つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えるとも予測されています。離島地域にも人影を失った建物が増えるなか、住居や旅館など、かつての役割を失ってしまった空き家が英気を取り戻し、にぎわいを呼び込む拠点となった「島に福よぶ空き家活用」の事例を紹介します。

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。

取り壊し直前に提案されたゲストハウス構想

大分県佐伯市の沖合にある人口14人の屋形島。島内初の宿泊施設「屋形島ゲストハウス」が開業したのは2018年4月下旬。

オーナーの後藤猛さんは島で生まれ育ち、現在は家業の緋扇貝(ヒオウギガイ)養殖業のかわたら、素泊まり形式のゲストハウス経営に取り組む。後藤さんは何度もインドなどの海外を旅して現地の人と触れ合い、ゲストハウスで旅人と交流した。その経験が土台となり「島に来た人たちがつながる場所を」と開業した。

「直感的に動くことが多い」という後藤さんがゲストハウスの着想を得たのは2016年春頃、島の知人の古民家を見たとき。立地もよく「ここを改装したらいいんじゃないか」と思った。

後藤さんは助成金の情報を集める一方で、古民家の所有者に打診。すると屋内にシロアリが巣食っていて取り壊そうとしていた矢先で、シロアリ対策も含めて再活用することを条件に後藤さんが借り受けることになった。古民家の所有者も生家を取り壊すことに寂しさを感じており、この打診を喜んだという。

島外の協力者や交付金の力を得て実現

水回り整備を含む古民家の改修費用約600万円で、総務省の「過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業」の交付金を活用。本棚など内装の一部は、SNSを通じて集まった協力者らとともに自作した。

後藤さんが施設内で気に入っているのが、利用客が自由に過ごせる「コミュニティスペース」。食事や休憩、イベントなどでも使えるスペースで、利用客からも「居心地が良い」と好評を得ている。

同スペースの一角にある本棚は、「本の虫」の後藤さんならではのもの。古民家の改修時、廃材を再利用して協力者たちと自作した設備で、色も内装に合わせた。同スペースは島の住民に開放しているのも特長で、今後は島の住民と利用客との交流の場にもなりうる。

開業にあたり、後藤さんは協議会を立ち上げて島の住民に話をした。後藤さんのほかは年配の方が多く、自分から積極的に新しいことに取り組もうとする人ばかりではないのが現実だ。だが後藤さんは、島の住民が「若者がなにかやることに対して、それを妨げるわけにはいかない」という考えをもっていることも感じている。

そうした配慮をしてくれる島の住民に、ゲストハウスの利用客など見知らぬ人が歩き回ることで心配をかけるかもしれない。だからこそ後藤さんは利用客に向けて、島の現在の生活を尊重してほしいと呼びかけている。

宿の運営は後藤さん一人で行い、必要に応じて家族がサポート。夏の繁忙期間は住み込みのスタッフを雇った。緋扇貝漁のピークが11~12月で、宿の繁忙期と重ならないのがありがたい。

開業からまもなく1年。同世代の友人や家族連れのほか、定年退職したグループなどが利用。少しずつ口コミで広まりリピーターも生まれ、新しいアウトドアスポットとして島を訪れる人も多い。後藤さんはこうした利用客との交流で刺激を受けながら「皆さんにとって、やがて島が特別な存在になれば」と話す。

今後は大学のゼミ合宿など、何かを考える場にしてほしいと後藤さん。情報を遮断できる離島のゲストハウスに、新たな可能性があると考えている。

「島で生きていく」という大きな目的があり、後藤さんにとっていまは緋扇貝漁とゲストハウス運営がその手段だ。ただ緋扇貝漁は自然の影響を受けるため、安定しているとは言い難い部分もある。どちらかをメインとするわけではなく「それぞれがダメになったら違うなにかを考えようと思います」と後藤さん。目的のために臨機応変に動いていくつもりだ。

【施設概要】
ドミトリーは1泊3,000円から。団体利用優先の個室は1人4,000円から。キャンプ用品の貸出や島内散策のガイドなども対応する。住所は大分県佐伯市蒲江大字蒲江浦2810。https://www.yakatajimaguesthouse.com/

【屋形島(やかたじま)】
大分県佐伯市の島。蒲江港から定期船「えばあぐりいん」で屋形島まで10分。1日3便運航。

特集記事 目次

特集|島に福よぶ空き家活用

2019年現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えると予測されています。 過疎地域だけに限らず、空き家の増加が社会問題となるなか、少子高齢化や都市部への人口流出が続いてきた離島地域でも、島の風景に家主を失った家々が増えているのではないでしょうか。 廃校などの公共空間を中心にした休眠空間の利活用事例を特集した前号「島の休眠空間利活用」に続き、今号では空き家となった住宅や民間施設をテーマに、離島地域の活用事例を特集します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。

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