つくろう、島の未来

2024年06月19日 水曜日

つくろう、島の未来

東京から南に約120キロメートル、伊豆半島東側の沖合い約30キロメートルに位置する伊豆大島(いずおおしま|東京都)は、今から数万年前の海底噴火で誕生した火山の島。

島内各地にはヤブツバキが自生しており、その数およそ300万本とも言われます。ヤブツバキからつくる椿油は古くから灯火や食用をはじめ、美容にも活用されてきました。

サティス製薬「ふるさと元気プロジェクト」では、島で唯一昔ながらの玉締め製法を守り続ける有限会社高田製油所さんの椿油に着目。化粧品原料として新たな可能性をひらく原石素材として、さまざまな化粧品への製品化を進めています。

サティス製薬の研究開発担当者とリトケイが伊豆大島を訪ねるシリーズ第2回では、高田製油所四代目の高田義土さんに、化粧品原料として唯一無二の優れた性質をもつ椿油の製法について詳しくお聞きしました。

第1回 御神火の島・伊豆大島に輝く椿オイル。昭和初期から続く製油所を訪ねて
第2回 椿の種子が持つ美容成分を殻ごと搾る。伊豆大島の製油所で聞くこだわり製法
第3回 これからの伊豆大島へ。新たな原石素材の開発と、島のなりわいづくり

島中から集めた椿の種を殻ごと搾る。黄金色のオイルに秘められた力

一同:
(搾油機から勢いよく流れ出る椿油を見て)すごい……。

ritokei:
もっとじわじわ油が出てくるのかなと思っていたので、最初の段階で一気に溢れてきたことに驚きました!かなり強い圧力をかけて油を搾り出すんですね。

高田さん:
椿の種は、ナイロンをマット状に編んだ丈夫な袋に包んで搾油機にかけています。大正時代の頃は、この袋は人毛を編んでつくっていたそうで、実はこの袋を編んでくれていたのは、かつらやさんなんですよ。

一同:
へぇー!

椿の種を殻ごと細かく砕き、木桶に入れて蒸した後、丈夫なナイロンの袋に詰めて搾油機にかける

高田さん:
時代と共に人毛が入手しづらくなってからは、馬の尻尾の毛や麻の繊維を試して、最終的にナイロンを使うようになったそうですが、それも職人さんが高齢化して、とうとう編める人がいなくなってしまいました。

そんな状況のなか、同じく玉締め製法でごま油を搾っている松本製油さん(埼玉県吉川市)に連絡してみたら、なんとその方が先見の明を持っていて、編み方を勉強されていたんです。困り果てて相談したところ「1日で編みますよ」と言ってくださって。

ritokei:
玉締め製法でつくるための道具がなくなってしまう危機を、離れた地域の製油所が助け合って乗り越えたんですね!そうまでして製法を守り続けていることに、頭が下がります。

高田さん:
それを機に、うちの店やウェブストアでも松本さんのごま油を並べるようになりました。同じ製法を守る仲間ということで「玉締め倶楽部」と言っています(笑)。

小沼さん:
「玉締め倶楽部」の輪が全国に広がるといいですね。

高田さん:
実は、福島県にもなたね油を搾っている製油所があって声をかけたのですが、後継者不足で廃業すると。残念です。

香川県の小豆島では木桶づくり継承の取り組みが。遠く離れた島々が手仕事の技術でつながる

ritokei:
原料を蒸すための木桶は、小豆島(しょうどしま|香川県)で技術継承の取り組みが生まれているとのことでしたが(※)。

※ヤマロク醤油「木桶職人復活プロジェクト」(2012年〜)。
第1回「御神火の島・伊豆大島に輝く椿オイル。昭和初期から続く製油所を訪ねて」を参照

高田さん:
木桶づくりのプロジェクトには期待しています。搾るための袋もそうですが、どんな形でもつくり方が伝承されれば、未来につないでいける可能性が出てきますから。

小沼さん:
木桶を使う良さは、どんなところにあるのですか。

高田さん:
例えばステンレスの容器だと、水滴が容器について原料がべちゃっとしてしまいます。木桶だと、余分な蒸気を外に逃がしてくれるんです。

蒸し上がった原料を木桶から移し、大きな漏斗を使って袋に詰めていく

ritokei:
原料を蒸さずにそのまま搾ったらだめなんですか。

高田さん:
なぜ油を搾る前に蒸すかというと、水と油の比重の違いを利用して、油を表面に浮かしているんです。ナノメートルの世界で目には見えませんが、細かく砕いた種に蒸気を当ててやることで、油脂分が表面で分子的に浮いた状態になっています。

ritokei:
蒸すことで水分が内側に入って、油脂分が表面に押し出されてくる。油を搾りやすくする工夫なのですね。どのくらいの時間蒸しているんですか。

高田さん:
大体5分ほどですね、しっとりしてきて色が変わるまで。原料の状態やその日の気候にもよりますが。

ritokei:
道具だけじゃなく、蒸しも職人技なんですね。

殻ごと砕いたヤブツバキの種。殻の部分に豊富なサポニンは天然の界面活性剤

高田さん:
伊豆大島では昔、油を搾ったあとの搾りかすを石鹸がわりにして、洗髪に使っていたんですよ。椿に含まれる「サポニン」の効果で、水をつけて泡立てると、泡が皮脂を溶かしてサッパリさせてくれるんです。ただし、きれいに流さないとカスが髪に残り、発酵して匂ってしまうそうです(笑)。

小沼さん:
サポニンは、水と油を中和させる天然の界面活性剤。化粧品を肌に馴染みやすくさせて、肌につけると血流を上げてくれる働きもあるんです。

ritokei:
新陳代謝が良くなりそうですね。

ヤブツバキの開花は1月から3月頃。花が咲いてから椿油を搾るまでに1年以上かかるそう

小沼さん:
椿油にはオレイン酸も豊富で、抗酸化力が高いのでオイルの酸化を防いでくれます。保湿力を高め、皮膚を柔らかくして化粧品の浸透をサポートしてくれる効果もあります。

特に、種の殻の部分に美容成分が豊富なので、常温で殻ごと搾る高田さんの製法は化粧品原料に適しているんです。

高田さん:
加熱すれば油はよくとれますが、成分が壊れてしまいます。うちのやり方だと時間も手間もかかり生産量も限られますが、栄養が豊富で風味の良い油がつくれるので。

ritokei:
高田さんがおいしさを求めて続けてこられたことが、化粧品の原料オイルとして見た時にも、またとない価値を生む製法だったんですね。

高田さん:
お客さんに「おいしい」と言っていただけるのが一番嬉しいです。

失われつつある、椿林の再生と循環のサイクル

高田さん:
原料は、この倉庫に保管しています。全て、島の方々が拾い集めたヤブツバキの種を買い取ったものです。買い取りは、お金でなく搾った油で返す場合もあります。

ritokei:
ここには、どれくらいの量を保管できるんですか。

高田さん:
約40トンで倉庫が満杯になります。豊作の年は20トンくらいとれるので、なればなっただけ買い取りしたいのですが、油を売ったお金が資金になりますから、前年の生産量に比べてあまりとれすぎても資金繰りが難しい。倉庫に入りきらないと困りますし。

島の人が収穫したヤブツバキの実を天日で乾燥させて、取り出した種を更に干して乾燥させてから持ち込んでいただくのですが、乾燥が甘いものもあったりするので、チェックも必要です。

袋をこう持って落とすと、乾いた種はカラカラとした音がしますが、湿気ているとズムッとした感触なのですぐ分かります。干した、干してないで言い合いになることもあったりして。

ritokei:
種の買い取りにも手間がかかりますね。

島中から買い集めた種は通気性の良いメッシュの袋で保管。倉庫は室温16度湿度30%に保たれている

高田さん:
近年は、椿が実をつけても、高齢化と人口減少で原料を持ち込む人が減ってしまい、充分に収穫できないのも悩みなんです。15トン、12トンと生産量の設定を落としてきましたが、そろそろ10トンに落とさないとダメかなと思っています。

生産量を減らすと、製品の値段を上げざるを得ません。本当は、たくさん搾って皆さんに安く提供したいのですが。

ritokei:
原料の調達が難しくなってきているんですね。どうにかできないのでしょうか。

高田さん:
まずは実をつけやすくするために、枝打ちをして樹勢を回復させる必要があります。昔は、そのサイクルが島にあったんです。

ヤブツバキの実を天日で乾燥させて種を取り出し、更に干して乾燥させた状態で保管する

高田さん:
ヤブツバキは実をつけるまで30年かかるほどゆっくり育つので、炭を焼くと火持ちのいい炭ができます。島の人たちは椿を切って炭を焼き、毎年実をつける椿の種を集めて製油所に持ち込み、収入源にしたり暮らしに利用したりしていました。

時代と共に人々の暮らしが変化したことで、椿林に人の手が入らなくなり、再生と循環がうまくいかなくなってきているんです。

ritokei:
島の自然の恵みを人が暮らしの営みを通して循環させる。そんな輪の中に、椿油も存在してきたんですね。

高田さん:
だから僕は、椿油の生産者というよりも、島の文化を継承している意識で仕事をしています。

島の至る所でヤブツバキを見かけることができる。伊豆大島の人々が自然の恵みを循環させながらつくり続けてきた椿油を、高田さんは島の文化だと語る

「これ以上にはなれない。けれど、このスタイルをやり続けたい」

ritokei:
お話を聞けば聞くほど、伝統を維持する中では苦労も多いことが分かります。

高田さん:
これ以上の規模にはなれないけれど、島の文化を守るために、このスタイルをやり続ける。それがうちの使命かなと思っています。

小沼さん:
僕たちのミッションは、人の肌を綺麗にすること。そのためには、一番有効性を持っている原材料を選ばなくてはいけません。

ふるさと元気プロジェクトでは、その土地その製法だからこそつくれる唯一無二の特長を持った「原石素材」を発掘して化粧品の原料として活用、地域の風土も含めた背景を魅力として発信しています。

素材が生まれたストーリーをそのまま乗せて化粧品をつくり、売り方もそのストーリーを魅力として伝える。それを続けることで、素材づくりの後継者を増やして継承していくことにも貢献できたらと考えています。

高田さんの椿油のような原石素材を日本全国から探していますが、身近な自然を暮らしに活かす知恵が豊かな離島地域には、原石素材がたくさん眠っているのではないかなと思っています。

ritokei:
リトケイでは、ふるさと元気プロジェクト離島版のシリーズ記事を掲載しています。第1弾は、大三島(おおみしま|愛媛県)という、レモンをつくっている島で、
※参考記事:大三島で新規就農。無農薬レモンを育てる「大三島リモーネ」の苦労とこだわり

第2弾は、徳之島(とくのしま|鹿児島県)で伝統的に薬の代わりに利用されてきた野生の島みかんについて取材してきました(※)。

※参考記事:世界自然遺産・徳之島で育つ「シークニン」。野生のパワーを化粧品原料に

小沼さん:
徳之島でも、生産者の方は文化を継承していこうという思いの中で取り組んでいました。島の方の強い想いからものづくりをしている点が、よく似ています。

サティス製薬小沼さんより、高田さんの椿油を使った製品を贈呈。実際に試していただきました

小沼さん:
今日は、化粧品としての効果を実感していただきたく、高田さんの椿油が配合された製品をお持ちしました。

高田さん:
ありがとうございます。つけてみていいですか。わっ、すごい!

ritokei:
(ジェルを手の甲につけて馴染ませる)本当だ。つけると水みたいに溶けて、肌にすうっと入っていきますね!

肌の上ですうっと溶けて浸透するテクスチャーは、液体と固体の中間を保つラメラ構造によるもの

ritokei:
椿油には、化粧品にした時にどんなメリットがあるんでしょうか?

小沼さん:
椿油は、肌へのしっとりとした潤い感や抗菌・殺菌効果を与えることに役立っているんですよ。

私たちの肌から分泌される皮脂は、肌を乾燥や外部の刺激から守るバリアの役割をしていますが、皮脂の分泌量が減少すると乾燥肌の原因となってしまいます。皮脂の約40~50%は、オレイン酸で占められています。

椿油にはオレイン酸が80%~90%含まれているため、椿油は肌に馴染みやすい油といえます。そのため、椿油を塗布することで肌の乾燥を防ぎ、潤いを保つことができるんです。

サティス製薬で化粧品原料の研究開発を担う小沼さん。美容成分について語り始めると熱が入ります

小沼さん:
また、オレイン酸は酸化しにくいのも特長です。酸化しやすい油だと、肌の上で悪さをしてしまうので。

ritokei:
どんな悪さをするんですか?

小沼さん:
酸化しやすい油は、せっかく保湿するために塗ったのに、肌の上で酸化してシミの原因になるような、よくない刺激を肌に与えてしまうことがあるんです。

ritokei:
オレイン酸が、そんな悲劇を防いでくれるんですね。

小沼さん:
化粧品の原料としての機能性はもちろん、今回高田さんから話を伺い、ヤブツバキを中心に伊豆大島でつむがれてきた暮らしの物語にも、深い魅力を感じます。

高田さん:
ところで、これは本当にいいですね。顔だけじゃなく、頭にも塗っちゃおう。

一同:
ははは。

<第3回「これからの伊豆大島へ。新たな原石素材の開発と、島のなりわいづくり」に続く>


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