世界自然遺産登録から30周年を迎えた鹿児島県の屋久島で、2022年よりダイバーや漁業者らの「海・川・山の繋がりで豊かな屋久島の自然を守る!プロジェクト」が活動中。活動費をまかなうのは、全国から屋久島町に集まる「ふるさと納税」。島外のファンから寄せられた思いに支えられ、ダイバーによる海底清掃や陸域からアプローチしにくい場所の海岸清掃、地元住民と合同でのビーチクリーンに取り組んでいます。
取材・石原みどり 写真提供・屋久島町、皆川直信
目次
・海・川・山の繋がりが生む生命豊かな島
・ふるさと納税を環境保全に活用
・積み上げたら大きな山になりそうな海洋ごみ
・ダイバーが海に潜ってごみ拾い
・編集後記
海・川・山の繋がりが生む生命豊かな島
1993年にユネスコの世界自然遺産に登録された屋久島は、鹿児島市の南方約135キロメートルに位置。赤道から北上する黒潮に乗って島の付近に運ばれてくる暖かい海水は、たっぷりと湿度を含んだ海風となり、標高1,000mを超える山々にぶつかると、雨となって島に降り注ぎます。
その量は年間約4,652ミリメートル(※)にもなり、東京都のおよそ2.9倍。「ひと月に35日雨が降る」と言われるほど、雨の多い島なのです。
※1991年~2020年の平年値。ちなみに東京は年間約1,598.2ミリメートル(気象庁サイトより)
豊富な雨は、島の主要産業である観光や林業の資源となる森を育み、勢いよく川を流れる水は水力発電にも利用され、島のエネルギーを支えています。
森の栄養分は、川の流れなどに乗って海へと注ぎ込み、島の周囲には、元気なプランクトンを食べに魚が集まる豊かな漁場が育まれています。
こうした山川海を巡る循環がもたらす恵みを糧に、屋久島の人々は長い間暮らしをつむいできました。
ふるさと納税を環境保全に活用
2023年に世界自然遺産登録から30周年を迎えた屋久島には、毎年多くの観光客が訪れ、ふるさと納税による屋久島町への寄付は、令和4年度4.7億円、令和5年度は5億円以上にのぼります。離島の自治体にとって、けっして少なくない寄付額ですね。
寄付者のうち、使用用途に「環境保全」を選択する人も多く、島の自然に価値や魅力を感じ、守りたいと考える関係人口が多いことが伺えます。
屋久島町では、寄せられた寄付を活用し環境保全に力を入れる一方で、島に打ち寄せる海洋ごみへの対策には課題があったといいます。
島内では漁業者や住人有志によるビーチクリーン活動が行われているものの、船でしか行けない海岸や、堤防の周辺など危険を伴う場所、潜水での回収が必要となる海底など、通常では手が届きにくい場所も多くあり、対策が求められていました。
積み上げたら大きな山になりそうな海洋ごみ
そこで、2022年に「海・川・山の繋がりで豊かな屋久島の自然を守る!プロジェクト」が発足。
屋久島スキューバダイビング事業者組合に所属するダイバーや船主など、海のプロフェッショナル集団が中心となり、ダイバーによる海の海底清掃や陸域からアプローチしにくい場所の海岸清掃、地元住民と合同でのビーチクリーンに取り組んでいます。
同プロジェクトが2023年度に実施した海底・海岸清掃は、合計12回。回収した海洋ごみは、プラスチックごみや漁具など1立米(※)のフレコンバッグで約32袋。積み上げたら大きな山になりそうです。
※1メートル×1メートル×1メートルの立方体の体積
堤防の周囲で回収されたごみの中には、島内から流出したと思われるタイヤや一升瓶、釣り糸などもみられたとのことでした。
ダイバーが海に潜ってごみ拾い
2024年3月27日に実施された海底清掃では、港で打ち合わせの後、地元船主の船で沖合に出発。主要なダイビングポイントや港の堤防周辺でダイバーが海に潜り、海中や海底のごみを回収しました。
今回集まったごみは、サンゴにからんだ漁網や、海底に沈んだ船体の破片、ブイの破片、ペットボトルなど1立米のフレコンバッグ約0.6袋分。これらは、産業廃棄物として処理業者が収集し、島外へ搬出の上処理されます。
海洋ごみを頑張って回収して終わりではなく、島の外へ運ばなければならないという現実。なかなか一筋縄ではいきません。
多種多様なごみが混じり合う海洋ごみの処理には手間や費用がかさみ、屋久島のみならず、離島地域で海洋ごみ対策に取り組む人々にとって頭の痛い問題です。
そこで、屋久島町では、ふるさと納税で集まった寄付金を活用し、同プロジェクトの活動を後押ししています。
観光まちづくり課の有馬照幸さんは「屋久島の自然を守るために寄付を寄せていただいた皆さんの思いに感謝します」と語ります。町では、水をはじめとする自然資源の保全に取り組み、観光資源として活用することで地域の発展を進めていきたいとの考えです。
「豊かな自然を守り継承することで、未来を担う子どもたちの誇りにもつなげたい」と、有馬さん。海・川・山の循環がもたらす屋久島の豊かさを次世代へ伝えるため、屋久島町では、今後もこのような環境保全の取り組みを支援していくといいます。
【関連サイト】
>>屋久島町ふるさと納税サイト
編集後記
プロジェクトで回収したごみの中には、島内から流出したと思しきものもあり、島を訪れる観光客も含め、ごみを減らす工夫や適切に処分するマナーを心がけたいものです。海に囲まれた離島地域にとって、波に乗って次々と漂着する海洋ごみの対策は、いたちごっこ。一過性に終わらせず活動を継続していけるよう、島内で活動するプレイヤーを島外から寄付で支える仕組みは、島を愛するファンや島外で暮らす出身者にとってもうれしいこと。このような形の島思いの輪が、各地で広がることを期待します。(石原みどり)
東京在住、2014年より『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。鹿児島県酒造組合 奄美支部が認定する「奄美黒糖焼酎語り部」第7号。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。ここ数年、徳之島で出会った巨石の線刻画と沖縄・奄美にかつてあった刺青「ハジチ」の文化が気になっている。