つくろう、島の未来

2024年12月18日 水曜日

つくろう、島の未来

鹿児島県の奄美大島(あまみおおしま)で「フリーランスが最も働きやすい島化計画」が進んでいる。奄美市は支援窓口を開設し、人材育成事業やICT環境整備を進め、2020年までに200人のフリーランス育成と50名以上の移住者誘致を目指す。

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奄美市役所のフリーランス支援窓口(画像提供:ランサーズ株式会社)

奄美大島で進む「フリーランスが最も働きやすい島化計画」

鹿児島県の奄美大島で「フリーランスが最も働きやすい島化計画」が進む。奄美市は市役所にフリーランス支援窓口を開設。人材育成事業やICT環境整備を進め、2020年までに200人のフリーランス育成と50名以上の移住者誘致を目指す。

奄美大島は、豊かな自然と文化に恵まれる一方、働き口が少なく、若年層の流出が進む。そこで奄美市は、雇用の受け皿となる産業を確立するべく、観光・農業と並び、本土との距離を克服しやすいIT関連産業に着目。2012年にはIT企業誘致や地元企業のビジネスを支援するインキュベーションオフィスを整備し、産業育成を実施。実力あるエンジニアがUIターンするなど成果が出始めていた。

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インキュベーションオフィスICTプラザかさり(画像提供:奄美市商水情報課)

この流れに乗り、2015年7月、奄美市はクラウドソーシングを行うランサーズ株式会社と連携協定を締結。フリーランスを育成する共同事業をスタートさせた。

クラウドソーシングは、群衆(クラウド)と業務委託(ソーシング)を組み合わせた造語で、企業などが社外の不特定多数の人に業務を委託するケースを指す。インターネットを活用し、遠隔地にいながら収入を得られることから、プログラミングやデザインなどの分野で広がりを見せている。

クラウドソーシングには技術や経験が伴わなければ、報酬が安価に抑えられる現実もある。そのため、両者は技術研修や働き方講座の実施も計画。奄美市では、2015年7月よりフリーランス支援窓口を設置し、フリーランスを希望する住民の問い合わせや相談に乗るとともに、人材育成事業を実施している。

2015年度の人材育成事業では「フリーランス寺子屋」として比較的仕事の需要があり未経験者が参入しやすい記事制作の技術指導を中心に全5回の講座を実施。島内で奄美群島情報提供サービス事業を行う「しーま」が奄美市より事業を受託し、講座の運営やコーディネートを行う。ランサーズから派遣された講師や、島内のフリーランス経験者らが講師となり、クラウドソーシングの利用法や記事制作を指導し、受講生は実際にクラウドソーシングで記事制作の仕事を請け負う。「しーま」が受講生による記事の校正を行い、受講生は学びながら報酬を得ることができる。

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フリーランス寺子屋では、実際にクラウドソーシングで仕事を請け負う(画像提供:しーまブログ)

フリーランスが集まる島を目指す奄美市の掲げる目標に対し、計画は走り出したばかりだ。「2015年に実施した人材育成講座の受講生の約9割が女性で、副業として取り組んでいるのが現状。技術経験を積むことでより高報酬な案件を受注できるよう、引き続き支援を行っていきたい」(奄美市商水情報課 稲田一史さん)

今後、奄美市では、市内のネット環境の整備や作業交流スペースの開設など環境整備を進め、市の宅建協会「空き家バンク」を活用し、フリーランサーの移住者へ向けた住宅物件の情報提供も行う。ランサーズは、業務の発注側と島内の人材のマッチングを積極的に行い、島で暮らす人に遠隔でできる仕事の機会を創出する考えだ。

奄美市役所で行われたランサーズとの協定調印式で、朝山毅市長は「フリーランスは、家庭で機織をしていた大島紬産業にも通じるものがある」と語った。大島紬をはじめ、半農半漁など様々な仕事をしながら暮らしを支えてきた歴史のある島は、柔軟な働き方に馴染みやすい。

「北海道や関東の自治体や市議が視察に来島したほか、全国の自治体などから問い合わせを受けています」(稲田さん)。多くの地域が高齢化や過疎に悩まされるなか、ICTを活用し遠隔で仕事を受注できるクラウドソーシングの活用と人材育成の取り組みに注目が集まっている。

     

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