つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

リトケイ編集部の石原と、沖永良部島在住のライター・ネルソン水嶋が海の仕事に携わる人々に話を聞く「島々会議」13組目のゲストは、高島(たかしま|岡山県)で親子三代にわたりタコツボ漁を続ける竹田さんと、広島県福山市でマイクロツアー「瀬戸内SamPo」を展開する伊藤さん。

コロナ禍で旅行自粛ムードが広がりはじめ、もう少しで3年が経とうとしています。はじめの頃は逆境を活かそうと全国各地でオンラインツアーが生まれ、今ではすっかりと定着。その大体の「型」は、事前に送られてきた特産品をつまみ、映像を見ながら語らうというもの。

そんな中、2022年に岡山県の笠岡諸島・高島(たかしま)で8回にわたり開催された【ドキドキのタコツボ水揚げLIVE中継】は、タコツボオーナーとして、自分が選んだタコツボにタコが入っているかを見届ける、他に類を見ないハラハラドキドキのオンラインツアーです。

体験した方の中には、8回全てに参加したリピーターも。水揚げ量が減り「厳しい海」となりつつある瀬戸内で生まれたツアーは、「タコ」と「生配信」を通して人とのつながりを生み出しています。

人物紹介


有限会社竹田水産 竹田航平さん
岡山県の笠岡諸島・高島でタコツボ漁やノリ養殖などを行う。祖父が笠岡市で初めて取り組んだタコツボ漁を、2014年に三代目として継ぐ。高島で営むペンション「カーサ・タケダ」では、名物のタコの丸揚げなど高島の海の幸を提供している。


有限会社福山サービスセンターイトウ 伊藤匡さん
旅行サービス手配業を営む。父が1982年に創業し、2014年に二代目として家業を継ぐ。地元のマイクロツアーに特化した「瀬戸内SamPo」では、地域に根ざした小さな旅行会社ならではの「ちょっとおもしろい」体験旅行の企画に力を入れている。
瀬戸内SamPo


ライター・ネルソン水嶋
合同会社オトナキ代表。ライターと外国人支援事業の二足のわらじ。鹿児島県・沖永良部島在住。祖母と二人暮らし、帰宅が深夜になると40歳手前なのに叱られる。
Twitter


離島経済新聞社 石原みどり
『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。

【前編】瀬戸内でタコツボ漁師とツアーのプロが出会った

竹田さんは、ご実家がタコツボ漁をされていたのでしょうか?

そうです。おじいちゃんが笠岡市で最初にタコツボ漁を始めたらしく、僕も子どもの頃から父親と三人でよく漁へ出ていました。家業を継いで10年くらいになります。

高島は人口70人ほどですが、漁業者はどれくらいいるんですか?

12〜13人くらいです。高島は本土から5分で行けるので、ほとんどの住人は本土側に家を建てて島に通っています。島で生活している人は、昔から住んでいるおじいちゃんおばあちゃん3~4人くらいですね。

伊藤さんは福山市で旅行業をされていて、福山・瀬戸内エリアを楽しむツアー「瀬戸内SamPo」を展開されています。今回お話を聞かせていただく【ドキドキのタコツボ水揚げLIVE中継】も、そのひとつですね。

もともとは団体旅行の企画をしていたのですが、コロナの影響で 遠方のツアーが動かなくなり、お寿司屋さんでうんちくを聞きながらお寿司を握る体験など、地元の人に地元のを楽しんでいただくマイクロツアーとして「瀬戸内SamPo」を始めたんです。

伊藤さんと竹田さんは、日頃からお付き合いがあったんでしょうか?

いえ、竹田さんとは他の企画で島に行ったときに知り合いました。何度か会うなかで、他の地域でタコツボオーナー制度というものがあると知り、「ここでもできるのでは」と相談したら初めての試みにも関わらず「できますよ」と即答。

漁師は堅い人が多いイメージだけど、竹田さんは前向きに考えてくださるので、すごく組みやすかったですね。

タコツボオーナーになって水揚げを見守る【ドキドキのタコツボ水揚げLIVE中継】の様子

やりがいは、楽しさと、瀬戸内のタコを届けること。

どうして「タコツボ漁のライブ配信」になったのでしょうか?

タコツボのオーナーさんを募集するにあたって、ただ写真を見せて結果をお知らせするより生配信で水揚げの様子を見せた方が信憑性もあるしワクワクすると思ったんですね。

漁の様子もお客さんに楽しんでもらえそうだと思い、竹田さんに「ライブ配信しましょうよ」と話を持っていきました。

コロナ禍でなかなか地方へ出かけられないなか、例えば酒蔵を紹介するなど、全国のいろんな地域の生産者さんとネットでつなぐオンラインツアーが生まれましたよね。

結果的にオンラインツアーという形になりましたが、実はその言葉はあまり使ってはいないんです。

お土産みたいに商品を送るオンラインツアーとは違って、【ドキドキのタコツボ水揚げLIVE中継】ではお客さんが申し込むときに自分でタコツボを選ぶので、ライブ映像で見るタコツボに対して「自分のもの」という認識が生まれる。そこが楽しさだと思っています。

竹田さんの水揚げを固唾を飲んで見守りながら「タコが入っていた!」「入っていなかった!」とハラハラドキドキしながら結果を見守るわけですね。

墨抜きして、希望者には茹でて配送してくれるので、普段魚を捌いたりしない人でも参加しやすいですね。

ツボにタコが入っていなかった場合は竹田さんが養殖しているノリが送られる。

配信しながらの漁は普段と勝手が違うと思いますが、竹田さんは実際やってみて、いかがでしたか?

ライブ配信をすると、一人で漁をやるよりも倍の時間がかかりますが、お客さんからの反応が分かるので、お金うんぬん関係なしに新鮮でおもしろかったですね。

タコツボを水揚げする竹田さん

竹田さんにとって、ライブ配信もタコツボオーナー制度も初めての試みだったと思うんですが、伊藤さんから提案があったときにどう感じましたか?

昔は漁で捕れる魚も多く値段も良かったので、それなりに生計も立てられたらしいんですが、今は普通に漁をしていても生活がギリギリできるレベルだとうすうす感じていたんです。

そこで伊藤さんから話があり、同じタコが100円でも200円でも高く売れるならうれしいし、毎日同じことの繰り返しではなく、変わったことをやることでモチベーションも上がる。

どういう結果になるか予想はできなかったけど、おもしろそうだし、協力してみようと思いました。

収益面では、どうでしたか?

箱代や送料もかかるので、実は市場に出すのとそれほど儲けは変わらないんです。

ただ、この辺りのスーパーにしても、外国産か北海道産のヤナギダコの2種類しか置いていないので、瀬戸内産のタコを味わってもらえることに、やりがいを感じています。

確かに、国産のタコを見かけないですよね。昔はもっとあった気がするんですが。

海が変わってきていますね。これまで当たり前に捕れていたものが捕れなくなってきている。瀬戸内は漁師にとって厳しい海になってきています。

ライブ配信では瀬戸内の風景や、竹田さんと伊藤さんの掛け合いも楽しみのひとつ

おタコしみ袋販売ページ | 瀬戸内SamPo

>>島々会議013「魚食を支える島の仕事人」13組目(高島)瀬戸内のタコは、タコの概念を変える味【後編】に続く


この企画は次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

日本財団「海と日本プロジェクト」

さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。

     

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