次世代通信規格「5G」の推進を重点施策に位置付けている小池百合子都知事の要請を受け、昨年9月に都の4人目の副知事に就任した元ヤフー会長の宮坂学氏(52)が6日、行政視察で八丈島を訪れた。(『南海タイムス』第3743号 2020年2月14日掲載記事)
ICT(情報通信技術)を活用した島しょ地域の社会課題の解決(生活環境の改善、産業振興、行政サービスの向上など)に向け、八丈島の現状を把握するため、朝1便で来島した宮坂副知事は、午前9時開会の町議会全員協議会冒頭で町執行部や町議と顔合わせを行った=写真。その後、各公的機関をはじめ、福祉、小売り、製造の民間事業所など、13カ所を精力的にまわって現場の声を聞いた。
町役場であいさつする副知事
全協で宮坂副知事は、「デジタルテクノロジーやインターネットを使えば、よりよいサービスを市民の方に提供できる可能性があります。これを総称してSociety 5.0といって国も推進しています。東京都は面積も広く自然の豊かなところから高層ビルが乱立するエリアまで町の特徴も富んでいます。ひとつのやり方で全ての町をスマートシティーにするのは無理があり、特徴のあるエリアでそれぞれの地域にぴったりなものを作っていかなければなりません。特に島は自然の豊かなエリアで、住んでいる方の生活を豊かにしていくデジタルテクノロジーを研究し、実現していきたいと思います」と抱負を述べた。
八丈高校の図書館を視察する副知事(右端)(写真提供・東京都)
民間出身の副知事起用は石原慎太郎都政の猪瀬直樹氏以来で、小池都政では初めて。
宮坂氏は97年にヤフー入社後、社長や会長を歴任。昨年6月で退任し、都の参与としてネット事業などで助言を続けてきた。就任会見では東京に世界最速のモバイルインターネット網“電波の道”を構築する戦略を打ち出した。高画質な動画の配信や自動運転、遠隔医療など新しい産業やサービスを支えるインフラ整備を、先頭に立って主導する。
宮坂学副知事 インタビュー
土壌が豊かなら人が来る
2月6日、島内視察を終えた宮坂学副知事(元ヤフー会長)にインタビューした。その冒頭で2003年8月にソフトバンクのトップ・孫正義氏が島の若い人の願いを叶えるために突然島を訪れ、ブロードバンド(BB)の導入を約束し、島民に大きな衝撃が走ったできごとを、当時の南海タイムスの紙面を見せながら伝えた。
宮坂氏は「懐かしいですね。部下で働いていたのでよく覚えています。BBの導入で島は変わりましたか。みんなの気持ちが高ぶって、心に火がついた感じですか…」。こんなやりとりでインタビューはスタートした。
- 記者
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島は初めてということで、どんな印象でしたか
- 副知事
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いろいろな方に会わせていただき、それぞれ10〜20分程度でしたが、「新しいことをやってやろう」という方が多い。リーダーシップを持ち、進取の精神に富んでいるというか。聞いてはいましたが、何かにチャレンジしたいと思っている方が多いことに驚きました
- 記者
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5Gが使えるようになると、たとえば何が変わるのですか
- 副知事
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大容量の画像やデータをどこでもやりとりでき、遠隔医療や自動運転も実現できるようになります。今日は牛も見せていただきましたが、牛にチップをつけてリアルタイムで体調を管理することもできます。現場の方が勉強していて「将来やりたい」とおっしゃっているところがすごい。私は5Gに限らずデジタルテクノロジーを全分野で使うことにすごく可能性を感じています。
学校もお伺いしたのですが、教室にWi-Fiを入れるだけでものすごく変わる。黒板が電子黒板になり、タブレットで作った資料をパッと映す。生徒数が少なく同世代の子どもと交流する機会が持ちにくいが、テレビ会議システムで青ヶ島の子どもと交流したら大喜びだったと聞きました。デジタルテクノロジーの活用で世界中どこでも、島だったらフィジーの子どもとも、交流することができます
- 記者
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行政のデジタル化には、大きなコストがかかっています
- 副知事
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インターネットのユーザーは2019年に世界の人口の半分を超えたんですよ。40億人以上が使っているんです。何が起きているかというとスマートフォンとか、みんなが使うものが無茶苦茶に安くなっている。40億人分作れば値段が下がるんです。グローバルスタンダードの技術、ハードウエアを使うことが大事です。専用の物は使い勝手は良くても値段が高い。もちろん適材適所なんですが、グローバルスタンダードの安くていいものを手に入れる選球眼さえ持っているとものすごいやりやすい時代です。
民間から行政に立場が変わりましたが、規制やルールでやりにくさは僕自身は全部変えようとかそういうのはなくて、みなさんのように現地、現場を見ている人が一番いろんなことを知っています。そのこだわりを理解した上で、こういう技術もどうですかとアプローチをしないと的外れになる。現場がやりたいことを後押しして実現させてあげることが一番大事で、行政ができることはインフラを整えることに尽きます。
飛行場や道路、水道といったインフラを行政がつくり、その上に皆さんが自由なアイデアでいろいろなことを始める。何をするかは一番楽しいことなので、そこは譲らないで地元の方がやるほうがいい。行政が豊かな土壌を作って、そこで自由に作物をつくってもらう。その土壌が豊かであればあるほど、他からもやってみたいという人が入ってきますよね。
- 記者
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孫さんが来たとき「情報社会において、情報にアクセスするのは基本的人権。やるからには最先端、世界一のサービスを提供したい」と言ってくれました
- 副知事
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私も孫さんがこの島にADSLを導入した時と同じ思想を持っています。固定のインターネットはもうインフラになったので、次はモバイルインターネット、いわゆるスマホとかWi-Fiです。現時点では行政の意識はまだそこまでいっていない。たとえばどの学校にも有線LANはありますがWi-Fiはここへきてようやくやり始めた感じ。
知事は新しいインフラはモバイルインターネットだと宣言して、「東京データハイウェイ」構想を進めています。ブロードバンドも、インフラができるまでは無くてもなんともなかった。自動車もそうでしょう。インフラはできるとすごく便利で当たり前、水や空気のようになります。新しいインフラができると、新しいビジネスやサービスが生まれてきます。
- 記者
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インフラができた先は、住む人間がそれを活かして何かを創造していく
- 副知事
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その力はどの日本の町にもあると思います。道路ができたことで道路沿いにホテルをつくろうみたいに発想するわけです。行政よりも民間の人がいろんなアイデアを出してくれる。
今日見た中で教育現場には本当にいい環境を整備してあげたいなと思いました。インターネットで非常に良くできている教材とかが増えています。インターネットを使い倒せるか、使い倒せないかで学力の差が出てくる時代です。
世界から選ばれる島に
- 記者
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東京都の副知事として居心地はいいですか
- 副知事
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仕事は楽しいですよ。やりがいがありますし。もともとこういったパブリックなことをやってみたかったんです。政治ではなく行政の方で。技術とか、モノをつくったりするのが好きなんで。
- 記者
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島のみなさんにメッセージをいただけたら
- 副知事
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島の良さってあるじゃないですか。僕も海育ちで、瀬戸内海の方なんですが、3㍍先が海、漁港だったんです。だから海があって水や空がきれいで山があって懐かしい景色だなと思いました。あるものはすばらしくある。無いものは何だろうというと、ちょっと東京までは遠いよねとか、距離の壁ですね。買い物はeコマースなどができて、日本全国どこでも同じ環境でできちゃう。
あとは医療とか教育とかはまだ距離の壁が残る分野。テクノロジーの力でその壁をなくしたい。島の良さを享受して暮らしながら弱点がなくなれば、他に行く理由がない。素晴らしい環境になると思います。
- 記者
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この先はどんな世界になると考えますか
- 副知事
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僕は山口県生まれで、100年前なら一度も東京に行かずに死んでいく、生まれた場所で育って死ぬというパターンでしたが、今、東京で働いています。生まれた場所と生きていく場所が違う人の方が多いですよね。だから死ぬ場所も違う。数十年先は生まれた場所と生きていく国が違うようなグローバルなことも普通に起きると思います。
世界の人から選ばれる島になれるかどうかがすごく大事です。当然、テクノロジー的には働きやすい環境を整えなければと思いますが、みなさんの島の持っている魅力を大事にしてほしい。