つくろう、島の未来

2024年04月25日 木曜日

つくろう、島の未来

2021年にユネスコの世界自然遺産に登録された鹿児島県徳之島(とくのしま)。世界的な長寿者を多数輩出し、合計特殊出生率で日本一に輝くなど、長寿と子宝の島としても知られています。

自然豊かな島で南国の太陽をいっぱい浴びて育った柑橘「ヤマ・シークニン(以下、シークニン)」は、地元では薬の代わりとしても利用されてきた野生の島みかん。近年は、がんやアレルギーなどを抑える効果のある成分が豊富に含まれることも分かってきました。

シークニンは、サティス製薬「ふるさと元気プロジェクト」が化粧品原料として新たな可能性をひらく原石素材のひとつ。

果皮には、メラニン生成を抑え、肌の炎症を抑える働きのある成分が豊富に含まれ、化粧品に使用することでハリと透明感のある肌に導いてくれます。

こうした健康効果に着目し、無農薬のシークニン果実を集めて皮ごと搾り、無添加の「ヤマ・シークニン果汁」を20年にわたって全国に届けてきた島の女性がいます。

今回、リトケイはサティス製薬の研究開発担当者と共に徳之島を訪れ、ダイキチ食品株式会社の大橋カツミさんにお話を伺いました。

第1回 世界自然遺産・徳之島で育つ「シークニン」。野生のパワーを化粧品原料に
第2回 皮ごとしぼった徳之島シークニンが化粧品に変身。生産者も驚く美容効果
第3回 徳之島のシークニンを天敵から守りたい。自社栽培の畑で語られた想い


世界自然遺産に登録された長寿子宝の島・徳之島

鹿児島県本土と沖縄本島の中間に連なる奄美群島のひとつ、徳之島。亜熱帯の北限域に位置する島には固有種も含めたさまざまな植物が自生し、アマミノクロウサギをはじめとした6種の国指定天然記念物が生息。世界でもまれな生物多様性が認められ「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として2021年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。

アマミノクロウサギをはじめ、さまざまな動植物を育む徳之島の森は、世界自然遺産に登録されています

徳之島は、長寿で知られた泉重千代さん(※1)ら世界的な長寿者を輩出し、日本一の合計特殊出生率「2.81」(※2)を誇る長寿と子宝の島としても知られています。

※1 1986年に120歳で死去したとされる。諸説あり
※2 1人の女性が出産可能とされる15〜49歳に産む子どもの数の平均値「合計特殊出生率」(2008〜2012年、伊仙町)

海に囲まれた徳之島に暮らす人々は、今のように薬が簡単に手に入らなかった時代、身近な自然のなかから薬効のある植物を見つけ出して病気の予防や怪我の手当てなどに利用してきました。

南国・徳之島で太陽の光をいっぱいに浴びて育つ野生の島みかん「シークニン」

島に自生する野生の島みかん「シークニン」も、島人の間で伝統的に利用されてきた植物のひとつ。近年の研究で、シークニンには血糖値の上昇を抑える働きや発がん抑制作用、コレステロール改善、抗アレルギー作用などに効果がある成分が豊富に含まれることが分かってきました。

ダイキチ食品株式会社の大橋カツミさんは、20年前からシークニンの健康効果に着目し、島中に自生するシークニンの中から無農薬の果実だけを集め、無添加の「ヤマ・シークニン果汁」を生産し全国に届けています。

徳之島町の工場に伺うと、大橋さんが出迎えてくれました。

「あなたがやりなさい」島を訪れた専門家に背中を押され、起業

大橋さん:
「ヤマ・シークニン果汁」にお砂糖を入れたものです。どうぞ。

ritokei:
いい香り!爽やかな酸味と少し苦味もありますね。おいしいです。「ヤマ・シークニン」はどういう意味なんですか?

ウェルカムドリンクのシークニンジュース(大橋さんのおすすめレシピは「ヤマ・シークニン果汁」50ccに、水800cc、砂糖100グラム)

大橋さん:
「ヤマ・シークニン」の名前は、山(ヤマ)にできる酸っぱい(シー)みかんで、9年で実がなるところからきています。昔は島にお医者さんがおらず、薬も簡単に買えませんでしたから、シークニンの果汁に黒砂糖を入れて煮詰めたエキスをつくって風邪を予防するために飲んでいたのです。

101歳で亡くなった祖母からも「シーはーてぃも(酸っぱくても)失敗ではないよ、9年しないと実がつかないからクニンというんだよ」と、くり返し教えられていました。

ritokei:
おばあちゃんが孫に言い聞かせるほど身近で大切な存在だったのですね。

大橋さん:
鳥や人が食べて種を落とした跡から自然に生えてきます。山の中だけでなく住宅地でみかけることもあるので、私が学生のときは学校からの帰り道にシークニンのある場所まで遠回りして、もいで食べていました。

島にあまり物が無かった時代の暮らしも知る、大橋カツミさん

やがて島にも都会からいろんなものが入るようになると、甘くておいしいみかんやタンカンが店に並び、苗を買って栽培する人も増えていきました。酸っぱいシークニンは島の人たちも食べなくなり、そのまま忘れられてしまったのです。

ritokei:
時代の変化と共に忘れられてしまったシークニンが再び注目されることになったきっかけを教えていただけないでしょうか。

ダイキチ食品の工場外壁に掲げられた「ヤマ・シークニン果汁」の看板

大橋さん:
きっかけは、富士写真フイルムで「写ルンです」を開発された故・田中 央(たなか・よう)先生(※)の呼びかけでした。先生は徳之島に惚れ込み、ご家族も連れて10年ほど島に通っていらっしゃったんです。

※1936年生まれ。工学博士。東京芸術大学卒業後、富士写真フイルム株式会に入社。同社で使い捨てカメラ「写ルンです」などの商品企画を経て、東京芸術大学講師(非常勤)、東京大学工学部講師(非常勤)、神戸芸術工科大学主任教授を歴任。専門はインダストリアルデザイン、コンセプト・コンテンツ発想法、研究企画・商品企画論

たまたまシークニンのなる時期に来島した田中先生が実を持ち帰り、錆びた包丁でシークニンを切ったら錆がすっかり取れてきれいな包丁になったそうなんです。成分を調べて抗酸化作用が強いことが分かり、「これは絶対に体にいいものだから」と商品化を勧めてくれたのです。

はじめ島の人たちが行政に相談を持ちかけましたが、「そんなものが金になるの?」と相手にされず、何年も活用が進められずにいました。

そこで、田中先生が「あなたがやりなさい。商品は自分が全部さばくから、心配ないよ」と後押ししてくださったこともあり、平成17年度に地元の吉山(よしやま)さんと二人で起業。社名はお互いの名前から1文字ずつとって「ダイキチ食品」と名づけました。

無農薬で安心安全なシークニンを求めて、島中を探す

ritokei:
シークニンは自生しているものを集めているとお聞きしました。島中に散らばっている木から実を集めて商品化するには、ご苦労もあったのでは。

大橋さん:
最初は、シークニンの木を探して島中を歩き回るところから始めました。「この集落には木が何本ある、この山には何本あると」調べて、収穫させてもらえるよう持ち主の方に相談して一つひとつ進めていったんです。

実が熟して黄色くなっていれば、「あっちの山にあるな」と遠くからでも見て分かりますが、収穫は9月頃のまだ実の青いうちに行います。柑橘類は実の形もいろいろあって見分けるのが大変なので、シークニンだと確認した木には「ダイキチ食品」と書いた布を巻いて印をつけていきました。

ritokei:
島中にあるシークニンの木を一本ずつ。気が遠くなるような作業ですね……!

徳之島の緑の森とシークニンの木。シークニンの収穫は、青い果実が実る9月頃に行われます

大橋さん:
農薬のかかる畑の近くの木は避けて、安心して皮ごと絞って飲めるシークニンの実だけを集められるよう、体制づくりを進めてきました。あやしい場所のものは成分分析に出して調べるのですが、大丈夫かなと思っても農薬が検出されて、すべて捨てたこともあります。

サティス製薬 小沼さん:
化粧品も、肌に塗るものなので、無農薬でないとだめなんです。そこにこだわってつくってくださっているので、安心して使わせていただくことができています。

大橋さん:
ありがとうございます。人の口に入る物ですから、無農薬にはこだわっています。

1年のうちで一番いい時期の実を皮ごとしぼり全国へお届け

サティス製薬 小沼さん:
集めたシークニンの果実は、皮ごと絞っているそうですね。

大橋さん:
はい、果皮と果汁のどちらにも成分が入っているので、丸ごと実をしぼって瓶詰めしています。

果皮は油脂分が多くて、収穫したシークニンを扱っていると、とてもいい香りに包まれるんです。髪につけるとワックス代わりになるくらい油があって、手肌にもすごくいいそうで、シークニンを搾っている人の手は、つるつるでとっても綺麗なんですよ。

収穫されたばかりの、つやつやのシークニン。扱う人の手もすべすべになるそう

ritokei:
収穫は、毎年9月頃に行っているとのことでしたね。その時期でないといけない理由があるんでしょうか。

大橋さん:
はい。シークニンに含まれる「ノビレチン」と「ヘスペリジン」の成分が1年のうちで一番多くなるのが9月頃なんです。3週間ほどの期間に集中して収穫したものを製品化しています。

ritokei:
ノビレチンとヘスペリジンには、それぞれどのような効果があるんですか。

大橋さん:
ノビレチンには抗がん作用や認知症の予防に効果があると言われています。ヘスペリジンには抗アレルギー作用があって、花粉症にお悩みの方にも飲まれています。

サティス製薬 小沼さん:
ノビレチンには、アンチエイジングと美白の効果があって肌にもいいんですよね。シークニンの実は、毎年どれくらいとれるんですか。

大橋さん:
数は年ごとで変わるのです。とれない年もあれば、すずなりに実をつける年もあります。

徳之島の赤土に深く根を張り実をつける、生命力いっぱいのシークニンの木

シークニンは、実がなるまで何の木なのか見分けがつきにくいんですが、根元の土を掘ってみると、直根(ちょっこん)がすごいんです。上に出ているものの、3倍くらい根っこが入っています。

ritokei:
大地にしっかり深く根を張って、土の成分を取り入れているんでしょうね。

大橋さん:
だから強いんでしょうね。根が深くて、幹がしなやかなので、台風にも強いんです。

サティス製薬 小沼さん:
開発者として、そういうシークニンの生命力や、徳之島の人たちの間で、ずっと薬の代わりとして役立ってきたという歴史があることに心惹かれます。大切に残していきたいですね。

第2回「皮ごとしぼった徳之島シークニンが化粧品に変身。生産者も驚く美容効果」に続く>


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