つくろう、島の未来

2024年03月19日 火曜日

つくろう、島の未来

企業の課題解決を図る技術で、島の課題解決ができないか。そんな実証実験が北海道の離島・奥尻島(おくしりとう)で進んでいる。奥尻町のまちづくりを担当する干場洋介さんと、情報を「見える化」するデータビジュアライゼーション技術を提供する富士通デザインの湯浅基さんに話を聞いた。

※この記事は『季刊ritokei(リトケイ)』23号(2018年2月発行号)掲載記事になります。

ないないづくしの島に「すごい!」を生み出したい

「魚が獲れなくなり、人も観光客も減り続け、町の財政にも不安要素がある。ないないづくしの島に『すごい!』という空気を生み出せたら」−−。そう語る干場さんは、自身が生まれ育った奥尻島でまちづくりに携わるひとりとして、日々、島の課題を超えるアイデアを探している。

「たとえば奥尻島の観光では、団体客から個人客に移行しているのに、そのニーズに十分応えられていません」(干場さん)。島の課題を解決するにはどうしたら良いか。その答えを探す干場さんは、島を訪れていた慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の教授らと意見交換を行った際、「奥尻島を実証実験の島にするのはどうか?」というヒントを得た。その後、実証実験のパートナーとなる企業を探していたところ、昨秋、富士通デザインの湯浅さんと出会った。

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奥尻島の人口は約2,800人。函館空港から飛行機で約30分、豊富な海の幸や山の幸、自然景観に恵まれるが、多くの島と同様に、人口減少や産業衰退による悩みを抱えている。(提供・奥尻島観光協会)

ビッグデータならぬスモールデータを活用

   

企業の課題解決を図るICT技術やシステムデザインを提供する富士通デザインでは、「現場の作業効率を上げたい」「鉄道が遅延する原因を突き止めたい」といった悩みに対して、パソコン画面を見るだけで、ものごとの状況や課題を視覚的に把握できる「データビジュアライゼーション」という技術を提供している。

人は情報をもとに行動を決定するが、情報不足や読み取りづらさがある場合は、正しい行動を取ることができない。データビジュアライゼーションは、必要な情報や、読み取りづらい情報をわかりやすく「見える化」することで、人々が課題に気づき、何をすべきかを考えることができる技術として、国内外の工場や交通機関などで活用されている。

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湯浅さんが担当した中国の国営企業向けのデータビジュアライゼーション技術は、「ビッグデータ×視覚化×日本製造業の実践知で、工場経営に新たな気づき・判断・行動をもたらすシステム」として、2017年のグッドデザイン賞を受賞。

ただ、離島地域はもちろん自治体への導入例はほとんどないため、湯浅さんは奥尻島に足を運び、住民らと意見を交換。島に貢献する技術のあり方を探求した。「たとえば、工場でのデータ活用なら、毎秒毎分の膨大なデータをとって、無機質に活用するパターンが多いのですが、それを奥尻島でやるのは違うだろうと感じました」(湯浅さん)。試行錯誤を繰り返すなか、ビッグデータの活用ならぬ「スモールデータの活用」というコンセプトが思い浮かんだ。

「通常とは真逆のコンセプトになりますが、島の場合は量よりも質。データ収集も一部は人海戦術になるかもしれませんが、観光分野であれば『この時間のあの景色はいいよ』という住民やリピーターの意見を、データとして活用できるかもしれません」と湯浅さん。

それは「個人客のニーズに応えきれていない」という奥尻島の課題を解決する一手にもなりうる。奥尻島の課題にデータビジュアライゼーション技術を活用するプロジェクトは、ひとつの実証実験としてこの春より少しずつカタチになっていくという。

 

小さな島だからできる実証実験という可能性

こうした実証実験を進めていくなかで、「奥尻島ではこんなこともできるんだ!と知ってもらいたい」と干場さん。その背景には、山積する島の課題だけでなく「危機感を持ちながらも、島で暮らしている自分たちがこの状況を楽しめるようにしたい」という願いもある。

「スモールデータを活用した実証実験では、関係者のみならず、小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで幅広い人の意見が重要になるため、一般の人にも参加してもらえたら」。実証実験が島の人々の希望や誇りになることを願っている。

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奥尻島では、実証実験に向けた住民との意見交換としてワークショップを開催。さまざまなアイデアがプロジェクトに反映される。

観光以外でも、「島での子育てが不安というお母さんが集まれるコミュニティスペースがあったら」「島に帰ってきたい出身者の働き口をつくれたら」など、住民が持つ悩みを島外企業との実証実験で解決できたらと干場さんは展望する。

そんな奥尻島との連携について、 島外企業の立場から島を見つめる湯浅さんは、「規模の大きい自治体だとなかなかものごとが動かない。奥尻島とのプロジェクトは異例のスピードで進んできました」と驚く。「奥尻島のワークショップでも島の方からもどんどん意見が出てきたことが印象的でした」(湯浅さん)。そんな奥尻島と企業との実証実験により生まれる、島の新たな未来が楽しみだ。

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干場洋介(ほしば・ようすけ)
奥尻町役場 地域政策課政策推進係。奥尻町出身。奥尻島民のLove & Prideを醸成する一般社団法人イクシュンシリ・デザインの担当者としても活動。

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湯浅基(ゆあさ・もとい)富士通デザイン株式会社 サービスインテグレーション・デザイングループ/人間中心設計専門家のデザイナーとして活躍。

<お問い合わせ先>

奥尻町地域政策課政策推進係
〒043-1498 北海道奥尻郡奥尻町字奥尻806
TEL:01397-2-3403
URL:http://www.town.okushiri.lg.jp/

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「島の暮らしをより良くしたい」「人口減少を止めたい」「産業を元気にしたい」−−。そうした「島づくり」の希望を叶える一助になるかもしれない、ソリューション(問題解決策)や島々で実施されている取り組みをご紹介。掲載内容についてのお問い合わせは、各ページのお問い合わせ先または離島経済新聞社までご連絡ください。(制作・離島経済新聞社広告企画制作チーム)

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』23号 「島づくり」特集連動記事

現在、日本では「東京一極集中」「消滅可能性地域」「地方創生」といった言葉が踊り、離島地域に限らずさまざまな地域で振興策が促されている。そこで『季刊リトケイ』23号では島々の地域振興事情を特集。それぞれの島で人々が健やかに暮らしていくためには、どんな考えを持ち、何を実行すべきか。読者・有識者・島づくりの実践者の声をもとに、愛する島の未来を築く島づくりのヒントを集めました。特集記事はじめ紙面にて紹介した記事のノーカット版等を、有人離島専門ウェブメディア『離島経済新聞』にて公開しています。

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