つくろう、島の未来

2025年10月30日 木曜日

つくろう、島の未来

国内417離島に暮らす人は100万人弱。それぞれが住人の生活空間であり、訪れる人に癒しや学びを与える場であり、国にとっては、世界6位という広大な面積を誇る 「日本の海」を平和的に維持するための拠点でもある一方、人口減少によるインフラ縮小や気候変動などの諸課題が急増。2025年は隠岐諸島や奄美群島の主要航路で減便が発表され、医師、保育士、公務員など暮らしを支える人材の不足も深刻化しています。

いま、私たちは考えるべき岐路に立っています。未来に向けて、流れに身をゆだねていくのか。それとも、「こんな未来をつくりたい」という意志を持ち、歩んでいくのか。リトケイは、未来に向けた 人々の「意志」を共有。今回は、石垣島で「未来へ手渡す島の宝」 を理念に活動する『北極星倶楽部』 (にぬふぁぶしくらぶ)を設立した前泊亜子さんが、「意志ある未来」 を問う5つの質問に答えます。

※この記事は『季刊ritokei』50号(2025年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

目に見えない島の宝も未来へ手渡していきたい

前泊亜子さん顔写真

沖縄/八重山諸島
前泊亜子(まえどまり・あこ)さん
石垣島出身。高校卒業後、 大学進学で上京。 高校教員免許 (世界史・地理) を取得しつつ、学業と平行し外資系レコード会社にて勤務。就職は、 リクルート関連の大手出版会社へ。帰省した際、自然と生活の近さに感動し、沖縄本島へ移住。広告代理店で、制作・営業・企画。経験を積んだ後、実家の泡盛製造業へUターン。エシカル消費体験を機に、起業。現在は、株式会社ICHICA 代表。地元ラジオパーソナリティー、アイランダー・サミットローカルプロデューサーを経て、2025年6月には「未来へ手渡す島の宝」を理念に活動する『北極星倶楽部』 を設立。代表理事として、民俗文化的な活動を通し更に島から学んでいきたい

Q1. ご自身にとっての「愛しき島の風景」とは?

暮らしと自然がとても近いこと。昼夜問わず空や海、緑や天体が見せてくれる完璧な風景。また、家の軒先の魔除けのスイジガイや、お弁当箱の上に添えられる魔除けの「サン」、大木を迂回するようにつくられた島の道など、目に見えないものに対する畏敬の念を感じられる日常が好きです。

八重山諸島の島々では方言もちょっとずつ違っていて、祭りごとにも個性があります。 公にみせられる祭りもあれば、撮影や説明することすらタブーとされる秘祭もある。そういった、昔ながらの掟や習わしが丁寧に守られている民俗文化を尊敬しています。

租納の節祭風景
15世紀に起源を持つという伝承が残る「租納の節祭(シィチィ)」。
1991年に国の重要無形文化財にも登録されている(西表島)

Q2. ご自身が望まない 「なりゆきの未来」とは?

やはり人材不足や物価高騰による人口減です。国内の未来の課題と一緒だと思いますが、 離島はそれらがいち早く顕著に表れますよね。長い歴史のある学校が何校か閉校していて、そこの出身の方が、涙を流されていたのを目の当たりにすると、この先の未来をネガティブに捉えてしまいます。

が、人類の歴史を見ていると何度も立ち上がっているので、離島ならではの「明るい未来の捉え方」 もあると信じています。

サザンゲートブリッジ風景
八重山郡民にとって馴染みのあるシンボル「サザンゲートブリッジ」

Q3. どんなことでも叶うとしたら、ご自身が望む島の未来(意志ある未来)はどんな姿をしていますか?

夢物語みたいなことでも良いですか?竹富町の島々では、生活用水を送る海底送水管が一部通っているのですが、その大きいバージョンで物資を運搬できるチューブのようなトンネルがあったらいいなあと妄想しています。

リニアモーターカーみたいに磁力で少し浮かせて物凄いスピードで海底を移動できたら、天候や船便に左右されずに物資が運べますし(笑)。

石垣島の港風景
約5万人が暮らす石垣島と八重山の島々をつなぐ港風景

もうひとつ、私は島に海外の方が増えるのも嬉しいです。お互いの背景を尊重し合って仲良くなれるとこんなに良いことはないですよね。外国人労働者の一部は、昔の日本人が持っていたような人情深さがあるそうで、介護施設にいるおじいおばあから「とってもかわいいさ〜」と評判になるヘルパーさんもいるとか。良い話だと思いました。

Q4. いま、島にはどんな現実的な壁があると感じていますか?

やはり人材不足ですね。全国的な課題でもありますが、第一次産業、島々を結ぶ船や、介護施設、公共交通機関、飲食店、宿泊施設等の人出不足など。

一次離島から先の二次、三次離島の人材不足の確保と、せっかく島に来てくださった人達が帰ってしまわれないような地域の在り方や「ここって楽しい!」と思える深い仕組みづくりを考えて工夫していきたいです。

宮鳥御嶽での青年文化発表会風景
宮鳥御嶽での青年文化発表会。夏を告げる風物詩(石垣島)

Q5. その壁を越えるために必要なアクションは?

先日大阪へ行ったのですが、多くの人で活気があって賑わっている街中がとても久しぶりで。ふと台湾有事の心配もすごく遠い話のように感じて「やはりここは安全なんだな」と思ったんです。昔と違いどこにでも好きなように住める時代。だからこそ「私はなぜ島に住むのか?」と問いを立てました。

その問いの答えはいろいろありますが、島の大切な距離感や風景、民俗文化を、世代間を超えて共有したいと思い『北極星倶楽部』という団体を立ち上げました。それが、物事の解決になるアクションかどうかは分かりませんが、年配と若者を繋ぐ役目があっても良いのかな、とも思えました。

その第一弾として、八重山諸島や沖縄に古くから伝わる妖怪や魔除けの話のイベントを開催し、200名近い皆さんにおもしろがっていただきました。私たちの足元には、掘るとまだまだたくさんの泉が出てくることを少しでも多くの方と共有し、私自身がそれを一番勉強していきたいと思っています。

ハーリー(海神祭)風景
ハーリー(海神祭)の風景。豊漁と航海の安全祈願のために行われている




     

特集記事 目次

島々が向かう意志ある未来となりゆきの未来

国内417離島に暮らす人は100万人弱。それぞれが住人の生活空間であり、訪れる人に癒しや学びを与える場であり、国にとっては世界6位という広大な面積を誇る「日本の海」を平和的に維持するための拠点でもあります。

一方、島々では人口減少が進み、インフラの維持や気候変動などの課題が急増しています。2025年は、隠岐諸島や奄美群島の主要航路で減便が発表され、医師、保育士、 公務員など暮らしを支える人材の不足も深刻化しています。

いま、私たちは考えるべき岐路に立っています。このまま流れに身をゆだねていくのか。それとも、「こんな未来をつくりたい」という意志を持ち歩んでいくのか。本特集では、未来に向けた 人々の「意志」 を共有します。

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