「島に暮らしたい人」と「住んでほしい島」が出会うユニークな取り組み。東京でのイベントルポです。
「島に暮らしてみたい」と考える人も、 実際に暮らすことをリアルに考えると不安も多く、 ただ遊びに行くのとは違った景色が見えてくるものです。 一方、「島に住んでほしい」と考える島からは、 特に人口が少ない島では、入ってくる1人の影響力が大きいため、 「誰でも良いわけではない」という本音が聞こえてきます。 そこで今、とある島で「ユニークな島人探し」が実施されています。
「離島」×「仕事百貨」のコラボプロジェクト
この取り組みがユニークなのは、 「東京仕事百貨」が職の情報ではなく、 移住先としての「島」を紹介していることにあります。
それもウェブサイトで紹介するだけでなく「島で生きる」をテーマに トークイベントやワークショップを複数回行い、 島の良い面も悪い面も予め知ってもらいながら、 実際に島を訪問してみるところまでが予定されているのです。
今回は、その第一弾として行われた 10月26日のトークイベントの模様を紹介します。 東京渋谷区で開催されたトークイベント「島で生きる」では、 シゴトヒトの中村健太さんをファシリテーターに、 ゲストに香川県の向島集会所のもりおかさんと、 口永良部島の山地さんを招いて、移住先の島や暮らしぶり、 島人との関係などがリアルに語られました。
中村
まずは、お二人の住む島とご自身の紹介から。
もりおか
香川県の向島(むかえじま)は、位置的には岡山に近く、 直島(なおしま|香川県)のすぐ目の前にある小さな島です。
直島から定期船があるわけではないので、 向島に来られる場合はうちの買出し船に相乗りして頂くか、 海上タクシー等で来てもらうことになります。
人口が18人で、そのうち12名が60~70代。 20~30代の方は4名で、私も含めて皆移住者です。 私は今ここで「向島集会所」というゲストハウスをやっています。
“ゲストと生活を共にする”というコンセプトで、 一緒に料理したり食事したりという住込み型のもので。
山地
口永良部島(くちのえらぶじま)は、屋久島(やくしま|鹿児島県)から船で渡るしかない島で、 150人程が住んでいます。屋久島からの船は一日一便。
各家にお風呂がないのが特徴で、 天然温泉を皆使っているようなところです。
ここで自分は4年ほど前から、牛を飼っています。 それだけでは食べていけないので、 会社を立ち上げて地域活性の仕事をしています。 毎日5時半頃起きて牛の世話をした後、 9時頃から会社の仕事をして15時頃から 再び外で道を作ったり、畑作業したりといった一日です。
中村
口永良部島の主な産業にはどんなものがあるんでしょう?
山地
イセエビ漁や畜産が主な産業です。 牛は乳牛じゃなくて、肉牛の方ですね。
イセエビ漁も昔は盛んだったけれど、 今は専業でやってる人はほとんどいないです。
島の若い人たちは運送会社の仕事を主にやっています。 船の荷役の仕事やチケットを売ったり、郵便配達、 宅配便の委託を受けて配達しています。
中村
口永良部島には、僕も1か月ほど前に伺ったんですが、 仕事で面白いなと思ったのが、郵便局や役所、 JA、小学校の先生以外の人たちは、 手に職を10個くらい持っていたり、 自分で家を建てちゃったりするじゃないですか。 道路の整備をしたり、鹿を一頭捕まえるといくらかもらえたり。 そういう様々な仕事を組み合わせて生きていくことはできるんでしょうか?
山地
30~40代の島生まれ島育ちの人が何人か居るんですが、 彼らは自分で家をつくったり何でも自分でできるんですよ。
だからどんな仕事も受けてやっていけるんですが、 僕も数年前に島へ移ったばかりだけれど、 僕らが都会からいきなり島へ行って何かできるかっていうと、 ほとんど何もできないんですよね。
だけど、まぁ島の人たちも最初からできたわけではないから、 必然性の中で少しずつ身についていくものじゃないかなと思います。
中村
お二人に共通するのは、 以前は都会でサラリーマンをやっていて、 島に移住されたことですが、移住する前と後で、 島に対する印象は変わりましたか?
もりおか
当たり前のことですが、 都会にいい人も悪い人もいるように、 島の皆がいい人ではないってことに気付いたことですね。
イイの定義も色々あるので、一概には言えませんが、 例えば自分と合わない人がいたとして、 都会なら疎遠になればいいけれど、島の場合はそうはいかない。
何とかその人とうまく話して折り合いをつけて やっていこうとする真摯な態度が、 島人全員へのメッセージとして受け取られると思うんです。
山地
自分もいい意味でも悪い意味でも、 島人皆に見てもらっている、という実感がありますね。
今日ここへ島の代表として来ていることも 島のほとんどの人たちが知っていますし、 自分がしたことですごく褒められたり、叱られることもある。 なんというか、ひとりの人間として しっかり見てもらっている責任感があります。
中村
お二人とも、島に移住して 既にある会社に就職したわけではないですよね。ゼロから仕事を創って島にいるわけですが、 離島という制約の中で仕事をすることについてどう思われますか?
もりおか
新しく仕事を創ることについては 島の人たちは保守的な面があると思います。
もう既にあるハマチや海苔の養殖、 三菱マテリアルの工員などで働いていれば安定するけれど、 それ以外は厳しいという常識があって。 そこで新しく仕事を創ることは、難しいと考えられる。
中村
そういう状況があるということですね。 その中でも、新しい仕事を具現化されているわけですよね。
もりおか
私は東京で10年以上、 ウェブのプランニングディレクションをやっていたんですが、 その頃から自分マーケティングを基準に仕事していました。
自分が本当に欲しいと思うものを形にできれば、 お客さんがいるはずという仮定があったので、 この島へ来た時も、自分が好きな場所であれば、 ここへ来たい人が日本全国に1万人は居ると思えたんです。
島の良さをきちんと伝えることさえ間違えなければ、 人は来てくれる自信がありました。 マスや世間一般に受け入れられることを考えるのではなく、 友達を増やしていく感覚でゲストが増えたらいいなと。
想定としては一年間で100万円の仕事を創れれば 死ななくて済むと思っていて初年度は120万円ほどの売上がありました。
山地
僕は最初に島へ行った時は、 民宿をやりながら牛を飼って漁師をやっている おじさんのところで手伝いをしていたんですが、 彼らの仕事はとても厳しいということがわかりました。
だから自分が島に残るとしたら、 彼らからお金をもらうことではない。 自分で稼ぐしかないと思ったんです。
で、何ができるかと考えた時に、 漁は今さら素人が入っても何の役にも立てないし、 料理ができないから民宿も無理だなと。 牛なら飼えるかなと思って勉強し始めたんです。 だけどそれだけではとてもじゃないけど食べられないことがわかって、 今は島の活性事業を請け負う会社を兼業でやっています。
中村
それでも、島の方々と一緒に打合せした時に、 とりあえずこの仕事で1か月分は食えそうだとか、 その次はこれで3か月イケル、と積み上げていくと、 一年間食べていけるという感じでしたよね。
環境省からの委託で登山道の整備をしたり、 ガイドの仕事や既存の仕事もあるようでしたし、 一方で新しく仕事をつくることも できそうな気がするんですが、どうでしょう? インターネットで仕事している人も まだあまりいらっしゃらないように思ったのですが。
山地
まだ光回線ではないのでネットの環境が いいとは言えないですが、可能性はあると思います。
ここで客席も交えての質問タイムに。 今就職活動中の学生さんから、どんな経緯で移住したのか? もしくは、どんな手続きで移住できるのか?という質問がありました。
もりおか
僕の場合は、まずは物件を探したんですよね。 向島にいい場所が見つかったので、 その後ここで家賃を払いながらやっていくために 何をしたらやっていけるかってことを考えました。
だから、先にここに住みたいという気持ちがあって、 その後何をやるか考えた感じですね。
山地
今回は僕が依頼して島に住む人を募集しているんですが、 まずは僕が面接するというよりは、島の人たちに会ってもらって まずはその島に住めるのかどうか、がまず一番にあります。
僕は決して島に住もうとか、 牛を飼おうと思って島に行ったわけではないし、 牛を飼うのもゼロからのスタートでしたが、 島の人たちにそうわかってもらった上で始めました。
次に、これまでに苦労したことや、 それに対してどんな対策やモチベーションをもって対応されたか、 今後の展望などについて聞かせてほしいという質問が。
もりおか
お客さんが来てくれるかということよりも、 島の人たちとうまくやっていけるかの方が心配でした。
もともと静かな島なので、ゲストハウスを始めて、 若い人たちが訪れた時に夜ワイワイガヤガヤされると 島の人たちに迷惑をかけてしまうんじゃないかなと。
だからうちのゲストハウスは夜9時以降は外出禁止とか、どうしてもの場合は僕が同行するようなルールにしています。 あらかじめ想定できる問題は、なるべく小さい波に抑えられるように工夫できるといいのではないかと思います。
山地
今後の展望としては、根拠はあまりないのですが、 150人の島に一人でも雇用を増やすことを目指しています。
島おこしのためにやっているわけではなく、 自分がやりたいことを島の人のお陰でやらしてもらっている感じです。
ここでトークタイムは終了。真剣に聞き入っていた参加者は、 トーク終了後もお二人を囲み、さまざまな質問を投げかけていました。 お二人の話を聞いていると、 島で新しいことを始めるのはやっぱり大変そうにも感じます。 けれど、ひとつひとつ課題を解決していくプロセスにはごまかしがなくて、 気持ちよく充実した生活を送っている印象を受けました。 段階を経て、島への理解を深めていく島人探しは、 島に暮らしてみたい人はもちろん、 「いい住人に来てほしい!」という島にとっても、 参考になるかもしれません。