つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

長崎市では高島(たかしま)にある高島小中学校と本土の西坂小学校、梅香崎中学校の3校で、2015年度よりICTを活用した遠隔地間合同授業を実施している。3年目となる遠隔地間合同授業の取り組みについて、実施の背景や今後の展望を伺った。

対馬のコピー

日本で一番離島地域の多い長崎県。複式学級校は3割

長崎県内には73島の有人島があり、全国で一番多い。また、県内に347校ある小学校のうち、1学級以上の複式学級を有する小学校は98校に上る(2015年度)。

児童数の減少に伴い、近隣小学校との統廃合が進められることが多い。しかし、離島地域では本土の学校と統廃合された場合、船での通学が必要となり、児童に負担がかかることや、欠航等による授業日数の確保に懸念があることなどから統廃合されず、小規模の学校が多くあるのが現状だ。

こうした背景にあり、長崎県は文部科学省の公募事業「人口減社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業(以下、実証事業)」を導入。県内で離島地域や山間地域をかかえる長崎市と大村市が実施地域となり、2015年度よりICTを活用した遠隔地間合同授業(以下、合同授業)を実施してきた。

同じ市内に暮らす子どもたちが海を越えてつながる授業

長崎市では高島小学校(以下、高島小)と西坂小学校(以下、西坂小)、高島中学校(※1)と梅香崎中学校の間で、ICTを活用した合同授業が実施され、今年度で3年目となる。

※1……高島小中学校は小中併設校。

高島 航空写真-2

空から見た高島

長崎港の南西約15キロメートルに浮かぶ高島は周囲6.4キロメートル、384人が暮らす長崎市の一部離島だ(2017年7月末現在)。1986年(昭和61年)に高島炭坑が閉山するまで炭鉱産業で栄え、最盛期の1968年(昭和43年)には島の人口は1万8千人を超えていた。島唯一の高島小では、現在、1・3年生と4・6年生の複式2学級編成で9名の児童が学んでいる。

高島小と合同授業を行う西坂小は長崎市の中心部にあり、全校児童116名で各学年1学級編成。西坂小は20年ほど前から外国語学習に力を入れ、独自の外国語学習カリキュラムを作成するなど、県内でも先進的に国際理解教育を推進してきた学校だ。

高島小と西坂小の合同授業は毎年5月に始まり、2017年度は外国語の授業で年間25時間、その他の科目で5〜10時間の合同授業が予定されている。

西坂小が独自カリキュラムによる授業を実施していたことや、外国語は小学校高学年で初めて学ぶ児童が多く、知識量に個人差が少ないことなどから、合同授業の科目は外国語が採用された。合同授業は西坂小で実施する外国語授業に、ビデオ会議システムを使って高島小の児童が参加する形式で行われる。

01_高島小 のコピー 2

高島小での合同授業の様子

授業の様子を見学した高島小の渕上校長は「緊張からか、最初は表情がこわばっていた。回数を重ねるたび堂々としてきて、挙手もしている」と話す。

合同授業実施にあたり、両校の担当教員は、ビデオ会議システムを使って授業の進め方や通信が不通となった場合の対応など、事前に綿密な打ち合わせを行っている。西坂小の松尾教諭は「今までビデオ会議システムを活用したことはなく、機器の操作など最初は不安があった」と振り返る。

IMG_0125

西坂小での合同授業の様子

教員1人あたりの児童数が少ない高島小では、「分かるまで・できるまで・気付くまで」というスタンスできめ細かい学習指導を行っている。しかし、同級生が少ないため、友だちと議論して意見を深化させることや、自分の発言に対して反対意見が上がらないなど、表現活動の学びが難しいという現状があった。

「合同授業では多人数の中で学ぶことができ、多様な意見に触れられる。『人とのつながり』を知る非常に良い機会になっている」(渕上校長)。

数年前からは、高島小の児童が西坂小へ行き、実際に顔を合わせる直接交流も年数回行われている。ビデオ会議システムを使った合同授業は、直接交流後も継続したコミュニケーション機会を生み出し、再度、直接交流の機会がある際に児童同士が打ち解けやすくなるという。

多人数の中で学べることをメリットとする高島小に対して、西坂小にもメリットがある。

松尾教諭は「西坂小は入学してからずっと単学級編成。そのため、高学年になると同級生の様子や性格は理解できてくる。そこに、全く知らない高島小の児童と交流することで、写真を見せたり、身振り手振りを使ったりして、相手に伝えることを意識したコミュニケーションがとれるようになった」と話す。また、ビデオ会議システムを使った授業自体が、児童にとっては非日常であり、授業への意欲が高いという。

長崎市教育委員会の相浦氏は「実証事業は今年度で終了するが、現状リースしている機器について、リースの延長あるいは購入を検討し、引き続き実施していきたい」と今後の展望を話す。

また、両校の担当者も今後の実施に向けて意欲的だ。「国語や算数などの教科は両校で進度を合わせるのが難しい。議論討論のできる道徳や保健など単発の授業への活用を検討したい」と渕上校長。松尾教論も「実証事業終了後も、3年間の蓄積を元に、他の地域との交流や他の科目での実施など検討したい」と話した。

【関連リンク】
長崎市立高島小中学校ホームページ

     

関連する記事

ritokei特集