新潟県北部に浮かぶ粟島(あわしま|新潟県)では、新型コロナウイルス感染症が全国的に流行するなか、島へ渡る観光客が激減。島と本土を結ぶ粟島航路を運航する船会社が経営危機に陥り、航路存続が危ぶまれている。そこで粟島浦村は、ふるさと納税によるガバメント・クラウドファンディング(※)を立ち上げ、人や物資を運び、島の暮らしと基幹産業を支える航路を守るチャレンジを開始。2月19日まで寄付を受け付けている。
※地方自治体がインターネットを通して世の中に呼びかけ、共感した人から資金を募る仕組み
来島自粛要請の背景に島の医療事情
約350人が暮らす粟島は、粟島汽船株式会社が運航する高速船(所要時間55分)とフェリー(同90分)が島と新潟県本土の村上市を結んでいる。
年間に来島する観光客数は約2万人。漁業と観光を基幹産業とし、島外から小・中学生を迎える「しおかぜ留学」等の取り組みも行われている。
島と本土を結ぶ足として、生活物資の運搬や、島から出荷する海産物などを本土へ送る役割も担う粟島航路は、島の暮らしに欠かせない。その航路が今、存続の危機に立たされている。
2020年初頭より拡大した新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響は島にも押し寄せ、粟島でもイベントの中止や来島の自粛要請が行われてきた。
粟島浦村では4月8日付で「観光客及び帰省客等の皆様に対する旅行等の見直し・延期のお願い」を発表。政府による「緊急事態宣言」の対象地域が全都道府県に拡大されたことを受け、5月の大型連休には再度の来島自粛要請も行ってきた。
夏の観光シーズンに向けて、村では「国内および県内の感染状況等により、直ちに自粛要請に切り替えること」を前提とし、全国からの来島者を受け入れる予定だったが、7月15日、東京都が「感染拡大警報」を最高レベルに引き上げ、不要不急の都外への外出自粛要請を発表したことを受け、7月16日に東京都民へ向け不要不急の来島自粛を要請。8月8日以降は、人口10万人当たりの新規感染者数(7月25日~31日時点)が2.5人以上の都道府県に対象を拡大し、観光目的の来島自粛を呼びかけた。
来島自粛要請の背景には、小規模離島ならではの医療事情がある。
島唯一の医療機関である診療所には医師が常駐していない。月3~4回、村上市内の病院から派遣される医師による出張診療や、インターネットを用いた遠隔診療のほか、年に1回行われる検診などで住人の健康が支えられている。
医師が常駐していない島での感染拡大は、医療機関が整う地域に比べてリスクが高いため、村では住民の命を守ることを最優先に、12月現在も「1週間ごとの人口10万人当たりの新規感染者数が2.5人以上」の基準を超える県と、新潟県で基準を超える市区町村の住人に対し来島自粛を要請。来島者に対し、来島2週間前からの健康観察票の提出協力を求めている。
「ふるさと納税」で粟島航路を支援
粟島航路は、海が荒れやすい冬は何日も欠航が続くこともあるため、粟島汽船では、春夏に来島する観光客らの利用を収入の大きな柱としてきた。
しかし、年間約2万人規模の観光客数が約7,000人にまで激減した今、同社は経営危機に陥り、航路維持が危ぶまれる事態となった。
粟島浦村は3,000万円を同社に融資することを決定したが、航路維持に必要な資金額には至っていない。採算性を取ることが難しい離島航路に対し、金融機関からの融資を募ることは容易ではなく、コロナ禍による公共交通機関の大幅減収に対する公的支援もないのが現状だ。
この状況を打開するべく、粟島浦村は「ふるさと納税(※)」制度を利用した、ガバメント・クラウドファンディングに乗り出し、粟島汽船を支援するための寄付を広く呼びかけている。
※ふるさとや応援したい自治体に寄付できる制度。控除上限額内の2,000円を超える部分について、所得税や住民税の還付・控除が受けられる
航路を守ることは、島の未来に直結する。粟島浦村は離島地域ならではの「島の自然力」「島の暮らし力」「地域の温かさ」を活かしたキャリア教育や離島留学にも力を入れ、過疎対策の先進的・モデル的事例として今年、令和2年度過疎地域自立活性化優良事例表彰(総務大臣賞)も受賞。多様な可能性を秘めている。
粟島浦村は、ふるさと納税サイト『ふるさとチョイス』で2月19日まで寄付を受け付けている。
【関連サイト】
ふるさと粟島を未来につなぐために、航路の存続を応援してください!(ふるさとチョイス)