つくろう、島の未来

2021年08月03日 火曜日

中小企業の成長や課題解決をサポートする中小機構では、離島地域の事業者も支援している。中小機構の支援を受けて誕生した島々の新商品&新サービスと、それらを生み出した人々の想いに迫るべく2つの島を訪れた。

歴史ある「石の島」で生まれた、生きた産業を観る観光とは?

瀬戸内海には石材で栄えた島がいくつもある。なかでも岡山県笠岡諸島の北木島(きたぎしま)で採掘された「北木石」は、大阪城の石垣に靖国神社の大鳥居、日本銀行本館などの建造物にも使われてきた銘石として知られている。

この島で「石の島」を体験する観光メニューが生まれていると聞き、北木島に向かった。伏越港から瀬戸内海をフェリーにゆられて60分(海上タクシーなら20分程度)。島に降り立つと鶴田康範さんが出迎えてくれた。観光メニューをつくった鶴田石材の社長である。

鶴田石材4代目・鶴田康範さん

島を歩けば石にぶつかるほど、北木島では切り出された石を見かける。こうした石を採石場から掘り出し、加工して財をなしてきた歴史と人々の誇りが、この島には息づいている。

創業1892年の鶴田石材4代目を継ぐ鶴田さんは「採石場には(産業を)命を懸けて守ってきた歴代の親方や職人さんたちの思いが、山肌に刻まれているんです」と語り始める。山肌に目を移すと、現代アートのような模様が残っている。歴代の職人たちが手を入れた記しは、小高い山の頂きや深い谷底にも刻まれていた。

「石の島」の歴史が刻まれた岩肌

最盛期には島内に127あった採石場は、今では鶴田石材を含めた2カ所に減少。背景には外国材の流通があり、かつては「地元の長者番付に多くの石屋が名を連ねていた」という島の加工会社も100社から8社になった。

「斜陽化に歯止めがかけられないのが現状であるし、昔のように、石屋バブルの神風が吹くとも思えない。そんな現実を見つめたうえで、石切り文化を含めて、石材ビジネスをどう守っていくか。我々には石材産業を守っていくゆるぎない信念がありますけど、やはり成長産業に乗っかるような形で守っていく方法を探したい」。

そこで鶴田さんは観光に舵を切る。「うちの丁場(採石場)には、明治時代から現在もなお石を切り出し続けている歴史があり、いろんな苦労や実績がある。それをエンドユーザーに見てもらい共感してもらおうと考えたのが発端です」。

とはいえ、石材産業で栄えた北木島には観光のノウハウが少ない。「我々はただの石屋ですから観光は不慣れです。そこで中小機構の支援を受けながら地域資源活用事業に申請することにしました」。同事業に認定されれば、さまざまな支援が受けられると聞き、島内の石材加工会社や笠岡市内の観光会社、船会社の4社連携で同事業にチャレンジ。5年間のサポートがスタートし、観光のプロを島に招いてのアドバイスや、国内外への販路開拓が行われてきた。

「産業観光」の醍醐味は生きた産業にふれられること。そして、多くの来訪者を迎えるためのポイントは、安全性の確保と毎日受け入れをおこなうこと。これを実践するために、鶴田さんは自社の採石場に展望台を設置した。海辺の集落から坂道を上った先にある採石場に到着すると、まるで隕石が落ちてきたかのように大きく、深い穴に先ずおどろく。

明治時代から続く鶴田石材の採石場。その高低差はなんと150メートル

そこに設置された展望台に立つと高所恐怖症でなくても足がすくむ。しかし、高低差150メートルもある巨大な穴に刻まれた石切り歴史に思いを馳せると、味わい深い感動が湧き上がってくる。

また、鶴田石材の展望台は、12時から13時までは予約なしで毎日見学を受け付けている。

まるで宙に浮いているような感覚になる鶴田石材の展望台(中央)

そんな展望台から見下ろす島の歴史はもちろん、島内の随所にさまざまな歴史が遺る「石の島」をじっくり味わうには、ガイドによる解説も欲しい。島内を巡る産業観光ツアーには、2時間のガイドツアーもあり、展望台はもちろん、2015年に復活した島の映画館での歴史映像鑑賞や、採石場や加工場巡りに、ゲンノウ(金槌)を使った石割体験、石の島で歌われてきた「石切唄」などを、たっぷり楽しむことができる。

ガイドツアーでは「石割体験」を楽しむことができる

「『すごかった』『びっくりした』という声をいただくことが多くてとてもうれしいです。なかでも『感動したから家のお墓をここの石でつくりたい』というお客さんがいて、実際にお墓をつくらせてもらったことがあり、これはやっぱり石屋としてうれしかったですね」。観光が石材ビジネスにつながった出来事に、鶴田さんは笑顔をみせる。

「北木のベニス」と呼ばれるフォトポット。積み上げられた石とエメラルドグリーンに輝く海が絵画のような景色を生み出している

「外から来た人は(島の風景を見て)喜んで写真を撮っています。我々の展望台だけではただの絶叫スポットになって一回で終わるので、いろんな場所と連携していきたい」と話す鶴田さんは、実際に、地元の漁師や他地域との連携も進めているという。

「北木島だけでは食べる場所や泊まる場所が限られますから、近隣エリアを連携していきたい。鞆の浦には立派な旅館がありますし、同じ日本遺産になっている小豆島や本島、さぬき広島とも連携して瀬戸内の魅力をつないで立体的に伝えていきたいですね」と夢は膨らんでいる。

瀬戸内海の真ん中に位置する笠岡諸島。鶴田さんは北木島が瀬戸内海各地とつながる「ハブ」になれたらと展望する

石の島が持つ新たな可能性に賭ける鶴田さんは、2020年初頭には遠くシンガポールまでセールスに出かけ、「まだ知られていない日本の絶景スポット。ぜひ顧客と訪れたい」という高評価を受けた。

しかし、その直後に新型コロナウイルス感染症が拡大。インバウンドの受入はすべて止まっているが、マイクロツーリズムの広がりから近隣からの来訪者は増加している(2021年2月時点)。

コロナ禍にあってもウェブを活用して国内外のエージェントとのやりとりは続いており、島では観光客を迎える準備が着々と進められている。「この島の人たちに根付く石工魂で、さまざまな苦悩を乗り越えていきたい」と話す鶴田さん。歴史ある石の島で始まった観光事業も、石工魂を原動力に広がっていくだろう。

【お問い合わせ先】
鶴田石材株式会社
岡山県笠岡市北木島町8703/0120-68-2120
国内屈指の採石場を守り、「石切唄」の保全活動などにも力をいれる。展望台の入場料は大人1,000円、小学生以下は500円。公式ホームページでは「北木石の匠」によるブログも公開。


【関連サイト】
鶴田石材株式会社
中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)中国本部

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