つくろう、島の未来

2024年11月25日 月曜日

つくろう、島の未来

2023年3月、リトケイは『島の未来計画(仮)』という本をつくる挑戦を始めました。

『島の未来計画(仮)』は、全国の島々で取り組まれてきた「地域づくりの好例」や「島の可能性」「島を担う人々の想い」を集めて編集する本。クラウドファンディングを通じて募ったご支援を元に、全国の島々で活動するキーマンや、離島振興の専門家、クリエイターなどと連携して制作。全国の島の学校や役場などへ寄贈したいと考えています。

そんな『島の未来計画(仮)』は、どんな場面で役に立つのか?

『島の未来計画(仮)』の必要性について、3つの島で島を伝える情報デザインに携わってきた3人とリトケイ編集長・鯨本が語り合いました。

▼人口減を可能性に変える本『島の未来計画(仮)』を皆でつくり届けたい(READY FOR)
https://readyfor.jp/projects/shimahon

島を支える人にとって「本当に役に立つ本」をつくりたい

鯨本

甑島のケンタくん、五島列島・福江島の有川さん、小豆島のけりぃちゃんはそれぞれリトケイの立ち上げ頃から10年以上、リトケイの取材や企画をご縁につながってきました。それぞれ情報デザインも仕事にされているので、勝手ながら私は同志とも思っています。

皆さんそれぞれが10年以上、島の地域づくりに携わってきているわけですが、今回改めて『島の未来計画(仮)』づくりの相談をさせていただいた理由は、この本をリトケイの独りよがりではなく、島の方々にとって本当に役に立つものにしたいからです。

鯨本

例えば、ケンタくんはこの2月にはふるさとづくり大賞「内閣総理大臣賞」を受賞していて、優れた事例として評価される取り組みがたくさんあります。そういう好例をリトケイはメディアからも届けてきたのですが、(自分でいうのもなんですが)いかんせん新聞とウェブメディアなので保存性には優れないんです…..。

そこで『島の未来計画(仮)』という書籍にまとめ、枕元に置いて毎日読めるようなバイブルとして、未来の担い手に届けたいと考えたわけですが、この本がホントに役に立つためにはどんな要素が含まれるべきか、皆さんに伺いたいです。

黒島

私は最近、小豆島にUターンする人に向けた冊子をつくっているのですが、小豆島の未来を見つめるために、全国の島のことを知る必要があると実感しています。だから、例えば自分自身がどういう状況にあるのか、姿を現す鏡のようなものが欲しい。それからやっぱりケンタさんの取り組みのように良い事例は知りたいですね。

鯨本

写し鏡があると良いですよね。 そうすると客観的なデータがあるとよいですが、一言に「島」といっても、人口規模もアクセス環境も産業構造も違っている上、社会変化によっても変わってしまう。

離島に関する統計もあるけど、過去数十年で見ると市町村合併や法律が変わったことでデータの取り方が変わることがあるので、一律に同条件で取られ続けたわかりやすいデータってないんですよね……。

有川

データで言えば五島市は2060年に10,900人くらいになると予測されているんです。今が人口34,000人くらいなので、五島市は2060年時点で20,000人を維持する目標を立てています。

鯨本

さすが社会増を実現されている五島市。明確な数字があると対策も具体的になりますよね。

有川

2060年時点で20,000人を維持するためにはさまざまな課題があるんですが、一番大きいのは「住まい」の問題ですね。最近は仕事はあっても住まいの在庫がほぼない状況で、教職員や郵便局などの必要に迫られた異動の方でも家がなかなか見つからない状態だから、移住したくても家がないんです。

鯨本

それほどないんですね。でも空き家は存在していて、空いているけど何らかの理由で貸せないという家はたくさんあるんですよね……。

ヤマシタ

私の集落も1/4程度が空き家。だから誰かを待つだけでなく、自ら働きかけようと思い不動産や移住定住の促進、人材育成を担う島守株式会社を新たに立ち上げました。

鯨本

島を守る島守、名前もすてきですよね。

ヤマシタ

今はいろんなものごとが「右肩下がりの時代」で、日本全体でも誰もそんな時代の戦い方を知らない。だから、離島には課題先進地としての役割もあると思います。

離島にある課題を構造分解してみて、どういう見方をすれば「課題」ではなく「希望」とか「可能性」みたいなものとして見れるようになるのか?

『島の未来計画(仮)』は、将来に向けて目を向けなければならない課題を課題としてだけでなく、希望や兆しとして見せたいですね。

鯨本

ピンチはチャンスというか、視点を変えることで「課題」も「可能性」として捉えることができますよね。

ヤマシタ

イラストを活用して(島の課題を)構造分解したページがあったり、例えば医療などのテーマ別にその課題に挑んでいる人のインタビューがあったり。

それぞれの島だけでは解決できないことを、地域間連携や離島間連携で解決して新しい価値が生まれた事例とか、企業や学校が異業種とコラボすることで前に進んだ事例など。課題ありきではなく、島の可能性にフォーカスしている本なら読んでみたいです。

鯨本

それでいて島の未来を担うかもしれない中学生くらいの子どもでも読めるよう、わかりやすさを追求したいです。

ヤマシタ

島との関わり方のヒントであり、現在島で頑張っている人たちの背中を押すものでもあって欲しい。「右肩下がりの時代の教科書」ですね。

島を支える一人ひとりが「明日もがんばろう」と思えるように

鯨本

そんなケンタくんはこれまでも、いろんな人に「無理だ」と言われるような地域づくりに挑戦し続けてきたわけですが、同じ島に住む人がケンタくんの挑戦を理解しているかといえば、知らない人もいるかもしれない。

私がリトケイをゼロイチでつくる時も理解されていたかといえば必ずしもそうでなかったんですが、そういう風に「無理だ」と言われることをやってる挑戦者って、表向きには元気に活動していても水面化で孤独を感じることもありますよね。

一同

(うなずく)

鯨本

そこで期待するのは甲子園効果で。ライバル関係にあるような近しい相手のことって、日頃はお互いに憎まれ口を叩いたりするんですが、甲子園のように全国の強者と肩を並べて戦う状況がみえると「がんばれ!」と応援したくなる。

だから、『島の未来計画(仮)』という一冊で、全国の島でそれぞれの課題に立ち向かっている挑戦者が可視化できると、それぞれの挑戦者が応援されたり、「明日もがんばろう」と思えたりする状況も生まれるんじゃないかと。

黒島

そうですよね。島に住んでいる人じゃなくても、せとうちDMOや瀬戸芸、私も以前編集で関わっていた『せとうち暮らし』など、瀬戸内の島々を応援するいろんな組織や人がいて、それぞれのやり方で瀬戸内の島々の良さを見出し、盛り上げています。これらの組織に私も関わってきたのですが、そこで気づいたことは、「島の規模が違う」ということを、念頭に置いて考えないといけないことです。

小豆島は人口も多くて仕事も学校もあるので、小豆島の感覚で人口規模の少ない島のことを考えてはいけない。 仕事も学校もない島のことはその尺度で考えないとぐちゃぐちゃになってしまうんです。

鯨本

ほんとにそうで、リトケイでも特集をつくる時もなるべく人口規模の異なる事例が出せるように意識してきました。

ヤマシタ

人口規模に差があり過ぎると参考にならないことが多いですよね。一括りに島と言っても、例えば50人という小規模離島の人が、奄美大島(人口約6万人)の事例を聞いても届かない。

地域振興の計画策定をするとしても、例えば、50人くらいの規模なら? 1,000人なら? 1万人なら? という規模感を大切にして考えるとより自分ごとで島の未来を考えやすくなるかも。

1万人の町でも50人単位の集落規模で分解して考えることはできるので、(『島の未来計画(仮)』は)島がメインの話になるものの、島以外の人に届けられるメッセージもある。

離島の規模感、人口の大小に合わせて「一人でもできること」「集落、自治会単位でできること」と思考していく考え方は、行政側にとっても重要になりますね。

鯨本

私は2020年に沖縄県の「新たな離島振興計画」の策定に向けた有識者会議の委員に入ってたんですが、そこで沖縄離島の施策を考えるにも、人口規模やテーマ別にグルーピングすることが重要だよねという話になったんです。

それまで沖縄離島は八重山圏域、宮古圏域といってエリアごとに振興していたわけですが、大きな病院がある島と診療所もない島では医療問題の解決策も違ってくる。だから、人口規模やアクセス条件、学校の有無、医療環境などで似ている環境にある島をグループ分けして、課題解決策を考えていきましょうという流れになったのは良いことだなと思いました。

それと同じように、全国の島の事例も人口規模やテーマごとでグループ分けして、それぞれの規模・条件での好例を知れたらいいんじゃないかと思うんです。

ヤマシタ

私が暮らす甑島の旧里村は、1,000人規模の村でしたが、海を越えた広域合併により10万人都市になりました。もともと、甑島列島には4つの村があったんですけど、合併後に大きくなったのは自治体の人口規模だけで、旧村役場や学校等も次々に集約されています。合併当初は、若手職員も予算の権限等も本土側に移行していくという状況になりました。

鯨本

その問題もありますね。行政区の問題で、甑島は本土側の自治体の一部が離島という「一部離島」で、大分県の姫島のように姫島村=姫島のような1島1自治体に比べると、権限や予算の使い方が難しい。

だから『島の未来計画(仮)』で島をグルーピングするなら、甑島のような一部離島パターンや、姫島のような1島1自治体パターン、竹富島や西表島のように複数の離島で1自治体というパターンなど、行政区分のパターンも見れるようにしたいです。

SDGsやふるさと学習の教材や、地域おこし協力隊の資料としても

鯨本

『島の未来計画(仮)』は、未来の担い手に読んでもらいたい本なので役場や学校に寄贈したいと考えていますが、その点、この本はどんな場面で役に立てるでしょう?

有川

五島だけでなく、長崎県の高校はビジネスコンテストや郷土学習がとても盛んだと思います。学習の中でも地域におけるSDGs目標を達成するためのアイデアを実際に考えるような取り組みも多く、『島の未来計画(仮)』はそんな学習の基礎資料になると思います。

黒島

同じく学校の学習で役立てればいいなと思うのと、島で活動する地域おこし協力隊の方にとっても役に立つと思いますね。

ヤマシタ

鹿児島の離島は、地域おこし協力隊や移住者の定着率が決して良いとはいえず、私も来年度は移住相談デスクのような立場で支援に入る予定があります。

鹿児島県にも協力隊の相談窓口はあるんですが、そこに離島のエッセンスが欲しいといわれているので、『島の未来計画(仮)』はそういう場面でも活用できたらいいなと思います。

鯨本

学校での学習に地域おこし協力隊向けの参考資料になるなら『島の未来計画(仮)』としても本望です!

ヤマシタ

甑島の中学校でもふるさと学習は増えていて、「将来は島に帰ってきたい」という子どもたちも多いけど、実際のところは帰ってきていない現状。

一つの理由に、その子ではなく親が帰って来て欲しいと考えていなかったり、「島流し」にあったような感覚で島の学校に赴任してくる先生もいたり、親や先生の考え方が、帰りたいという子どもたちの考えとイコールではないこともあると思う。

大人が子どもにかける言葉は重たいので、『島の未来計画(仮)』が、親や先生にとっても島に未来を感じられる教科書になったらと思います。

鯨本

ふるさと学習で子どもたちが島に帰ってきたいと思っても、大人から「帰ってくるな」「継ぐな」と言われたら帰りにくい。それでも帰ってくる人も、よっぽどのメンタルがないと続かない。みんなが帰ってきやすい空気をつくるエッセンスになりたいです。

ヤマシタ

島には課題もあるけど、可能性もある。『島の未来計画(仮)』があると、子どもたちにも「ふるさととは何なのか」「島とは何なのか」と伝えやすくなると思います。子どもたち自身が読んで考えることも重要だし、親や先生側にとっても大事。

黒島

ケンタさんみたいに民間ベースで、島と外の人とをつなぐ立場も大切だから、 そういう人の動きを紹介するページもあるといいですね。

鯨本

確かに。最近、リトケイでは人口500人未満程度の小規模離島の海洋ごみ問題を調査して、『季刊ritokei』41号でも島のごみ問題を取り上げたんですが、海洋ごみ問題が深刻な対馬では海洋ごみに関する取り組みや情報を取りまとめる民間組織があって、人的ネットワークや知見が集積されているんです。

そうした役割を役場担当者だけが担ってしまうと、人事異動で知見が引き継がれなくなってしまうことがあるけど、民間ベースの受け皿があると柔軟に引き継ぐことができる。

空き家問題でも移住定住でも産業振興でも、民間ベースの関わりしろが可視化できると、外から島に関わりたい人にとって「この人と連携すればいいのか」というヒントになりますね。

有川

「一人でできること」「みんなでできること」が提示されていて「自分もできるかもしれない」「自分も関われるかもしれない」と思えることが、この本の軸なのかなと思いました。

話の規模があまり大規模になりすぎると、自分にはできないと思う人もでてきてしまうので、自分もこれだったらできると思うことが大事かなと思いました。

鯨本

一人でできることでいえば例えば不用意に「島には何もない」と言わないとか。

海士町の秀逸なコピーを例にすれば「ないものはないけど必要なものはすべてある」と考えることができるので、ポジティブな思考を広げたい。それが島の課題を可能性に変える第一歩になると信じています。


リトケイでは4月23日までの期間中、ここで語られた『島の未来計画(仮)』の書籍化を実現するためのクラウドファンデングに挑戦しています。

▼人口減を可能性に変える本『島の未来計画(仮)』を皆でつくり届けたい(READY FOR)
https://readyfor.jp/projects/shimahon

『島の未来計画(仮)』は、リトケイ読者の皆さんをはじめ、島とその未来に興味を持つ方々と一緒につくりたい書籍です。プロジェクトページより詳細をご確認のうえ、どうぞ温かいご支援をいただけますようお願いいたします。

▼インターネットからの手続きが難しい方は「代理支援」窓口をご利用ください
https://readyfor.jp/projects/shimahon/announcements/260538

     

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