つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

日本の島々は、知る人ぞ知るお魚天国。島々会議005では、漁業・水産業に従事する「魚食を支える島の仕事人」にお話を伺います。5組目の参加者は気仙沼大島(けせんぬまおおしま|宮城県)、日間賀島(ひまかじま|愛知県)、宝島(たからじま|鹿児島県)の皆さんです。

島々会議005|5組目プロフィール

気仙沼大島/小松 武(こまつ・たけし)
気仙沼大島出身。大正時代に地元定置網の船方として働いていた初代から数え、漁業歴は100年を超えるという漁師の家系。高校卒業後に関東の大学に進学、就職し、2004年に帰島し家業の牡蠣養殖業に就く。東日本大震災からの事業再開を経て、2021年に株式会社ヤマヨ水産を法人化し、代表取締役に就任。現在、4代目として牡蠣のオーナー制度による生産者・顧客間の関係づくりに取り組む。2女の父。
>>気仙沼大島(大島|気仙沼市)の概要


日間賀島/井戸田 浩(いどた・ひろし)
1963年、日間賀島生まれ。中学校卒業後、父親が操業していたシラス漁船の乗組員となり、漁業歴は43年。潜り漁でタイラガイなどの貝類を捕るかたわら、妻、娘と共に1日5組限定の「島宿うみどり」を営む。
>>日間賀島(愛知三島|南知多町)の概要


宝島/竹内 功(たけうち・いさお)
1972年生まれ、埼玉県出身。2010年に宝島へ移住し、2015年に一般社団法人宝島を設立。トビウオ漁を行うほか、島の漁師が捕った魚などを加工、販売。島内に開業した地魚直売所「はなみ丸商店」では住民向けに魚の販売を行う。
>>宝島(十島村)の概要

Q1.携わっているお仕事の内容を教えてください。

牡蠣養殖を中心に、春夏はウニ漁、冬はアワビ漁も行います。東日本大震災の津波で被災し、事業再開に向けて牡蠣のオーナー制度を始めて10年。妻の手を借りながら、SNSやメールマガジンで顧客とのコミュニケーションも続けています。

牡蠣の養殖筏の上から、2019年春に架橋された気仙沼大橋を望む(提供・小松 武さん)

漁師と旅館経営。時期によって、潜り漁でタイラガイ(タイラギ)、オオアサリ、ミルガイなどを捕っています。旅館では、自分で捕ってきた貝や地元産の魚介をふんだんに取り入れたコース料理でおもてなししています。

「島宿うみどり」自慢の、海を見渡す露天風呂付きテラス(提供・井戸田 浩さん)

宝島ではかつて、塩干(えんかん。塩漬けにして干したもの)でトビウオを加工し、島外へ出荷していましたが、時代の流れとともに衰退していきました。現在は、急速冷凍機を導入し、島で水揚げされたトビウオやサワラなどを加工し、島内外で販売しています。

鮮度を優先するため、一回の出漁時間を短くし、魚は船上で活け締めにする(提供・竹内 功さん)

Q2.日本人の食卓に並ぶ魚食を支えるお仕事をされているひとりとして、ご自身のお仕事で感じる「やりがい」「楽しさ」「面白さ」を教えてください。

島の魚介は素材がいいので、自然な美味しさを生かして料理に仕上げます。私たちのもてなしを喜んでくださるお客様の笑顔が、何よりのやりがいです。

旬の魚や平貝のお造り、煮魚、焼き物などが楽しめるコース料理(提供・井戸田 浩さん)

トビウオやサワラのほか漁師さんがさまざまな魚を卸してくれます。これまで、燻製や生ハムなどいろいろな加工をしましたが、どのように加工するか商品のアイデアを考え、つくりだす作業がとても楽しいです。

出漁中の様子(提供・竹内 功さん)

震災を機に牡蠣養殖場復興の支援を募り、顔の見える関係の中で牡蠣を提供できるオーナー制度を始めました。それ以前は漁協に卸したらその先は分からなかったのですが、顧客との交流を通じて応援のメッセージをたくさんいただき、復興の励みとしてきました。大事に育てた牡蠣を「おいしい」「粒が立派だね」と褒めてもらえると、とてもうれしく生産者冥利に尽きます。

細やかに世話をすることで、大きくふくよかな身の牡蠣が育つ(提供・小松 武さん)

Q3.日々のお仕事のなかで、特に好きな仕事や作業があれば教えてください。

海で魚を捕ることに始まり加工して商品化したものを、お客さんや島の住民に「おいしい」と言って食べてもらえることが一番うれしいです。

十島灘に沈む夕日。竹内さんお気に入りの風景(提供・竹内 功さん)

マニアックですが、養殖場の数カ所から牡蠣を採取してむき身をチェックするサンプリング作業が大好きです。牡蠣の状態を見ると成長の予測が立てられるので、その後の管理に役立てたり、出荷時期の見通しを立てて顧客へ連絡したりしています。飲食店さんが入荷時期に合わせてメニューづくりできるなど、顧客にも喜ばれています。

海中から引き揚げた牡蠣をチェックする様子(提供・小松 武さん)

貝を捕る際は、潜水し海底を這うようにして貝を探します。ホースで水流を当てて砂を掘っていると、小さな生き物を狙っていろいろな魚が寄って来るのが面白い!先日は大きなタイが近くまで来ましたが、モリなどの道具もないし、貝を捕ることに専念しました。ちょっともったいなかったです。

初夏限定の貝づくしプラン(岩牡蠣 、本みる貝、平貝、鮑、真鯛)(提供・井戸田 浩さん)

Q4.日々のお仕事のなかで、特に大変な仕事や苦手な作業があれば教えてください。

7〜8年経過し老朽化した養殖筏(いかだ)の入替作業です。孟宗竹と杉を格子状に組み、樽型発泡スチロールをくくりつけて新しい筏を組むのですが、力のいる重労働。現在スタッフが70代の親世代中心のため、先々を心配しています。

牡蠣処理場から大島瀬戸を眺める、小松さんお気に入りの風景(提供・小松 武さん)

旅館の仕事では現金出納帳をつける作業が苦手です。漁の仕事は基本的に楽しいので、大変だったり苦手に感じることは特にありません。

最初は船酔いに苦戦しました(笑)。船酔いはたとえ吐いても乗り続けることが大事で、いつか慣れます。あとは島ならではの悩みかもしれませんが、豊漁のときは冷凍庫が足りなくなって困ったことがありました。

出漁中の竹内さん(提供・竹内 功さん)

Q5.ご自身が暮らしている島で生きる日々のなかで、特に「いいなあ」と感じる瞬間を教えてください。

島にはおすそ分けの文化が息づいており、漁師仲間でも余った魚を分け合ったりします。

日間賀島の漁港風景。大晦日の港に大漁旗がはためく(提供・井戸田 浩さん)

宝島に移住して10年。私は子どもが3人いますが、島の子はみんなのびのびと成長していて、毎日「いいなあ」と感じています。

宝島で無農薬゙栽培されている島バナナ(提供・竹内 功さん)

2019年春に気仙沼大橋が架かり島と本土がつながりましたが、たった300メートル海を越えるだけで、島では不思議と時間がゆっくりと流れるように感じます。自然相手の海の仕事は、人間の都合ですべてを動かすのではなく、自然に逆らえば命の危険もある。島の人たちが、そのことを肌で感じているからなのかもしれません。
朝早くから午前中のうちに仕事を頑張って、夏の暑い日中はゆっくり過ごし、夕方海に出ると、凪の時間。穏やかな海を眺めながら「いいところで仕事できているんだなぁ……」と思います。

鏡のような海面に牡蠣の養殖筏が点々と浮かぶ、穏やかな凪の時間(提供・小松 武さん)

Q6.20年後の未来を展望するとき、ご自身の仕事あるいは島にとって必要だと感じている事柄があれば教えてください。

1次産業の担い手はずっと不足しているので、これからも足りない状況が続くと思います。一方、来年には島に光回線が整備される予定で、島の仕事の多様性や選択肢が広がると思います。Iターンも必要ですが、それ以上にUターンが必要だと感じています。

海岸に佇むトカラヤギ(提供・竹内 功さん)

架橋され、気仙沼市内への通勤もしやすくなっていますが、島には海の仕事がある。水産業はキツい・汚い・危険な「3K職場」とも言われますが、世の中の良いやり方を取り入れて変えていきたい。今、島で暮らしている大人が、なぜこの島で暮らすのか、子どもたちに示していかないといけないと思っています。

水揚げした牡蠣の殻から身を外す作業(提供・小松 武さん)

コロナ禍で島の活魚の需要は激減しています。かつて週に5日船が出ていた地引き網漁は週2回になり、魚の価格も下がっています。島の食材を加工し、消費者に直接届けることも考えなくてはいけないと思っています。

若手を伴い、86歳で海に出る現役漁師さんの後ろ姿(提供・井戸田 浩さん)

Q7.島が大好きなリトケイ読者の方へのメッセージをお願いします。

気仙沼大島は、朝ドラ『おかえりモネ』のモデルになった島。ヒロインの実家も、私と同じ牡蠣養殖業です。テレビで島のことを知っていただき、いつか実際に島にも遊びに来てください!
>>ヤマヨ水産

日間賀島近海は、三河湾に流れ込む3本の河川の水が合流する地点にあたり、森から運ばれる栄養で育つプランクトンを餌とする、魚やタコ、貝などの海産物に恵まれています。島の魚介のおいしさは、一度来て味わっていただければ分かります。何もない島でゆったりと日常を忘れ、新鮮な海の幸を味わいにいらしてください。
>>島宿うみどり

宝島(十島村)では「体験入村制度」を活用して、島での生活や仕事を体験することができます。まずは、気軽に島に来ていただいて、島の雰囲気を体感してもらうのがよいと思います。また来年度は、港にある巨大壁画の塗り替えや、カヌー・SUPといったマリンスポーツなどの事業も進めていく予定です!
>>はなみ丸商店

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