島の暮らしを支える航路。近年、減便や廃止が相次ぐなか、海の道を維持するためのヒントを、国・専門家・運航会社・スタートアップの視点を交えて議論した「未来のシマ共創会議2025」トークセッションの一部をお届けします。待ったなしの課題を乗り越える方法とは?
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理解と感謝、技術と制度で航路をアップデート
鯨本:離島航路の維持が難しくなっている背景には、どんな課題があるのでしょうか。
叶:一番大きいのは人口減少です。人口が減れば、輸送需要も減ります。そのうえで燃料費や修繕費などのコストが上がっている。国が運営費を補助している航路は120ほどありますが、該当航路だけでも20年間で乗客数は約2割減り、欠損は2倍になっています。減便はやはり赤字が厳しいといった経営判断によって生じているのが実情です。
叶雅仁 国土交通省 海事局内航課 課長
平成15 年に国土交通省に入省後、物流・自動車政策、住宅・不動産政策等に携わり、伊国・米国留学、大臣官房参事官(税制)付企画専門官、在ニューヨーク日本国総領事館経済部長、観光庁総務課企画官、大臣官房人事課企画官等を経て現職
行平:現場の声を聞くと、船員不足は本当に深刻です。実際に、九州の方では大型船舶20トン以上の船を小型船舶にするという事例がかなり増えています。海技士の確保はなかなか難しいんですが、小型船舶操縦士の資格であれば採用が比較的やりやすいんです。
行平真也 九州産業大学 准教授
大分県出身、博士(工学)。大分県職員として8年勤務後、大島商船高等専門学校で教員を務め、2019年3月より九州産業大学講師、2024年より現職。フェリーや離島航路の研究を行う。離島航路関係の委員会や航路改善協議会などの委員として全国の島に関わる
鯨本:青ヶ島や母島の航路ではどのような状況ですか。
山本:現在、3隻を所有しており、2隻が離島航路、1隻が伊豆諸島への貨物船として運航しています。1人が3カ月乗って約1カ月休むシフトで回しているのですが、今は本当に船員が足りなくて、4カ月とか、下手すると5カ月乗って20日しか休めないという状況。船員からも「そろそろ限界」という声が出てきているなか皆が無理をしながら頑張ってくれています。待遇を上げたいけれど、補助金で運航しているので自由にはできないのが現状です。
山本忠和 伊豆諸島開発株式会社 代表取締役
平成5年東海汽船株式会社入社。令和元年10月より現職。伊豆諸島の青ヶ島航路、小笠原諸島の母島航路の経営改善・サービス向上に取り組みながら航路維持を図っている。令和5年6月より内航貨物船運航、伊豆七島海運株式会社 代表取締役を兼任
鯨本:船員不足について、国ではどのうな対策を進めているのでしょうか。
叶:王道は育成と確保です。国の方でも海技資格を持つ職員の育成を進めていますが、時間がかかるため特効薬にならない。そこで、採用について法改正を行い、来年度からは地方自治体による船員の職業紹介ができるよう制度を見直しました。離島航路で働くには職住近接が必要になるので、移住支援と就労支援を一体で進めていただきたい。また、海技資格を持つ自衛官のセカンドキャリアとして転職してもらう方法もあるので活用いただきたいです。
鯨本:なるほど。Slidoには「船員さんの待遇改善が必要では?」というコメントも来ています。
叶:他の船員職種の皆さんと見劣りしないような処遇改善をやっていかなければと思います。一方、払う方は「運賃が上がるのは嫌」と言われると思いますけれど、安い運賃で運んでもらった結果、船員さんが辞めて航路が維持できなくなってしまっては元も子もありません。現実に船員不足・減便が起きてるという問題を地域内で共有をしていただき、運賃や船のダウンサイジングなど、ある程度は受忍しなければいけないこともあると思います。
山本:現場としてもまさに同じです。運賃の改定には行政や住民の合意が必要で、簡単ではありませんが今のままでは続けられません。島を守る航路として、行政の支援と地域の理解、どちらも欠かせないと思っています。
鯨本:こうした問題にはテクノロジーで解決できる部分もあるのかと思いますが、木村さんはいかがでしょう?
木村(以下、木) 私たちエイトノットでは「自動航行技術」、つまり船の自動運転の開発をしています。「人を減らす技術」というより「人を支える技術」です。航行データの解析や操船補助を自動化して、船員さんの負担を減らすことが目的です。広島県・大崎上島でリモート監視や自動操船の実証をして
いて、「操船が楽になった」「精神的な負担が減った」という声も出ています。
木村裕人 株式会社エイトノット 代表取締役CEO
カリフォルニア州立大学を卒業後、アップルジャパンを経てデアゴスティーニ・ジャパンでロボティクス事業の責任者を務める。バルミューダでの新規事業立ち上げやフリーランス活動を経て、2021年3月にエイトノットを設立。小型船舶の自律航行の技術開発に取り組む
行平:技術の導入には本当に期待しています。自動車のバックモニターが当たり前になっているように、船にも安全を支援する技術がどんどん入ると思います。
叶:自動運航はまさにゲームチェンジャーとなりうるような技術だと思っています。国の方でも2030年から本格商用運航開始を目標に、運航における技術開発・実証を支援しております。それと並行して必要なルール整備も進めていくようにしています。
鯨本:今後も「海の道」を守るために引き続き注力すべきことは何でしょうか。
山本:安全・安心は絶対に譲れません。そのために人材育成を強化しています。最近は全国の養成学校を回って離島航路の仕事を知ってもらう活動を始めました。若い人に「船の仕事ってかっこいい」と思ってもらいたいですね。
行平:まずは島の皆さんに航路の現状を知ってもらうことが大切だと思っています。航路についての意見交換会が行われた喜界島では、船員不足を知った島の方が「まずは乗る時に『ありがとう』と言おう」とおっしゃっていました。それも非常に大事なことだと思います。
木村:私自身、小型船舶の免許を取って初めて海に出た時に感じた、緊張感や難しさが創業のきっかけのひとつです。そんな技術をテクノロジーの力でサポートして、新しい船舶の運航スタイルを構築することで人材登用の幅が広がってくるんじゃないかなと思います。
叶 本当に待ったなしの深刻な問題だからこそ、皆さんが当事者意識を持って本気でやるような時代になってきていると思います。船員不足を乗り越えていく知恵を関係者の皆さんが出していく時に、何十年も前にできた国の制度と現状がうまく合わず、創意工夫を妨げるみたいなことがあってはいけないなと僕自身思っています。そういった意味で離島航路の持続に資するように、国の方でもいろいろな制度をアップデートしていきたいです。
<完>
登壇者の皆さん、ありがとうございました!