つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

2022年7月8日、全国約400島から「利尻昆布」で知られる利尻島(北海道)、全国有数の「いりこ」生産地である伊吹島(香川県)、トビウオからつくる「あごダシ」の文化が根付く五島列島(長崎県)の郷土食を知る人や漁業従事者、日本のダシ文化に詳しい料理の専門家を招いたオンラインイベント「離島の極上ダシを味わう旨味体験会」を開催しました。

3島のダシを事前にお届け!オンラインとリアルで楽しむ旨味体験会

「海の旨味をたのしもう〜離島の極上ダシを味わう旨味体験会〜」は、島々のダシが手元に届き、その美味しさを実体験できる貴重な機会とあって、チケットは即日完売。開催前から注目を集めました。参加者には3つの島から選りすぐりのダシを事前にお届けし、イベント当日にはダシをおいしく味わうレシピもプレゼント。

はじめに、離島経済新聞社の鯨本あつこが、日本に約400島ある有人離島を対象に、メディアを通して島を伝える「伝える活動」、島と外部の団体や人をつなぐ「つなぐ活動」、島を営む人材を育む「育む活動」の三本柱で、島の宝を未来につなぐ離島経済新聞社の活動を紹介。続いて、3地域から出演するゲストによる自己紹介と島紹介が行われました。

人口4,204人(※6月末現在)中、480人ほどが漁業に従事する利尻島からは「利尻町定住移住支援センターツギノバ」の運営や地域づくり事業を担当する離島経済新聞社の八木橋舞子が出演。天然昆布漁など島の漁業や、利尻山などの自然を体験する島の観光について紹介しました。

お次は、人口約300人ながら全国有数の「いりこ」生産地である伊吹島(香川県)。紹介するのは、神奈川県から四国へ移住し、四国や瀬戸内海の島々の生産者を取材する編集者、特産品のパッケージデザインや写真撮影、ビッグデータを駆使した産業分析などマルチに活動する、ゆうさかなさん。

写真やデータ分析を交えながら、明神祭や懸の魚(かけのいお)など島に根付く漁村文化や、捕れたてを新鮮なうちに加工する伊吹島のいりこ漁の背景、島で味わえるいりこを使った島グルメを紹介していただきました。

トビウオからつくる「あごダシ」の文化が根付く五島列島からは、人口16,350人の中通島(長崎県)にある有川町漁業協同組合の江濱真一郎さんが出演。

世界文化遺産に登録された潜伏キリシタン信仰の歴史と伝統的な保存食「かんころ餅」とのゆかりや、あごダシの原料には旬の時期があり、脂質の少ない秋に捕れたトビウオが適していることなどをお話しいただきました。

続いて、食育や食文化の講師であり、干物や江戸料理の研究もされている料理人のうすいはなこさんが登場。プロとして食に携わる料理人の視点で、日本のダシ文化の歴史と島々のダシの特長をお話しいただきました。

日本のダシのルーツは、紀元前1300年前。縄文時代の人々が野菜や貝の煮汁を使って料理をしていたことが分かっており、火を通すことで食材の苦味や渋みを和らげつつ、その成分を活用していたと考えられるそうです。

今回イベントのテーマとしてとりあげたような干した海産物は、8世紀の正倉院文書に租税として献上された記録が残っており、租(米)庸(労働力)調(その他)の調には、塩に次いで各種海産物の干物が指定されており、庶民が気軽に口にできるものではありませんでした。

貴重品だったそれらが庶民に広まったのは、江戸時代のこと。各地方で名産品がつくられ、あごも献上品として記録に残されています。

干した魚の食文化が成立するためには、第一に原材料となる海産物が捕れて風のある環境が必要。第二に食文化を次世代に教育し、つくり続けること。海に囲まれた小さな共同体で、生業も限られていた離島地域には、そうした条件が揃っていたため、ダシの文化が継承されてきたのです。

ダシのおいしさを楽しく深掘り!島々トークセッション

ここまでの話を踏まえて、うすいさんと3地域のゲストを交えたトークセッションコーナーへ。司会からの「地元ならではの味わい方や個人的に好きな食べ方は?」との問いかけに、「夏場の水分補給に、水筒に入れたダシを持ち歩く。うどんやさんでも水筒にダシを入れてくれる」(伊吹島・ゆうさかなさん)「利尻島では漁師さんたちが昆布ダシで焼酎を割って飲む」(利尻島・八木橋)「関東のリピーターさんで、カルシウム豊富なあごの粉末をお米と一緒に炊いて食べている年配の方も」(五島列島・江濱さん)など、バラエティ豊かな楽しみ方が共有されました。

「利尻島の人たちはラーメンが大好き。昆布でダシをとってラードを入れてつくったラーメンは昆布の風味がしておいしいです」と話す八木橋に、うすいさんが「昆布はグルタミン酸含有量が世界一の食材。昆布ダシにラードを入れるとイノシン酸が加わり、ダシを濃厚にしてくれるので、理にかなった食べ方ですね」とコメント。

うすいさんの「イノシン酸の含有量トップは、煮干し。いりこにはグルタミン酸とイノシン酸の両方が含まれているのでおいしい」との解説に、伊吹島担当のゆうさかなさんの目がキラリ。「あごもイノシン酸が豊富。顔はきついけどダシの味はまるい」(うすいさん)など、3島のダシのおいしさを楽しく深掘りするトークとなりました。

折しも利尻島は、昆布の収穫シーズン。鯨本の「利尻島では昆布干しの作業を全島民で行うんですよね」との問いかけに「私も、今朝行ってきました!」と八木橋。「昆布干しは早朝に始まり、作業の後は炊き立てご飯と味噌汁、おかずが大きいテーブルにどーん!と並んでみんなで朝ごはんを食べます」(八木橋)という話には、チャット欄に「昆布を通したでっかい家族なんですね〜いいな〜みんなで朝ごはん〜」と参加者からのコメントが。

島民全員が参加する利尻島の昆布干しは、うすいさんのお話にあった食文化を伝える教育の実例といえます。

素材のおいしさを引き出す!ダシのとりかた実演

楽しいトークの後は、うすいはなこさんが2カメラ体制でおいしいダシのとり方を実演。「昆布のダシが出始める温度は60度、沸騰させるとぬめりや雑味の原因に。昆布を取り除いたあとに沸騰させて水道水のカルキを飛ばすとすっきりとした味わいになります」、「いりこは水から入れて弱火で温めて。箸でつつかずやさしい気持ちで待つ。苦味が苦手な方は、頭と内臓を先に取り除いておくと良い」、「あごダシをとった後の身をほぐして七味マヨネーズで和えるとおいしく食べられる」、などのアドバイスを交えながら、それぞれのダシをとる際のポイントを紹介していただきました。

「24時間食材を煮込んだりするフランス料理など海外のダシに比べ、15分ほどでダシがとれてしまう日本のダシはインスタントと表現されることもある。けれど実は、日本のダシは製造工程に時間がかかっており、先人の知恵のおかげで私たちがインスタントにダシを取ることができる。皆さん、ダシをとりましょう」と参加者へ呼びかける、うすいさん。ダシをとったあとのダシがらのおいしい活用法や、旬の夏野菜をダシでおいしく味わう料理なども披露されました。

ダシのとり方や料理のレシピは参加者にも共有される旨アナウンスがあると、参加者から早速「今まで佃煮ばかりだったから(レシピが)とっても楽しみ〜絶対やるぞおおお」とのコメントが寄せられていました。
オンラインで3島のダシの楽しみ方を学び、届いたダシとレシピをつかってそれぞれのダシの魅力を実際に体験していただける本イベント。3地域の島々の背景も含めたダシの魅力を深く感じる機会となりました。

イベントのチャット欄・参加者アンケートより参加者の声を一部紹介

・出汁愛をたくさんシェアして頂き感謝です。
・島々のダシは、地理的条件に恵まれ、食文化を継承てきたからこその賜物なのですね。ダシのありがたみを感じるお話でした。
・「昆布」や「いりこ」「あご」は知っていても産地の話を聞けるチャンスは中々無いので本当に貴重な時間となりました。実際に商品を送って頂けたので、早速チャレンジできるのも魅力だと思います。
・プレゼンターの方が島の写真や日々の生活のお話をしてくださったので、どんなところなのかイメージしやすかったです。伝統的な食材の地元の方の食べ方を教えてもらえるのがよかったです。うすいさんのアレンジも教えていただき大満足です。
・島の暮らしや文化など、食を通じて垣間見ることが出来てよかった!
・立派な出汁の食材が送られてきたこと。北海道、四国、九州の3地域と繋がり、地場産業に携わっている方々から直にお話が伺えたこと。それぞれの素材の持ち味を生かして美味しく出汁をひくコツを、プロからデモ付きで学べてレシピも頂けたこと。至れり尽くせりで本当にありがとうございました。
・会の後五島うどんに合わせたい!と思ったのでさっそく検索して購入しました!
・温暖化など地球環境が不安視される中ではありますが、地域ごとに誇れる魚資源が未来に繋がりこれから先も有人島であり続けるよう、同時に漁業に携わる方々の生活や文化が守られるよう、ますます多彩な発信を続けてくださることを期待し楽しみにしています。


この企画は次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

日本財団「海と日本プロジェクト」

さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。

     

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