現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えるとも予測されています。離島地域にも人影を失った建物が増えるなか、住居や旅館など、かつての役割を失ってしまった空き家が英気を取り戻し、にぎわいを呼び込む拠点となった「島に福よぶ空き家活用」の事例を紹介します。
この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。
築70年の古民家をシェアスペースに
佐渡島の南端、直江津港との高速カーフェリーが往来する小木港のほど近く。約70年の古民家を改修したシェアスペース「ひょうご屋」が開業したのは2016年7月下旬。これまで各種のイベントを開催し、2018年にはシェアキッチンとしての機能も加わり着実に認知度が向上している。
(提供:ひょうご屋)
ユニークな名称主に2つの由来があり、古民家の屋号が「兵庫屋」だったこと、オーナーの熊野礼美さんが兵庫県出身だったことが挙げられる。
熊野さんはIターンで佐渡に移住した。登山が趣味で、旅行者として訪れ島の良さに触れたことをきっかけに地域おこし協力隊に応募。2014年に着任し2017年に3年の任期を終え、その後は移住相談などを手がける「佐渡UIサポートセンター」の運営会社を設立して現在に至っている。
熊野さんがのちに「ひょうご屋」となる古民家と出会ったのは2015年11月、地域おこし協力隊の事業で空き家調査しているときだった。
「出会った瞬間に気に入り、たくさんの人が集まるシェアスペースにしたい」と購入を決意。建物と土地の購入費用は20万円で、改修費用は全体で約270万円。資金は地域おこし協力隊の起業補助金や、新潟産業機構のUIターン者向けの起業補助金なども活用した。
(提供:ひょうご屋)
改修に当たり、「前からあるもので活かせるものはそのままにしている」と熊野さん。それだけに自分のカラーに染め切ったという感覚もない。
錆びついたトタンがある入り口から「ひょうご家」の足を踏み入れると、中にはシンプルな照明がある。訪れる人はそうした外観と内観のギャップにも喜ぶという。もともとの古民家の良さを引き立てる意匠について「自分と同じような感覚を共有してくれるのはうれしい」と熊野さんは話す。
(提供:ひょうご屋)
「ひょうご屋」オーナーは熊野さんのもうひとつの顔でもあるが、利用者の多くは佐渡への移住者や移住希望者で、熊野さんの事業とも密接に関連している。
2018年12月には東京在住で佐渡への移住を希望する20代の若者が2日間限定のおでん屋を開き、井戸端会議をモチーフにしたイベント「佐渡端会議」を企画した。移住を検討するなかで交流した2人に対し、熊野さんは「島内で知り合いを増やしては」と提案し上記のイベントが実現。熊野さんが喜んだのは、こうしたイベントに島の人が前のめりで参加してくれたことだ。
(提供:ひょうご屋)
熊野さんは小木地域を「ギュッと凝縮した街」だと話す。「ひょうご屋」がある川沿いのエリアは人通りが少なく、シェアスペースを開くことに対して懐疑的な意見もあった。しかしイベントを重ねるとともに人の流れが生まれ、街歩きの楽しさを見出すことにつながった。親に連れられてきた子どもたちが「だるまさんがころんだ」をするなど、今までになかった光景が同地域に見られるようになったことを喜ぶ人もいるという。
最近はほぼ毎週末にイベントが開かれている「ひょうご屋」。熊野さんはあくまでも建物のオーナーであり、イベントごとに日時限定のオーナーが登場するのが特長だ。イラストレーターの個展、中国語の出前講座、ベンチづくりや障子張りワークショップ、古民家からでた古い雑貨の展示販売など使い方は多彩だ。
(提供:ひょうご屋)
異なる関心をもった人たちが集まり交流することで、島での生活を楽しくする新たなつながりが生まれていく。
(取材・文 竹内松裕)
【施設概要】
営業時間は7時~21時。1棟レンタルは2時間で2000円。営業形式のイベントはプラス500円。キッチン利用の場合はプラス1,000円。住所は新潟県佐渡市小木町483。問い合わせは佐渡UIサポートセンター(TEL 0259-58-8013)まで。詳しくはウェブサイトでも確認できる。