つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えるとも予測されています。離島地域にも人影を失った建物が増えるなか、住居や旅館など、かつての役割を失ってしまった空き家が英気を取り戻し、にぎわいを呼び込む拠点となった「島に福よぶ空き家活用」の事例を紹介します。

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。

国内最多の有人離島を誇る長崎離島の空き家活用

国内で最も多くの島を擁し、県民の1割近くが島で暮らす長崎県。島の活性化が、強く求められている長崎の離島エリアで、小値賀島(おぢかじま|小値賀町)と壱岐島(いきのしま|壱岐市)の両島では、空き家から新しい価値を生み出し、力強く前に進む動きがみられる。

島暮らしを希望するアッパーミドル層を開拓「古民家ステイ」

古民家を活用し、島に新たな風を吹き込んだ事例として、最もよく知られている成功例の一つが小値賀島を舞台とした「古民家ステイ」だろう。

古民家ステイは、小値賀島で築100年を超す武家屋敷や旧家の屋敷などの古民家を現代風にリノベーションし、一棟一組貸し切り型の宿泊施設として活用する取り組み。東洋文化研究家のアレックス・カー氏がプロデュースを手掛けた。

(提供:おぢかアイランドツーリズム)

古き良き日本建築の美しさを残しつつモダンで快適な空間をつくり上げているが、古民家の商業利用だけが目的ではない。この取り組みの背景には、朽ちるばかりの建物を守り、島の景観や文化を後世に残し伝えていきたい――との思いが込められている。

これまで整備された古民家は6棟で、これらの物件は島の住民が「まちづくりに活用してほしい」と町に寄付を申し出たもの。町が保有し、特定非営利活動法人「おぢかアイランドツーリズム」が管理運営を手掛けている。

古民家再生に投じた整備費は、延べ2億6000万円程度。原資として国の補助金を約7700万円活用したほか、町が起債するなどして調達した資金や民間からの投資もある。

(提供:おぢかアイランドツーリズム)

古民家ステイが生み出した価値について、町の担当者は「古民家再生事業が始まる前までは、古い民家は壊すしかない、といった感じだったが、リノベーションすれば新たな価値を生み出すことができることが分かった」と話している。

島への観光客も、以前は夏場中心で海水浴やキャンプを楽しむ程度だったが、「島暮らし」の体験を希望するアッパーミドル層の開拓に成功したという。

歴史ある旅館を再生させた壱岐島

一方、壱岐島を舞台に、新しい動きとして注目を集めているのが2018年春にオープンしたゲストハウス「LAMP(ランプ)壱岐」だ。

(提供:LAMP壱岐)

運営を手掛けるのは、WEB制作会社の「LIG(リグ)」。LAMP壱岐の支配人は、同社の勢古口光(せこぐちあきら)さんが現地に移住する形で務めている。

勢古口さんは、国が2016年に開催した島と事業者とのマッチングイベントに参加した際、壱岐市職員から取材依頼を受けた。

後日、現地入りした際、かつて旅館として使われていた築90年以上を誇る木造3階建て物件を「何とか活用できないか」と所有者から声を掛けられたことがゲストハウス運営のきっかけとなった。

LIGは他県でもゲストハウスの運営実績があり、ノウハウの蓄積があったことも開業を後押しした。旅館は「かつては島のシンボル的な存在だった」(勢古口さん)という由緒ある物件で、結婚式などにも使われていたという。

改修には、LIGの自己資金に加え、2017年施行の「国境離島新法」により設けられた島で創業・事業拡大環境を整備するための交付金制度を活用した。

(提供:LAMP壱岐)

旅館の趣を残した改修は高く評価され、国内のリノベーションコンテスト「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2018」で特別賞の「デスティネーションデザイン賞」も受賞している。

勢古口さんは「開業間もなく、まだ結果というほどのものは出ていないが、歴史ある島の旅館が復活したということで島の人に喜んでもらえているのでは」とし、今後については「地域に根付く形で、地域に愛される場所として育てていきたい」と話している。

(取材・文 竹内章)

【施設概要】
小値賀・古民家ステイは、1~6人まで利用可。2人利用・素泊まり食事なしで季節により1泊10,500~14,500円。LAMP壱岐は、ドミトリー(1人1泊4,000円~)個室(1部屋=定員2~6人=12,000円~)の両タイプがある。
※いずれも取材時の料金のため詳細は各施設へお問い合わせください。

【小値賀島(おぢかじま)】
小値賀町の島。佐世保から約1時間半の高速船やフェリー、博多港から約5時間のフェリーが運航。

【壱岐島(いきのしま)】
壱岐市の中心島。博多港から約1時間の高速船やフェリー、佐賀県唐津市からの定期船が運航。

特集記事 目次

特集|島に福よぶ空き家活用

2019年現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えると予測されています。 過疎地域だけに限らず、空き家の増加が社会問題となるなか、少子高齢化や都市部への人口流出が続いてきた離島地域でも、島の風景に家主を失った家々が増えているのではないでしょうか。 廃校などの公共空間を中心にした休眠空間の利活用事例を特集した前号「島の休眠空間利活用」に続き、今号では空き家となった住宅や民間施設をテーマに、離島地域の活用事例を特集します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。

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