つくろう、島の未来

2020年07月13日 月曜日

新島の地質は世界の中でもかわった特性をもっている。その島の自然をつかってつくられる「新島ガラス」は世界でも知られた存在で、毎年秋には「新島国際ガラスアートフェスティバル」が開催される。世界中からアーティストが集まり、にわかに活気立つフェスをレポートする。

  • Exif_JPEG_PICTURE
  • 新島の地質は世界の中でもかわった特性をもっている。
    その島の自然をつかってつくられる「新島ガラス」は世界でも知られた存在で、毎年秋には「新島国際ガラスアートフェスティバル」が開催される。世界中からアーティストが集まり、にわかに活気立つフェスをレポートする。

Page.1 自然から生まれる芸術品

浜に寝転がり、ふわーっとあくびをした手の先をみると、一粒一粒がガラスビーズのような透明な砂であることに気づく。この砂の正体は島の南部の大地をつくる「コーガ石」という名の特別な石。新島とイタリアのリパリ島でしか産出されない、世界的にみても稀少な資源だ。
軽量で耐火性・耐震性に優れることから、島では建築物に使われるほか、特殊なガラス質の石砂を利用し、「新島ガラス」がつくられている。

島の玄関口となっている黒根港から、歩くこと15分。透きとおるような海のそばに「新島ガラスアートセンター」がある。

  • g04
  • この施設は、新島出身のガラス作家、野田收(のだ・おさむ)さんが新島ガラスを製作する工房として1988年に設立。以来、島芸術の発信拠点となっている。施設の館長もつとめる野田さんの工房横には、世界中の著名作家による作品が展示される「ガラスアートミュージアム」も併設され、島の観光スポットとなっている。

1200℃の熱で溶かされ、澄んだ空気と十分に触れ合うことで深いオリーブ色のガラスになっていく。

このコーガ石に含まれるわずかな鉄分が、世界でも稀にみる「天然の色ガラス」をつくる秘密。島の空気をまとう新島ガラスはお土産としても人気がある。

  • g03
  • いくつもの窯が並ぶセンター内の工房は、熱がこもらないように高くとられ、天井の窓からはたっぷりと自然光が降り注ぐ。

    ここでは芸術作品以外にも、建築資材をはじめ島外からのオーダー品などの製作をしているそうだ。

Page.2 新島国際ガラスアートフェスティバル

  • g05
  • 毎年10月末~11月上旬にかけて、新島には世界中から著名なガラスアーティストが来島し、さまざまワークショップや体験教室をおこなう「新島国際ガラスアートフェスティバル」が開催される。

この時期、都心では「東京デザイナーズウィーク」や「デザインタイド」など、さまざまなデザイン・アートフェスが開催され、盛り上がりをみせる。

  • g10
  • 「新島国際ガラスアートフェスティバル」も今年で23回目と、国内でも歴史のあるフェスなのだ。これまでに参加講師・招待作家として世界各地から訪れたアーティストの数は、90名にものぼる。

ぼくが訪れた11月6日は、今年のガラスアートフェス最終日。アートセンタ-に入ると、入り口にはガラス加工用の道具がいくつも展示販売されていた。見たことのないユニークな形をしたハサミは、ガラスに模様をつけたり形を整えたりと、用途に応じて使い分けられるそうだ。

  • g08
  • 午前中は工房で、サンドキャスティングの体験教室が開かれていた。

    細かい砂を敷き詰めた大きな箱に、積み木やハートを押し込んで型をつくり、そこに溶けたガラスを流し込んで、ガラスをつくるという教室だ。

教室内は、野田館長とゲスト講師のパイク・パワーズ氏(プリッジポート大学教授)が参加者へのアドバイスにまわり、和やかな空気が流れていた。
しかし、工程が進むにつれて参加者の表情は、徐々に真剣になっていき、それぞれがつくり終えた型に、ドロドロに溶けたガラスを流し込むと、まるで生き物のように動くガラスに、参加者から「おぉ」と声があがった。

午後には、体験教室のほか、招待作家のデモンストレーションやスライドショーが続き、夜には恒例のガラスアートオークションが開催される。
これがなかなか活気があって面白い。部屋の中央にあるテーブルには、個性豊かな作品の数々が並び、近づいて見たり遠めで眺めたり、光にあてて底から見たりすることもできる。

Page.3 オークションとインスピレーション

  • g11
  • オークションが始まると、会場のモニターに作品が映し出され入札がスタート。スタッフが作品を持って参加者の間を練り歩く。進行役をつとめる野田館長が楽しそうに作品の紹介をしていくと、「7,000円!」「7,500円!」と入札の声があがる。

会場では、スタッフ手づくりのサングリアとほんのり甘いブラウニーが配られ、その力もあって、ついつい手をあげたくなってしまう。
落札金額が確定すると「ソールド!(落札!)」という威勢のいい声とともに、拍手が起こる。

  • g12
  • ニンマリと笑いサインをする落札者。その横で惜しくも落札を逃した人が、うらやましそうに覗き見をしている。のんびりとした雰囲気の中で繰り広げられるオークションは、お目当ての作品を手に入れようとやってきた人も、ただ見物にきた人も、和気あいあいとした時間の流れを楽しんでいた。

会場をあとにして、センターのドアを開けると、頭上には手が届きそうなほど近いところに満天の星空が広がっていた。

なるほど、この澄みきった空気と、山上でも波音が聞こえてくるほどの静けさが、作家のインスピレーションを引き出すのだと納得した。時計の針に急かされることのない、おだやかな時間。パレットでは再現できない、幾重にもなったブルーの海。毎分ことなる表情を見せてくれる空。 開放的な空気と豊かな自然に包まれたこの島が、いつの日か芸術家やクリエイターの集まる特別な場所になることを想像した。

(text : Shunsuke Iwamoto)

関連する記事

ritokei特集