つくろう、島の未来

2024年11月25日 月曜日

つくろう、島の未来

奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)・沖永良部島(おきのえらぶじま)の観光協会が、100年先の未来を見据えた島の振興計画「Island Plus おきのえらぶ島計画」を策定した。振興計画に込める願いや具体的な施策について、一般社団法人おきのえらぶじま観光協会 古村英次郎事務局長に話を聞いた。(写真提供:一般社団法人おきのえらぶじま観光協会)
※この記事は、『季刊ritokei』23号(2018年2月下旬発行)「注目の島づくり特集」連動記事です。

「エラブユリ」などの花卉やバレイショ、サトウキビなどの農業が盛んな沖永良部島

農業の島を揺るがす人口減少

沖永良部島は、鹿児島から南へ約536km、沖縄本島から北へ約60kmに位置する、面積93.65キロ平方メートルの隆起珊瑚礁の島だ。和泊町(わどまりちょう)・知名町(ちなちょう)の2町からなり、合わせて12,696人(※)が暮らしている。

※2018年2月1日現在(自治体最新統計)

平坦な地形を生かし、農地整備が進められてきた沖永良部島では、農地が全体の48パーセントを占める。農業を仕事にする人の割合も約3割(※)と高く、花卉(かき)やバレイショ、サトウキビなどの農業が島外から外貨を稼ぐ主産業となっている。また、多くの住民が自家菜園などでの食料自給に携わり、農業が島の暮らしを支える基盤となっている。

※九州農政局ホームページ「沖永良部島の農業」より

主産業である農業が堅調である一方、少子高齢化により2040年には島の総人口が現在より2割以上少ない10,406人(※)に減少すると推計されている。

※国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』(平成25年3月推計)

この数字をもとに2040年までに人口が2,417人減少した場合の人口1人あたりの年間消費支出を計算すると、約29億7千万円の島内消費が失われることになる。

※家計調査(2016年総務省統計局)では、人口1人あたりの年間消費支出は123万円

沖永良部島では、人口減少による生業の担い手不足に加え、消費減少がもたらす地域経済への深刻な打撃が予想され、知名町が「消滅可能性自治体」(※)の1つに数えられるなど、島の自治体機能維持も難しくなると危惧されていた。

※日本創成会議・人口減少問題検討分科会の推計による「消滅可能性」896自治体

2町が連携し挑戦する、観光による地域づくり

一方で、沖永良部島では和泊・知名両町にあった観光協会を統合し、2015年におきのえらぶ島観光協会が発足。エコツアーや芭蕉布づくり体験などの地域資源を活かした観光への取り組みが本格的に始まっていた。

同協会で事務局長を務める古村英次郎さんは「沖永良部島は農業でやってきた島。これから本格的に観光客を受け入れる体制づくりのために、まずはホームページを開設し、宿泊や飲食、アクティビティの情報を一元化させました」と話す。

ホームページでは、島内の主要観光地や季節ごとの服装の目安、島へのアクセス情報のほか、「遊ぶ」「買う」「食べる」「泊まる」などの目的別に事業者の情報を分かりやすく整理。

オリジナルグッズや島の物産の通信販売機能も備え、イベント案内や島の観光にまつわるニュースなどの「お知らせ」もこまめに更新されている。島内には観光案内所を兼ねた事務所も開設し、観光客に向けた情報提供や物産の販売を行なっている。

おきのえらぶ島観光協会が運営する観光案内所の前で。左が古村事務局長

2015年12月、観光庁が「日本版DMO候補法人」登録制度の募集を開始した。各地域が特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生できるよう、経営的な視点に立って観光地域づくりを推進するDMO(※)を日本の各地に形成し、登録されたDMO法人に対し関係省庁が支援を行う。政府は2020年までに65から90の日本版DMO法人を育成する方針だ。

※DMO……Destination Management/Marketing Organizationの略。官民協働で市場調査などの手法を用い、経営的な視点から観光地域づくりを進める法人

こうした動向も踏まえ、おきのえらぶ島観光協会では2016年より「おきのえらぶ島観光DMO化事業」に取り組み、その一環で2017年3月に100年先の未来を見据えた島の振興計画「Island Plus おきのえらぶ島計画」を策定した。

計画には、「観光と農水産業など島内の多様な産業連携により新たな価値を創造する」など、観光を軸とした地域活性化の方針が示されている。計画策定は、持続可能な観光地域づくりの第一歩だという。

「交流人口を増やし島の経済を潤すことも必要ですが、最も大切なのは自分たち住民が島のアイデンティティを育み、将来島で働きたいと思える子どもたちを増やすこと。アイランドプラス は、島内へ向けたメッセージでもあります」(古村さん)。

(記事後編に続く)

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