つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

鹿児島県の奄美大島(あまみおおしま)で、島内の自治体が連携し「奄美大島生物多様性地域戦略」を策定した。複数の自治体が共同で戦略を策定するのは、全国初の事例。島の生物多様性を守り、人と自然が共生するモデル地域を目指す。(写真提供:奄美野生生物保護センター)

■全国初!複数自治体が連携し策定された生物多様性地域戦略

2015年3月、鹿児島県奄美大島の奄美市、龍郷町、大和村、宇検村、瀬戸内町の島内5自治体が連携し、「奄美大島生物多様性地域戦略 ~自然と共に生きる奄美のしま創りプラン~(以下、戦略)」が策定された。2008年に施行された生物多様性基本法 第13条で、地方公共団体における生物多様性地域戦略の策定が努力義務とされており、2015年3月末で35都道府県、14政令指定都市、48市町村の合計97が策定を済ませている。このうち、複数の地方公共団体による策定は、全国で初の試みだ。

アマミノクロウサギ:奄美大島と徳之島にのみ分布する固有種。絶滅危惧IB類

奄美大島は亜熱帯北限域に属し、世界の亜熱帯域のなかでも限られた地域でしか成立しない亜熱帯性多雨林に、アマミノクロウサギやアマミスミレなどの希少な動植物が生息・生育するなど生物多様性に富んでおり、「奄美・琉球」としてユネスコの世界自然遺産への登録を目指している。しかしその一方で、外来生物の侵入による生態系への影響やノネコなどによる希少野生生物の捕食、自動車によるロードキル被害、希少動植物の盗掘・盗採などの課題を抱えている。

今回策定された戦略は2015年度から10年間を実施期間とし、重点施策として、「希少野生生物の保全活動及び生物多様性一般化事業」など8項目を挙げている。「奄美・琉球」の世界自然遺産登録なども視野に入れ、一貫性を持った環境保全と地域振興のガイドラインを示し、人と自然が共生するモデル地域の構築を目指す。

■世界自然遺産登録に向けた、希少動植物保全の取り組み

奄美大島の5市町村は、2013年度に57種の希少野生動植物の保護条例策定に取り組んだ。野生動植物の保全を図るためには単独の自治体の取り組みでは効果が見込めず、島内の5市町村で共通するルールに則り希少種の捕獲や利用を制限する必要があったからだ。今回の戦略策定は、各市町村が策定した保護条例をふまえ、具体的な行動指針として策定された。

奄美市市民部環境対策課 世界自然遺産推進室の林 孝浩室長は、「世界自然遺産登録へ向けた保護条例策定のために検討会を重ね、各市町村の担当者が連携を深めてきたことが、共同での戦略策定につながりました。地域振興と環境保全の両立に向けて島内で共通の指針を作れたことは大きい。市町村それぞれの状況により重点項目の優先度は異なると思うが、本戦略を基に今後も島内の連携を図っていきたい」と語る。

アマミエビネ:奄美大島固有の地生ラン。絶滅危惧IA類。

■豊かな自然環境と、自然と共生する文化を伝承するために

戦略の行動計画では、生物多様性の保全・管理とともに生物多様性の持続可能な利用を目的に掲げている。環境に配慮した体験型観光や、環境保全型の農林水産業、里地、里山、里海の適正利用などを通じ、持続可能な社会の実現を目指す。奄美大島で野生生物の保護にあたる環境省奄美自然保護官事務所の自然保護官 岩本千鶴さんは、「今後の事業実施に向けては、市町村の担当課だけでなく様々な部署が横断的に取り組めるよう、行政組織の体制整備も必要では」と話す。

戦略は5年目の2019年度と10年目の2024年度に検証を実施し、内容の見直しや修正を行う予定となっている。「戦略は策定して終わりではなく、効果の測定をしっかりと行いつつ、軌道修正を行うことが大切です。戦略で示した課題への対策を具体化し、全島で取り組むことで成果が得られることと期待しています」(岩本さん)。

多様な生物を育む自然環境と、自然と共に暮らしてきた島の文化を未来の島人たちへ伝承していくため、奄美大島の市町村が手を取り一歩を踏み出した。国内初の連携事例として、今後も注目したい。

     

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