。

海の環境も地球温暖化の影響を受けていて、私たちがどう暮らすかで環境の負荷が変わると思います。

私自身、大きなことはできませんが、大好きな海を思いやる気持ちで暮らしていきます。そんな仲間を一人でも増やせるよう、私なりに海業を続けていきます。

本日はありがとうございました!

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