つくろう、島の未来

2024年11月22日 金曜日

つくろう、島の未来

『季刊リトケイ』02号掲載「奄美の島柄 笑っ島」、その取材の裏ばなしです。『商工水産ズ』『サーモン&ガーリック』などの公務員バンドが盛り上げ、『Y(余興)-1グランプリ』で笑い転げる陽気な奄美の人々。そこに見えるのは「シマッチュ(島人)がまずシマを楽しむ」という前向きであたたかな島の人柄でした。

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奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)は、人口約7万人の大きな島。
マングローブをはじめとする南国情緒たっぷりの自然と
裏声を多用した独特の島唄は全国的にも有名で、
近年、Iターン、Uターン者も増えています。

音楽と黒糖焼酎をこよなく愛する奄美の島民たちが
日々何を思い、どんなふうに暮らしているのかを探るため、
リトケイ取材班は奄美大島を訪れました。

公務員バンドが集合!奄美のライブハウス『ASIVI』

取材班は、リトケイ編集長・鯨本とインターン・たむ、
 
奄美大島・瀬戸内町在住のIターン者・小森、
それに鹿児島からの島記者Pasukiaと、私さわだの5名。

アテンドして下さったのは、このシマでライブハウス
『ASIVI(アシビ)』と、奄美初のコミュニティ・エフエム
『あまみエフエム(愛称ディ!ウェイヴ)』を経営する麓憲吾さん。

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まずはランチがてら麓さんにインタビュー。
現在のお仕事に至るまでのエピソードや
シマへの想い、将来のビジョンなどを熱く語ってもらいました。
デザートのアイスが溶けてしまうほど、
麓さんの話に引き込まれたリトケイ一行。
(この内容は『季刊リトケイ』4月20日号に掲載されています。)

その日の晩、麓さんのご好意で『ASIVI』の宴に招待していただきました。
20代の若者から素敵なおじさままで、15名ほどの方が集まりました。
その多くは普段『ASIVI』でバンド活動をしている方々。
みなさん、普段の職業はなんと公務員なんです!
『ディ!ウェイヴ』のスタッフもいらっしゃいました。

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平日だというのにこれだけ集まるとは・・・。
音楽好き、宴好きの奄美大島ならではです。

一生、仲間と歌うしあわせ

しばらくすると、ほろ酔いの公務員チームが
即興でライブを始めます。

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まずは奄美市役所の岡村さんによる弾き語り。
素晴らしい歌声と漫談は、誰もが笑顔になる不思議な力があります。

岡村さんも所属されている奄美市役所の商工水産部には、
部内で『商工水産ズ』というバンドがあります。

このバンドは、同所の濱田洋一郎さんと共に
奄美の島バスのテーマソング『島バスに乗って』を制作するなど
奄美大島の活性化にも一役買っているそう。

『島バスに乗って』は、メンバーの郷土愛に満ち溢れた歌詞と
アップテンポなメロディが何とも心地良く、
気がつけば皆で大合唱していました。
歌唱力や演奏力は、もはやプロ並み。

これほどの実力を持ちながらも、『プロ志向はないんですよね』と
シマッチュは口を揃えます。

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「島唄もそうだけど、シマで暮らしていれば
一生ウタシャ(歌い手)でいられます。
ずっと仲間と共に歌い続けることが一番幸せなんです」

麓さんも、中学時代の同級生や先輩たちとバンドを組んでいます。
バンド名は『サーモン&ガーリック』。

「シマの若者は、夢や可能性はシマの外にしかないっち思ってます。
でも、シマでもできるっちゅうことを証明して若者たちに伝えたくて
バンドを結成しました」

アルバムには、オリジナル曲と
シマグチ(方言)によるラジオドラマが収録されています。
楽曲にもラジオドラマにも、何とも楽しげで底抜けに明るい空気が漂っています。

商工水産ズと同様、音楽が持つ陽気な空気感は
奄美だからこそ生まれたものだと感じました。

大盛況の中、ライブが終了すると
「面白い映像があるから見てみて」と言って
とあるイベントの模様を上映してくれることに。
なんでも、奄美大島で話題の『Y-1グランプリ』というイベントなのだそう。

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「『Y』ちゅうのは余興のYなんです。
奄美のシマッチュはお祭り好きで、結婚式は会費制。
200~300人は集まります。
そのせいか皆、音楽とか手品とか一芸を持ってるんです。
『Y-1』はそんな余興芸のNo,1を決める大会なんですよ」

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ここでも、シマならではの『あるあるネタ』や
シマグチが取り入れられています。
解説つきでその映像を見ると、
シマッチュならずとも笑わずにはいられない面白さです。

どうして奄美のシマッチュはこんなに前向きで明るいのか。
不思議に思った私は、その場にいたシマッチュたちから
話を聞いてみました。

「まずはシマッチュがシマを楽しむ」

ある若者はこう語ります。

「もちろん、シマには色んな問題があります。
奄美は大きな島だから、集落によって雰囲気も違うし
集落の数だけ抱えている問題も多いと思います。

こう見えて、ここにいる市役所職員も
たくさんの問題と闘っている部分もあるんですよ。
もちろん、集落や町の人も。

イベントを開催するのは、
自分たちが楽しいっちゅうだけじゃなくて
根底にはシマを活性化させたいっちゅう想いがあるからですね。
僕も地元が好きだから、大学卒業後はすぐに戻ってきたし、
少しでもシマを盛り上げていきたいっち思ってます」

また、『ディ!ウェイヴ』でパーソナリティーを務める丸田さんは、

「うちはシマグチで放送をしています。
おしゃれにシマをアピールするつもりはないんです。
お年寄りの方々にも聞いて欲しいし、
ありのままのシマの姿や学ぶべき歴史文化を
ラジオを通して若者に知って欲しいと思ってます」

と一言。

麓さんもこう続けます。

「シマにとって必要なのは、観光客を増やすことよりも
出て行った若者を呼び戻すことです。
内地の人にも、ワン(わたし)たちの営みを見て
『楽しそうだな』っち思って欲しい。
そのためにはまずシマッチュがシマの生活を楽しまないとね」

毎日のように宴を繰り広げながら、時には冗談を言い合い、
時には熱く議論を重ねるシマッチュたち。

実際に、『ASIVI』でのライブの後に言ったバーでは、
私たちリトケイクルーも交えて、シマの現状と未来について
あれこれ話し合いました。

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意見がぶつかることがあっても、
彼らは決して話し合うことをやめない。
それは、いがみ合っていても、
互いを無視して生活できる距離感ではないから。

シマのコミュニティーを麓さんは
「お互いが気になる距離感」と表現します。

「いがみ合うより顔を合わせて話し合い、
赦し合うことのほうがラクだし
コミュニティーが小さいからこそ、
秩序が保たれている部分がある」とも。

社会生活を送るにあたり一番大切で、
それでいて都会に住んでいると忘れがちなもの、
『赦し合う気持ち』。
シマッチュたちは、それを何よりも大切にしているのです。
彼らの生み出す文化や笑いは、
そういう温かい気持ちに由来するものなのでしょう。

また、離島の中で最も人口が多い島だからこそ、
島内だけでなく、日本の離島を牽引するような存在で
ありたいという使命感も、彼らの中にはあるように感じました。

取材を振り返ると、始終笑っていた記憶しかない奄美というシマ。
シマッチュたちの人柄に触れ、熱い想いを知って
「このシマはこれからどんどん面白くなる」と確信しました。
私は今回が二度目の訪島でしたが、
今後もその動きから目が離せません。

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