つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

2021年にユネスコの世界自然遺産に登録された、徳之島(とくのしま|鹿児島県)。長寿と子宝の島としても知られるこの島に、山(ヤマ)に自生する酸っぱい(シー)みかんで、9年で実がなることから「ヤマ・シークニン(以下、シークニン)」と呼ばれ、薬代わりに利用されてきた野生の島みかんがあります。

シークニンの産地・徳之島を訪ねるシリーズの2回目では、島の人々の健康をサポートしてきたシークニンが、サティス製薬「ふるさと元気プロジェクト」によって化粧品に生まれ変わった背景をお届けします。

シークニンが化粧品の原料として新たな可能性をひらくことになったきっかけや、香り高い青い果実に秘められた美容効果とは。20年来シークニンに携わる「ヤマ・シークニン果汁」製造元のダイキチ食品株式会社大橋カツミさんと、サティス製薬原料開発担当の小沼さんにお話を伺います。

第1回 世界自然遺産・徳之島で育つ「シークニン」。野生のパワーを化粧品原料に
第2回 皮ごとしぼった徳之島シークニンが化粧品に変身。生産者も驚く美容効果
第3回 徳之島のシークニンを天敵から守りたい。自社栽培の畑で語られた想い

搾りかすも余さず活かして、サプリメントへ

ritokei:
今のように薬が手に入りにくい時代に、シークニンのシロップが風邪薬の代わりに飲まれていたと伺いました。酸っぱいシークニンとミネラル豊かな甘い黒糖でつくるシロップを飲むというのは、現代の私たちが風邪をひいた時に、ビタミンCを摂ったりのど飴をなめるのと似ていますね。

大橋さん:
昔は具合が悪くても、近くにお医者さんがいなかったですからね。私が小学生の頃は、黒糖も手づくりでした。冬に刈り取ったサトウキビを、牛に引っ張らせて歯車を回す「さたぐるま(砂糖車)」にかけて、搾った汁を火にかけて煮詰めてつくりました。

砂糖を炊いた時にしか食べられない、むちむちしたものを「ガンザタ」というのですけれど、大きなツワの葉っぱを茶碗代わりに盛りつけて、食べながら牛を追っていました。

南国の太陽をいっぱいにうけて育つサトウキビの畑。手前は島バナナ

ritokei:
サトウキビからつくる黒糖も、身近な材料だったんですね。シークニンのシロップを生み出した先人たちの暮らしの知恵は、すごいなと思います。

シークニンには「ノビレチン」(※1)「ヘスペリジン」(※2)など体に良い成分が豊富に含まれることが分かってきたそうですが、島の人たちは経験的にシークニンが体に良いものだと知っていたんですね。

※1 血糖値の上昇を抑え、発がん抑制作用、慢性リウマチの予防や治療、抗認知症作用にも効果がある。
※2 毛細血管の強化作用、血流改善作用、血中中性脂肪の低下作用、血中コレステロール値の改善作用、抗アレルギー作用などの効果がある。

収穫期を迎えたシークニンの木。かつて青い実が風邪薬として利用されていました

大橋さん:
長寿で有名になった泉重千代さん(※)の家の前にも、シークニンの木があったんですよ。重千代さんは、シークニンの実をお酒に搾って飲んでいたんです。その木は、今はもうないですが。

時代が変わって、また昔の知恵が見直されるんじゃないでしょうか。私も元気でいないと。

※徳之島・伊仙町の阿三で生まれ育ち、1976年に長寿世界一に認定され1995年までギネスブック公認の人類の世界最長寿、2010年まで男性としての世界最長寿とされた(諸説あり)

無農薬の果実だけを集め、無添加の「ヤマ・シークニン果汁」を生産し全国に届けるダイキチ食品株式会社の大橋カツミさん

ritokei:
島の人たちが健康を保つために伝統的に利用してきたシークニンを「ヤマ・シークニン果汁」として発売したことで、全国に届けられるようになったそうですが、発売されてどれくらいになるんですか。

大橋さん:
2003年から販売を始めて、ちょうど20年になります。最初は人を集めて手で搾っていましたが、今は特注した機械を使って皮ごと搾汁しています。

ritokei:
皮ごと絞るということですが、外皮や果実の袋の部分にも成分が豊富に含まれているそうですね。

大橋さん:
はい、実は皮の部分に一番成分が多いんです。1年のうちで一番成分が多くなる時期に、皮ごと搾って飲める無農薬のシークニンの果実を島中から集めて、加工しています。搾りかすにも成分がたくさん含まれているので、余さず活かせるよう、乾燥させた粉末も販売しています。

サティス製薬 小沼さん:
当社ではシークニン粉末から成分を抽出して、化粧品の原料に使わせていただいています。

ダイキチ食品の大橋さんと、サティス製薬原料開発担当の小沼さん

販路を求めて出展した、東京の展示会での出会い

ritokei:
ダイキチ食品さんとサティス製薬さんが出会ったきっかけを教えてください。

サティス製薬 小沼さん:
東京の展示会でダイキチ食品さんがシークニンを紹介しに出展されていた際に当社の開発チームと知り合って、化粧品の原料として相談させていただくようになりました。

同じ展示会に、沖縄から来た業者さんのシークワーサージュースも出ていたのですが、それと比べたときに徳之島のシークニン果汁の方が圧倒的に成分の量が多かったんです。

大橋さん:
沖縄産のシークワーサー加工品のブースで購入してきた後に、こちらのブースに来て、試飲して「全然味が違う!こっちがいいから返してくる」と言ったお客様がいて。それはやめてください、とお願いしたことがありました(笑)。

雨上がりに瑞々しく光るシークニンの実。収穫は9月頃、青い果実が実る時期に行われます

サティス製薬 小沼さん:
化粧品の原料として見た際に、肌につけるものをつくるので、無農薬にこだわってつくられた製品だというのもポイントでした。

大橋さん:
見た目は似ているのですが、果汁の味を比べると、シークワーサーよりもシークニンの方が味が濃いです。シークワーサーは農薬を使ってたくさん栽培できますが、実がたくさんできる分、一つひとつの味は薄くなるようです。皮の厚みも違いますね。シークニンのほうが皮が分厚いです。

サティス製薬 小沼さん:
みかんは皮の部分に紫外線や敵から自分を守る成分が含まれているので、皮が厚い方が肌にいい成分が豊富なんです。

大橋さん:
皮に成分が豊富なので、粉末を健康のために飲んでいるというリピーターの方が多いですね。

皮ごとしぼったシークニンが化粧品原料に変身する

ritokei:
化粧品の原料としてのシークニンの魅力は、どんなところにあるのでしょうか。

サティス製薬 小沼さん:
シークニンの果皮に豊富に含まれる「ノビレチン」は、食用では認知症の予防効果でも着目されている、細胞を元気にしてくれる成分なんです。年齢とともに細胞は増えなくなっていくのですが、細胞が増える活動をサポートしてくれて、コラーゲンやヒアルロン酸が体でつくられます。

シークニンの果皮には細胞を元気にしてくれる美容成分「ノビレチン」が豊富に含まれています

ritokei:
お肌の細胞がもっている力を引き出してくれるんですね。

サティス製薬 小沼さん:
大橋さんの話で、シークニンを切った時に包丁のさびが落ちたというエピソードがありましたが、肌も年齢を重ねると、鉄と同じようにさびていく酸化という現象があるんです。その酸化を防いでくれて、バリア的な機能もあり、美白の効果もあるのがノビレチンなんです。

大橋さん:
私はもう80になるんだけど、100まで生きようと思ったら、それを使わないといけないですね(笑)。

シークニンに含まれる美容成分について、話に花が咲きました

サティス製薬 小沼さん:
ノビレチンは分子量が小さく脂になじみやすい成分なので、人の肌に浸透して効果を発揮します。肌のどこまでしみたかを見る試験をして、他の美容成分と比較してみたのですが、通常は肌の3層目ぐらいまでしか届いていないのが、ノビレチンは5層まで入っていくんです。肌への浸透力が全然違いますね。

紫外線を吸収して肌を守る効果もあります。紫外線の波長にはUVB(※1)とUVA(※2)の両方があるんですが、多くはどちらかしか吸収してくれない成分が多いのですが、ノビレチンは両方吸収して肌を守ってくれるので、日焼け止めにもいいんですよ。

※1 波長が短くエネルギーが強い紫外線。肌表面の細胞を傷つけたり炎症を起こし、皮膚ガンやシミの原因になる
※2 波長が長く、肌の奥まで届く紫外線。コラーゲンを変性させシミやシワの原因になる

ritokei:
アンチエイジングや美白の効果があって、肌にも浸透しやすい。化粧品の原料にぴったりですね。

化粧品になったシークニンに、おどろきと喜びの対面

サティス製薬 小沼さん:
今日は大橋さんに、シークニンからつくった化粧品をぜひ使っていただきたいと思いお持ちしました。これが実際にいただいたシークニンからつくった化粧水と美容液です。

大橋さん:
(化粧水を手につけて驚く)……!

サティス製薬 小沼さん:
シークニンの効果で、ユーザーさんからは「肌がきれいになった」とか、「つやつやになった」と好評です。使われている方は、肌のシワやたるみに悩んでいる方や、肌をもっと白くしたいという方が多いです。

ritokei:
化粧水はサラッとしているのに、つけるとだんだんお肌がしっとり、モチモチしてきて、保湿できている感じがします。

サティス製薬がシークニンから抽出した成分をつかってつくられた化粧品を徳之島に持参し、生産者の大橋さんに試していただきました

大橋さん:
シークニンが手肌にいいことはこれまでにも感じていました。毎年収穫の時期に10人ほど集まっていただいて、間違ったみかんが入ってないか選別したり、洗って脱水してから実を搾るのですが、毎日シークニンを洗ったり、搾ったりしている人たちが、「(シークニンを触っていると)手がきれいになる、全然違う」と言っていて。

試しにシークニンの皮を刻んで漬けておいたものを手に塗ってみたのですが、畑の草刈りで手ががさがさしていたのがすぐ治ったんです。

リトケイ:
シークニンって、すごい島みかんですね!

大橋さん:
島の宝だね。

サティス製薬 小沼さん:
この宝が失われてしまうのは悲しいので、「ふるさと元気プロジェクト」でも何かできないかと思い今回取材にお伺いしました。

シークニンから抽出した成分をつかってつくられた化粧品を肌につけ、感無量の大橋さん

リトケイ:
地元の方々にも、もっともっと知っていただきたいですね。

大橋さん:
ただ、あまり大きくしようとしても、そんなに量は採れないし、私の力はないし……。大きな工場にするほどの規模ではないし、注文が来る量に合わせて一年分を搾って冷凍庫に入れておくのですが、量を増やそうとすると設備投資が大変ですよね。販売も大変だし。

サティス製薬 小沼さん:
そこが化粧品が適しているところなんです。食品よりも化粧品をつくる方が、少ない量で肌に対して効果が出やすいため、生産量の少ないものでも活用がしやすいのです。

リトケイ:
化粧品にする場合は粉末を使うので、果汁に比べて低コストで在庫しておけて、島から出す際の輸送費が少なくて済むのもいいところですよね。

大橋さんは野生の島みかんだったシークニンの栽培にも取り組んでいます。工場でシークニンの鉢植えを見せていただきました

サティス製薬 小沼さん:
シークニンの成分を使って他にもいろいろな製品をつくりたいと思う方がいれば、ぜひご相談いただきたいです。

大橋さん:
誰かが手を上げてくれれば。私はいまやっていることで精一杯ですので。

リトケイ:
この記事を読まれたから、シークニンを使ったものづくりに一緒に参加したいと思う人が増えるといいですね。

大橋さん:
よろしくお願いします。私はそんな宝物だとは知らず、ただ、つくってきただけですから。

サティス製薬 小沼さん:
「ヤマ・シークニン果汁」として形になっていなければ、僕たちも見つけることができなかったと思います。ありがとうございます。

<第3回「徳之島のシークニンを天敵から守りたい。自社栽培の畑で語られた想い」に続く>


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