新島の地質は世界の中でもかわった特性をもっている。その島の自然をつかってつくられる「新島ガラス」は世界でも知られた存在で、毎年秋には「新島国際ガラスアートフェスティバル」が開催される。世界中からアーティストが集まり、にわかに活気立つフェスをレポートする。
Page.1 自然から生まれる芸術品
浜に寝転がり、ふわーっとあくびをした手の先をみると、一粒一粒がガラスビーズのような透明な砂であることに気づく。この砂の正体は島の南部の大地をつくる「コーガ石」という名の特別な石。新島とイタリアのリパリ島でしか産出されない、世界的にみても稀少な資源だ。
軽量で耐火性・耐震性に優れることから、島では建築物に使われるほか、特殊なガラス質の石砂を利用し、「新島ガラス」がつくられている。
島の玄関口となっている黒根港から、歩くこと15分。透きとおるような海のそばに「新島ガラスアートセンター」がある。
1200℃の熱で溶かされ、澄んだ空気と十分に触れ合うことで深いオリーブ色のガラスになっていく。
このコーガ石に含まれるわずかな鉄分が、世界でも稀にみる「天然の色ガラス」をつくる秘密。島の空気をまとう新島ガラスはお土産としても人気がある。
Page.2 新島国際ガラスアートフェスティバル
この時期、都心では「東京デザイナーズウィーク」や「デザインタイド」など、さまざまなデザイン・アートフェスが開催され、盛り上がりをみせる。
ぼくが訪れた11月6日は、今年のガラスアートフェス最終日。アートセンタ-に入ると、入り口にはガラス加工用の道具がいくつも展示販売されていた。見たことのないユニークな形をしたハサミは、ガラスに模様をつけたり形を整えたりと、用途に応じて使い分けられるそうだ。
教室内は、野田館長とゲスト講師のパイク・パワーズ氏(プリッジポート大学教授)が参加者へのアドバイスにまわり、和やかな空気が流れていた。
しかし、工程が進むにつれて参加者の表情は、徐々に真剣になっていき、それぞれがつくり終えた型に、ドロドロに溶けたガラスを流し込むと、まるで生き物のように動くガラスに、参加者から「おぉ」と声があがった。
午後には、体験教室のほか、招待作家のデモンストレーションやスライドショーが続き、夜には恒例のガラスアートオークションが開催される。
これがなかなか活気があって面白い。部屋の中央にあるテーブルには、個性豊かな作品の数々が並び、近づいて見たり遠めで眺めたり、光にあてて底から見たりすることもできる。
Page.3 オークションとインスピレーション
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会場では、スタッフ手づくりのサングリアとほんのり甘いブラウニーが配られ、その力もあって、ついつい手をあげたくなってしまう。
落札金額が確定すると「ソールド!(落札!)」という威勢のいい声とともに、拍手が起こる。
会場をあとにして、センターのドアを開けると、頭上には手が届きそうなほど近いところに満天の星空が広がっていた。
なるほど、この澄みきった空気と、山上でも波音が聞こえてくるほどの静けさが、作家のインスピレーションを引き出すのだと納得した。時計の針に急かされることのない、おだやかな時間。パレットでは再現できない、幾重にもなったブルーの海。毎分ことなる表情を見せてくれる空。
開放的な空気と豊かな自然に包まれたこの島が、いつの日か芸術家やクリエイターの集まる特別な場所になることを想像した。
(text : Shunsuke Iwamoto)