船や飛行機で本土へ渡る島々の学校にとって、他地域へ遠征に出かける際の「遠征費負担」の高さは共通課題。離島のハンデとも言える遠征費負担を緩和すべく、奥尻島(おくしりとう|北海道奥尻町)の高校生らが立ち上がり、クラウドファンディングを実施しました。離島専門クラウドファンディング「離島×CAMPFIRE」への掲載開始から、わずか9日で目標金額を達成したプロジェクトの中間報告をレポートします。
原稿・離島経済新聞社 写真提供・北海道奥尻高等学校
奥尻島唯一の町立高校は独自カリキュラムが豊富な先進校
北海道奥尻高等学校は、約2,800人が暮らす北海道の奥尻島にある唯一の高校。2016年に道立から町立に移管され、島外からの留学生を含めた39人の生徒が在籍しています。
奥尻高校では島をまるごと学校に見立てた「まなびじま奥尻プロジェクト」を実施しており、普通科高校のカリキュラムとしてはめずらしい「スクーバダイビング」の授業や、島のさまざまな課題をどのように解決していくかを探求する学習「奥尻パブリシティ本部」など、独自カリキュラムを展開しています。
リトケイが奥尻高校を訪れた日は、校内では本土の大学関係者とテレビ電話をつなぎ、インターネットを介して進路相談や個別指導が受けられる「Wi-Fiニーネー」が行われていました。
名古屋大学の准教授から進学についてのアドバイスを受ける生徒
奥尻高の生徒が“Tシャツ”で部活動を変える
小さな島の高校でありながら、先進的な取り組みを展開している奥尻高校ですが、生徒会活動や各部活動では、他校との交流や試合などで本土側へ渡るための「遠征費負担」が大きな悩みとなっていました。
生徒自らが試算した遠征費負担の比較図では、都市部の高校と奥尻高校では約20,000円の差があることが示されていました。
部活動を強化し、よりよい生徒会活動を行うためには、島外への遠征が不可欠ですが、遠征費は各家庭の負担。天候の荒れやすい時期には延泊状況も発生し、さらに負担が増えてしまうことから、遠征自体を増やせない状況にありました。
しかし、部活動や生徒会活動も魅力的でなければ、島の中学校に通う後輩たちが島外へ流出してしまいかねません。島唯一の奥尻高校の将来を見据えても、この課題を越える必要があったのです。
課題を超えるため3人の女子高生が立ち上がる
こうした課題を知り「何とかしたい!」と立ち上がったのが、今回のプロジェクトを牽引する3人、2年生の舩越未夢さんと邊見歩花さん、3年生の松前幸歌さんでした。
邊見歩花さん(左)、松前幸歌さん(中央)、舩越未夢さん(右)
3人は島の課題解決をミッションとする一般社団法人イクシュンシリ・デザインや、先生方に相談。大人たちのサポートのもと、インターネットを通じて少額寄付を募集するクラウドファンディングプロジェクトの実行に踏み切りました。
クラウドファンディングのいろはを学ぶ「クラウドファンディング基本講座」ではリトケイも指導に加わり、テレビ会議を通じて3人をサポート。
11月1日に「離島×CAMPFIRE」で募集を開始すると、熱い想いが社会に届き、スタートから9日で目標金額の120万円を突破しました。
「離島×CAMPFIRE」クラウドファンディングサイト画面(12月11日現在)
目標達成のおどろきと感謝と共に残り期間に励む
目標金額の早期達成に、松前さんは「目標達成できてうれしい」と話し、邊見さん「最初は不安もあったけど支援者に気持ちが伝わってうれしい。活動報告を充実させて支援者に伝えていきたい」と、喜びや感謝を語りました。
プロジェクトに注目するラジオ局からの取材を受ける邊見さん
クラウドファンディングでは、インターネットを通じて支援者と直接コミュニケーションをとることができるため、3人自らが支援者へお礼のメッセージを送付。船越さんは「パトロン(支援者)からのメッセージもすべて読み、お礼のメッセージを送りました。奥尻のことを知ってる人もいれば、知らない人もいて、野球部や吹奏楽部など特定の部活動を応援してくださる方もいました」と話しました。
奥尻高校のクラウドファンディングでは、リターン(支援者へのお返し)にTシャツを設定し、Tシャツのデザインは「絵を描くのが好き」という松前さんが担当しました。
Tシャツのサンプルが学校に到着すると、生徒も先生も大喜び。サンプルを手にして感動にひたる姿があれば、「できたよー!」と教室や職員室をまわる姿もあり、校内はTシャツを目にした人からあがる感嘆の声で包まれていました。
離島の課題、高校存続の課題を“チャンス”に
プロジェクトへの支援者に対して「感謝のひと言しかありません」と話す船越さんは「卓球部が函館地区大会遠征にいったりしているので、これから活動報告で各部活動の紹介をしていきたい」とさらなる意欲を見せ、後日、クラウドファンディングサイト上で「部活動特集第1弾【野球部編】」「部活動特集第2弾【バレー部編】」などの活動報告をアップ。引き続きの支援が呼びかけられていました。
生徒たちのチャレンジを見守る俵谷俊彦校長は、「離島の学生は本土の学生に比べてハンデがあることに劣等感を持っていると思う。しかし、劣等感は人から支持されることによって自信がつき克服できる」と語ります。
今回のチャレンジは目標を達成しさらなるゴールへと向かっていますが、「遠征費負担」は一過性のものではなく継続的な課題。そのため、奥尻高校では今回のプロジェクト終了後も継続的な課題解決を図れるよう新たな企画を検討しているとのこと。
「高校存続の課題をチャンスとして前向きに取り組んでいきたい」と俵谷校長。多くの島々に共通する悩みを、自ら越えようとする奥尻高校のチャレンジは、離島地域の希望といっても過言ではありません。12月14日の募集〆切まであと少しとなった奥尻高校のチャレンジに、ぜひご注目を。
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