つくろう、島の未来

2024年10月22日 火曜日

つくろう、島の未来

離島の課題と可能性を学ぶオンライン勉強会開催中

11月14日(木)、東京ミッドタウン八重洲カンファレンスで「未来のシマ共創会議」が開催されます。

国内417島の有人離島は、人口減少・高齢化・地球沸騰化等の課題に対し、新旧の知恵とテクノロジーを活用した取り組みが展開される「日本の未来の先進地」。そんな離島を舞台に持続可能な世界をつくる共創を生み出す参加型イベントです。詳細は特設ページをご覧ください。

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当日まで、毎週木曜20~21時半に、共創会議の参加者を対象に、実践者や有識者から離島の課題と可能性について事前にインプットできるのオンライン勉強会を開催しております。テーマは、インフラ、資源の活用、医療、子育て魅力化、お金の話など……離島の持続可能な社会において直面するものばかり。

島々で現実に起こっている状況や取り組みを知っていただくことで、当日のセッションやワークショップがより立体的なものになるかと思います。そこで、勉強会の様子が分かる短めのレポートをご紹介。勉強会は共創会議終了前後までアーカイヴ視聴できますので、安心してご参加ください。

ここからは、リトケイのプロボノチーム「うみねこ組」の吉屋寿則さんが、事前勉強会Vol.5「島の課題と可能性×医療」のレポートをお届けします。

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私は、愛媛県中島にある特別養護老人ホーム姫ヶ浜荘で看護師として働いています。離島での医療に関心を持つようになったのは、大学生の頃、広島県の大崎上島でのボランティア活動がきっかけです。以来、離島医療や介護の課題と向き合い続けています。

今回の勉強会では、「島の課題と可能性×医療」をテーマに、現場で取り組む方々からのリアルなお話しを伺い、多様な視点で深く考える貴重な機会となりました。

登壇者は、鹿児島県下甑島の手打診療所所長・医師である室原誉伶さん、島根県海士町で「離島医療会議」を開催するなど医療と地域づくりを牽引する阿部裕志さん、そして私自身も、現場で感じる離島医療の課題や展望をお話しさせていただきました。

愛媛県中島から吉屋
鹿児島県下甑島から室原さん
島根県海士町から阿部さん

「支えあい」と「共創」が生み出す未来

私は、離島での医療や福祉が単に制度やサービスとして提供されるだけでなく、住民同士の支えあいの中に根付いているということをお話ししました。島の医療や福祉は、都市部と違い、物理的な制約や人手不足に直面しています。しかし、こうした環境だからこそ、住民同士の「助けあい」の文化が根強く息づき、これが島の社会を支える力となっています。

たとえば、近所の人とお互いに野菜を分けあったり、移動が難しいお年寄りを自然に見守ったりといった日常の中で、住民同士が支えあう姿は、都市では見られない離島独自の「互助」の形です。こうした相互扶助の精神が、高齢者ケアの現場でも大きな役割を果たしており、地域全体で安心して暮らせる環境を作り出しています。

離島が目指す「地域共生社会」とは、こうした支えあいの精神を土台に、世代や分野を超えて人と人、資源がつながりあうこと。これにより、限られた社会資源を最大限に活用し、すべての住民が豊かに暮らせる仕組みを築いていくことだと感じています。

島に「生きる」、そして「島を生きる」

Dr.コトーの舞台のモデルとしても知られる、鹿児島県下甑島の手打診療所。そこに所長として勤務する「令和のDr.コトー」こと地域医療に携わる室原誉伶さんは、島の「医師」という枠を超えた存在です。室原さんは「自称・総合診療医」として、どんな患者の悩みでも受け止め、解決に向けたサポートをしています。

たとえば、診療所に訪れるお年寄りの「家で暮らし続けたい」「日々が楽しくない」といった声に真摯に耳を傾け、その人が生き生きと暮らせる方法を模索しています。

室原さんが強調していたのは、医療者として患者の「生きたい」という願いに応えたいという想いです。しかし、医療資源の不足や自然環境による交通の制限など、様々な制約が島の医療に影響を与えており、思うようにサポートできない現実もあります。

それでも室原さんは、こうした限界に向きあいながら、患者一人ひとりの生活に寄り添うことを大切にしています。その姿勢は、「島で生きる」だけでなく、「島を生きる」ための新しい医療のあり方を体現しているように感じました。

室原さんは、医師としてだけでなく、島の生活に寄り添い、田んぼを耕し、住民と共に田植えを楽しむ姿が印象的です。医療の枠を超えて、地域づくりに深く関わる姿勢が、まさに室原さんのいう「職業島民」としての姿を体現しているのでしょう。

「風の人」と「土の人」の共創

一方、島根県海士町で医療と地域づくりに取り組む阿部裕志さんは、元トヨタのエンジニアという異色の経歴を持つ方です。阿部さんは、医療は制度や技術の問題にとどまらず、地域での生き方そのものに関わっていると話します。

阿部さんが立ち上げに大きく関わった「離島医療会議」は、学会でも国策会議でもない、現場のリアルな課題に向き合う当事者同士の戦略会議としてスタートしました。2018年の海士町における医療体制再編の提言から始まったこの取り組みは、「完全な自立」ではなく、「多くの依存先を持つことで成り立つ自立」を目指している、と阿部さんは語ります。

世代交代や新たな医療体制の構築、さらには地域にとって医療がどれだけ重要な役割を果たしているかを示す場となっているようにも感じました。

阿部さんが主導するプロジェクト「SHIMA-NAGASHI」は、企業研修などを通じて「風の人」(よそ者)と「土の人」(地元住民)が共に学びあい、地域の未来を共創する取り組みです。そして、阿部さんは「0.5%の人口が50%の海域を守る」「世界自然遺産の60%が離島に存在する」という離島の価値を強調し、離島が日本の社会全体に持つ意味を見つめ直していました。

「風の人」と「土の人」が共に手を携え、離島医療や地域づくりに取り組むことが、新しい島の風土を生み出し、地域全体の持続可能な未来を創造することにつながると阿部さんは語ります。

今回の勉強会を通じて感じたのは、離島での医療や福祉の取り組みが、単なるサービスではなく、「暮らしそのもの」に深く根付いているということです。住民同士の支えあい、そして「風の人」と「土の人」の共創によって生み出される「共生」の形は、都市部では得られない価値と可能性を秘めています。

離島での医療や地域づくりの実践は、いわば全国に広がるモデルケースでもあります。今回の勉強会を通じて、離島の医療が単なる「ケア」を超え、「地域づくり」や「生きること」の根本に関わっていることを改めて実感しました。

文:吉屋寿則(うみねこ組)

未来のシマ共創会議、参加受付中です。

未来のシマ共創会議への参加チケットは、イベント前日の11月13日23:59まで販売中です(オンライン参加は上限なし、会場参加は完売し次第終了)。繰り返しになりますが、すでに終了した勉強会についても、共創会議の終了前後までアーカイヴ視聴が可能となります。

離島経済新聞社が、「なつかしくて あたらしい ミライの島を 共につくろう」をテーマに、産学官などの垣根を越えて語り合い共創するまたとないイベントです。オンラインでの参加や後日視聴も大歓迎。奮ってご参加ください。

「未来のシマ共創会議」チケット販売ページ
「未来のシマ共創会議」特設ページ

     

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