現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えるとも予測されています。離島地域にも人影を失った建物が増えるなか、住居や旅館など、かつての役割を失ってしまった空き家が英気を取り戻し、にぎわいを呼び込む拠点となった「島に福よぶ空き家活用」の事例を紹介します。
この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。
人口15人からスタートした志々島の挑戦
島に人を呼び込みたい。島で暮らす人を増やしたい。そして島を守りたい――。そんな思いに駆られた3人が、樹齢1200年を誇るクスノキがシンボルの志々島(ししじま|香川県)を舞台に、空き家を活用したプロジェクトに乗り出したのは2015年のことだった。
志々島のシンボル・大楠(提供:志々島振興合同会社)
この年の4月、島へのUターン者である北野省一さん、山地常安さんと、香川県本土で不動産業を営む井出喜久美さんが、島おこしを目的とした「志々島振興合同会社」を立ち上げた。
交流人口増などを目的に、空き家の活用を考えていた山地さんに、北野さんと井出さんが共感。活動母体として会社の設置に踏み切った。このとき、島の住民は15人。3人は「このままでは島が無人島になってしまう」と危機感を募らせていた。
3人がまず取り組んだのは、網元が住んでいた古民家「いせやの本家」の再生。床が抜け落ちるなど痛みが激しく、改修費として400万円程度は必要と見込まれた。
「志々島振興合同会社」立ち上げメンバーの(左から)北野省一さん、井出喜久美さん、山地常安さん(提供:志々島振興合同会社)
クラウドファンディングを活用して資金を確保
その資金集めに利用したのが、インターネットを活用し幅広い人から資金集める「クラウドファンディング」。当時、香川県では先例が少なかったことも追い風となりメディアの注目を集め、目標額100万円に対し105人から約179万円もの資金を集めることに成功した。
この資金などを元手に、「いせやの本家」はイベント場へと生まれ変わり、2015年秋から冬にかけて計3回、島暮らし体験イベント「移住者フェア」を開催。毎回50人ほどが参加し、落語やコンサート、移住相談などを行った。その結果、フェア参加者うち2人が移住するという大きな成果を挙げた。
「いせやの本家」で開かれた移住者フェアの様子(提供:志々島振興合同会社)
一方で、「いせやの本家」改修と並行し、地元・三豊市のリフォーム関連補助金100万円などを原資に別の空き家改修を進め2016年春、ゲストハウス「きんせんか」がオープン。念願だった島初の宿泊施設設置に漕ぎつけた。
ゲストハウス「きんせんか」(提供:志々島振興合同会社)
人口増加が実現。さらなる未来を展望
さらに、来島者が1日3往復しかない定期船の時間を気にしなくてもいいようにと、船を購入して海上タクシーの営業も開始。着々と二の矢、三の矢を放っている。
その後、会社に仲間が一人加わり4人体制に。一連の取り組みによって、15人だった島民は2019年2月中に19人へと増える予定だ。
今後に向けては「目標は島の人口30人。今後は、雇用創出や島で収益を上げる観点から、来島者をアテンドする観光サービスにも力を入れていきたい」(井出さん)と、さらに意欲を燃やしている。
(取材・文 竹内章)
【施設概要】
志々島へは、香川県三豊市・宮の下港から定期船があり、乗船時間は15~20分。ゲストハウス「きんせんか」は素泊まりのみで1人3000円、収容人数10人程度。予約は、志々島振興合同会社ホームページまたは電話0875-83-5740(アップル不動産)で。
【志々島(ししじま)】
香川県三豊市の島。三豊市詫間町の宮の下港から定期船で15〜20分。周囲3.8キロの小さな島。