北海道の奥尻島(おくしりとう)は、比較的温暖な気候とブナ原生林からの湧水に恵まれ、ブランド米「奥尻米」が生産されている。農家が後継者不足などの課題を抱えるなか、清酒などの特産品開発で米作りを支える取り組みが始まっている。
■「奥尻米」として安定的な需要の一方、悩みを抱えるコメ農家︎
日本の離島で最北限の米どころである北海道の奥尻島では、明治20年頃から稲作が行われてきた。奥尻島は対馬暖流の影響で北海道本土に比べて温暖なことに加え、島の大半が保水力の高いブナ林に覆われ、水が豊富な環境に恵まれている。ブナ林から湧き出る沢水を田に引き入れて生産された奥尻島の米は味がよく、ブランド米「奥尻米」として安定的な需要を得ている。
ブナ林から湧き出る豊富な沢水が奥尻島の米づくりを支える
しかし現在、奥尻島内に18戸ある米農家は、高齢化と後継者不足の悩みを抱えている。少子化や若年層の島外流出による農業の担い手不足に加え、全国的な米の需要減による低価格化の傾向や、国が進めるTPP交渉の行く末も農家にとって不安の種となっている。そんななか、付加価値を高める特産品開発で島の米づくりを支える取り組みが始まっている。
■土産物として手に取りやすいパッケージで商品化
奥尻島観光協会では、農家の自主流通米を活用し、2014年度に奥尻米300グラムを包装した「おくしりの米」を開発した。観光客が土産物として手に取りやすいサイズとデザインを検討し、観光協会の職員がパッケージをデザイン。農家や町の農政担当者、土産物店などに意見を聞きながら試作を重ねて商品化した。
「おくしりの米」は、フェリーターミナル売店など島内の土産物店で販売されている。奥尻島観光協会の佐野由裕さんは、「今年は発売2年目を迎え、米の品種も2種類に増えました。売れ行きをみて増産し、ゆくゆくは島外の物産展などでも販売できたら」と語る。
■取引価格が安定している酒米を生産し、清酒を発売
食用米に比べ取引価格が安定している酒米を生産し、清酒を造る試みも始まっている。奥尻町役場の水産農林課では、2014年度より「地酒開発プロジェクト」を開始した。島内の生産者に依頼し、奥尻島では初となる北海道の酒造好適米「吟風(ぎんぷう)」の試験栽培を実施。0.97ヘクタールの田んぼから50俵(3,000kg)の米を収穫することができた。
2年目を迎えた、北海道の酒造好適米「吟風」の田んぼ
奥尻島には酒蔵がないため、北海道栗山町の小林酒造株式会社に町長自ら足を運び、醸造の協力を得た。ラベルデザインは町のホームページなどで公募した。清酒の仕込みに使用したのは、島のブナ林から湧き出る天然水約3トン。町営の牧場が所有するトラックでフェリーと高速道を乗り継ぎ、約8時間かけて運んだ米と水から、四合瓶1,800本、一升瓶1,800本の清酒が限定生産された。
さまざまな協力と努力が実を結び誕生した清酒「特別純米 奥尻」は、ミネラル分が豊かでウニやアワビなど島の海産物とよく合うとして人気を集めている。発売に先立ち、町では4月に住民を対象とした大試飲会を開催。島内から200名の参加者が集まった。5月に奥尻島で先行販売、6月から全国販売を開始し、既にメーカー在庫が完売となった。
生産者と地酒開発プロジェクトを進めてきた奥尻町水産農林課の千田 剛さんは、「苦労して米をつくってくださった農家さんも、仕上がったお酒の美味しさに喜んでくれました。奥尻米は近隣では味の良いことで定評がありますが、全国的な認知度はまだまだ。お酒を通して島の米と水の良さを知ってもらい、島のPRにもなれば」と語る。
町では今後も酒米の生産と酒造りを支援し、島の特産品として育てていく考えだ。奥尻町役場ではふるさと納税の景品として「特別純米 奥尻」限定50セットを用意し、寄付を受け付けている。