つくろう、島の未来

2024年11月24日 日曜日

つくろう、島の未来

琵琶湖の東南に位置する沖島(おきしま)は、淡水湖上に浮かぶ日本唯一の有人島。琵琶湖の恵みを受け、住民は主に漁業を生業としながら穏やかに暮らしています。湖上の隠れ家のような存在である沖島を訪ね、島人の皆さんから沖島の過去、現在、未来について伺いました。

文・写真 上島妙子

数百年続く豪快な火祭り「佐儀長」

JR近江八幡駅から路線バスに揺られて30分ほど、湖はまだかな、と少し不安になった頃、突然目の前に小さな港が現れます。沖島への通船が出発する堀切港です。ここから通船「おきしま」に乗船し、沖島を目指します。

漁船がひしめく沖島港

この日はちょうど「佐儀長(サンチョー)」という行事が開催されていました。佐儀長とは、門松などの新年の飾りものを集めて焼く、どんど焼きとも言われる小正月の火祭りの行事。島の住民に聞くと「沖島では400~500年前から続いている」とのこと。

写真左:沖島コミュニティセンターを出発するサンチョーの行列 / 写真右:「吉書」と「ダンブクロ」で飾られた笹を持つ子どもたち

沖島在住の西居正吉さん(80)の著書『沖島物語』には「佐儀長は沖島こぞっての祭りで、島民皆が参加します。この祭は五穀豊穣、大漁、無病息災、勉学などの祈願を込めて、大火で奉納される儀式で、この島の武士の流れをいまだに伝承している、島の楽しみの一つです」と紹介されていました。

写真左:島内の狭い路地を練り歩く / 写真右:奥津嶋神社参拝後に港を目指す。屋根の向こうには琵琶湖

沖島の佐儀長では、男性がおめでたい言葉を書いた「吉書」や、針仕事が上手になるようにと女性たちが願いを込めた色紙を、針と糸で縫い合わせ、中に藁しべや籾殻、豆穀などを入れて作る「ダンブクロ」を飾った竹、そして各家庭で飾った正月の松飾をしめ縄で縛ったものが、島民の願いを込めて燃やされます。

 

■形は変わっても伝統ある祭りを続けることが大事

かつてこの行事では、数え年16歳の男子が松の枝を抱えて島内の奥津嶋神社に参拝し、広場に立てられた左義長に点火を行っていました。しかし、現在の沖島は高齢化が進み、元服を迎える男子が不足したため、10年ほど前からは41歳になる厄年の男性が祭りの中心的役割を果たし、佐儀長への点火を担うようになったそうです。

41歳になる厄年の男性たちが佐儀長を取り仕切る

行事には島在住の子どもたちや、島在住者の親戚の子どもたちも参加し、吉書やダンブクロで飾られた竹を手に、島内の路地や澳津島神社を練り歩くようになったとのこと。「形が変わったからと言って祭りをやめてしまうのではなく、続けていくことが大事なんです」と自治会長で漁師の西居英治さん(71)は言います。

佐儀長への点火を行った男性たちも、現在は島外に暮らしているとのこと。こうした行事があるごとに島へ戻り、同級生や、今も島で暮らす方々と交流することでコミュニティを大事にしている様子でした。

笹飾りの山に火がつけられる。この火で餅や芋が焼かれる

佐儀長に使用される竹は、島内の山から切り出されたもの。竹を切り出す場所までは船を乗りつけ、竹を港に運びます。船で運ぶ理由は、島内に自動車がないため。大きなものを運ぶ時には船が活躍するという点に、沖島らしさが感じられます。

 

■切っても切れない、沖島住民と自家用の船

佐儀長を目当てに島外からたくさんのカメラマンが来島していました。島外から沖島へ渡るには、先ほどの堀切港から沖島港まで通船で10分ほど。現在は7時台の沖島始発から21時堀切港発の最終まで、1日12往復を、沖島の自治会が運営しています。島の方々によると、かつては島在住で島外に通勤する方が1日2便、不定期で運営されていたそうです。

通船おきしま

通船が少なかった理由のひとつには、沖島には漁師を生業とする家が多く、ほとんどの家が自家用の船を所有していたことがあります。

かつては沖島では漁師の父と息子で2隻の船を所有する家も珍しくなかったとか。船は言うなれば自家用車替わりで、各家が所有する船で好きな時に島外に出られたわけです。「家族が急病になっても、家に船があったから対岸の医者まで連れていけた」(西居さん)。

今は緊急用の消防艇もありますが、島民が所有する船は100隻を切り、所有者である漁師さんたちの高齢化が進んでいることから「自分たちの身に何かあった時にすぐに対応できないかもしれない」との声も。「今後は、島に医師が常駐するように働きかけていきたい」と、西居さんは願います。

沖島は平成25年7月に離島振興対策実施地域の指定を受けました。そこで、自治会をはじめ各団体の役員で離島振興推進協議会を立ち上げました。「琵琶湖の恵みを守り、そして沖島ファンを増やしたい」とこれからの島を見据えた活動をはじめています。

次回は、島の漁業について。

(#02へつづく)

 

 

     

離島経済新聞 目次

【湖上の離島 琵琶湖の恵みを守る島レポ】 湖上の隠れ家・沖島の過去・現在・未来

琵琶湖の東南に位置する沖島は、淡水湖上に浮かぶ日本唯一の有人島。琵琶湖の恵みを受け、主に漁を生業とする島人が静かに暮らしています。湖上の隠れ家のような存在である沖島を訪ね、島人の皆さんから沖島の過去、現在、未来について伺いました。

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