奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)・沖永良部島(おきのえらぶじま)の観光協会が、100年先の未来を見据えた島の振興計画「Island Plus おきのえらぶ島計画」を策定した。振興計画に込める願いや具体的な施策について、一般社団法人おきのえらぶじま観光協会 古村英次郎事務局長に話を聞いた。(写真提供:一般社団法人おきのえらぶじま観光協会)
※この記事は、『季刊ritokei』23号(2018年2月下旬発行)「注目の島づくり特集」連動記事です。
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東シナ海に突き出した高さ51mの断崖絶壁「田皆岬」(たみなみさき)
目指すのは「離島以上」の地域
和泊町(わどまりちょう)・知名町(ちなちょう)の2町からなる沖永良部島では、それまで両町にあった観光協会を統合し、2015年に「おきのえらぶじま観光協会」を設立。同協会では2016年より「おきのえらぶ島観光DMO(※)化事業」に取り組み、2017年3月に観光を軸とした地域活性化を目指す振興計画「Island Plus おきのえらぶ島計画」を策定した。
※DMO……Destination Management/Marketing Organizationの略。官民協働で市場調査などの手法を用い、経営的な視点から観光地域づくりを進める法人
DMO化事業では、100年後の沖永良部島の子孫たちに、より幸せで心豊かな暮らしを約束することを使命としている。
同協会事務局長の古村英次郎さんは「農業も観光も、島の産業は自然環境に依存していて、この環境を後世に受け継いでいけなければ、人が生活できない島になってしまう。持続可能な島の経済を考えていく必要があります」と語る。
島の未来を見据えた振興計画策定にあたり取り入れたのが、離島地域の地理的な制約を否定しない考え方だ。
例えば、交通アクセスの不便さは、それでも来島しようという熱意あるファンだけを呼び込むフィルターとして機能するとも考えられる。振興計画の名称「アイランドプラス」には、持続可能な観光地域づくりを通して離島地域のデメリットを乗り越え、「離島以上」の地域へ脱却を図りたいとの願いが込められているという。
島の素材や暮らし、精神を大切にする
計画では、基本戦略の3本柱として以下3つの「こだわり」を掲げる。
●ピュアブランド|島のものにこだわる
特産品開発や観光産業において可能な限り島内で生産・製造された産品を使い、観光による経済効果を地域全体に還流させる。また、島内の多業種を連携させることで、新たな価値の創造を目指す。
●ライフスタイル|島の暮らしにこだわる
島の伝統文化を背景とした衣食住を最大の魅力ある観光コンテンツと位置付け、島外からの来訪者と住民の交流の機会を創出。住民一人一人に、島の価値の再確認を促し、心豊かなライフスタイルへ導くことを目指す。
●スピリッツ|島の精神にこだわる
江戸末期、沖永良部島に流刑された西郷隆盛が伝えた「敬天愛人(※)」の心など、来訪者をあたたかく迎えるホスピタリティにも通じる、島に息づく精神を一人ひとりが理解し実践することを目指す。
※敬天愛人(天を敬い人を愛す)……「天地自然の営みによって生み出された人間の生きるべき道は、命を生み出し育んでくれた天を敬い、自分と同じく天によって生かされている人々に無限の愛を寄せることである」という思想
沖永良部島に流刑された西郷隆盛は牢居中に「敬天愛人」の思想を確立し、島人たちに学問を教えたと伝わる
これらの基本戦略に基づき、具体的な施策として、関連事業者や2町の行政担当者による観光戦略会議の設置、現地発着ツアーなどの開発やマネージメント体制の構築、特産品の認証制度によるブランド育成など、15のアクションプランが策定された。
島の人がやりたいことを応援する
「観光協会では島の人たちがやりたいことに取り組める場づくりや、プロジェクトの支援をしていきます」(古村さん)。
これまで観光協会に加盟する事業者は「特産品」や「飲食」などの部会に分かれて活動していたが、黒糖焼酎の酒造メーカーと飲食店が協力し「黒糖焼酎を楽しむ会」が企画されるなど、横断的な取り組みが始まっている。
また、島の暮らしを観光に取り入れる取り組みとして、2017年に2軒の農家民泊が営業を開始。2018年1月、観光協会では民泊開業の報告会を開催。古村さんは「アイランドプラス」の考え方について、集まった住民らに語りかけた。
「『交流人口』より『関係人口』を増やしたい」と語る古村さんは、島の人たちに「島をもっともっと好きになりましょう」と呼びかける。
「島自慢をする人が増えることで、人が人を呼び込むようになります」(古村さん)。生き生きと島暮らしを楽しむ人々と来訪者が知り合い、「久々に顔が見たいな」と、繰り返し島を訪れるような関係人口を増やしたいという。
「小さな島だからこそ、話し合い、意識を共有しながら挑戦することができると思っています」(古村さん)。今後も島内で「アイランドプラス」について繰り返し話していきたいという。