つくろう、島の未来

2024年11月24日 日曜日

つくろう、島の未来

島の数だけ、舞台があるー離島に伝わるさまざまな芸能と、芸能を支える島の人々をリサーチする「芸能島舞台」。第1回は、瀬戸内海に浮かぶ小豆島の農村歌舞伎をとりあげます。20年ぶりに行われた、歌舞伎舞台の茅葺き屋根の葺き替え工事。小豆島の伝統では、それを祝って「あるもの」が投げられます。それは・・・?

島の数だけ、芸能がある。
離島に伝わるさまざまな芸能と、芸能を支える島の人々をリサーチする「島と芸能」。
第1回は、瀬戸内海に浮かぶ小豆島の農村歌舞伎をご紹介します。
現在、小豆島には江戸時代から伝わる2つの歌舞伎舞台が現存し、
毎年島の人々による歌舞伎公演が開催されています。
このうちのひとつ、中山地区で、歌舞伎舞台の茅葺き屋根の葺き替え工事が
20年ぶりに行われました。
まっさらの屋根の下で行われた葺き替え工事完了記念の餅つき&餅投げと、
完成に至るまでの葺き替え工事の様子を前後編にわたってレポートします。


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主役は役者より“餅”?!茅葺き屋根の歌舞伎舞台

香川県小豆島。
多島美を誇る瀬戸内海の中でもとりわけ大きなこの島には、
およそ300年の歴史を持つ農村歌舞伎の伝統が現在も息づいています。

内陸部へ向かって坂道を上がりながら車に揺られること数十分、
目の前に青々とした田園風景が見えてきました。
小豆島、中山地区。
標高200mを超える山腹に「千枚田」と呼ばれる
見渡すかぎりの美しい棚田が広がる、静かな山間地域です。

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年に一度、この中山が沸き立つハレの日が「中山農村歌舞伎」です。
この地域でおよそ300年にわたり継承されてきた、
島の人々の、島の人々による、島の人々のための歌舞伎公演であり、
その舞台となるのは、いにしえの昔から中山の人々に信仰されてきた
春日神社境内の歌舞伎舞台です。

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国の有形民俗文化財に指定されているこの舞台の魅力のひとつが、
今ではとても珍しい茅葺き屋根。
この茅葺き屋根の保存も、中山の人たちの大切な仕事です。
今年3月に、20年ぶりに葺き替え工事が行われ、
満開の桜が見守る4月15日、工事完了のお祝いのため、
新しい屋根の下で餅つきと餅投げが開催されました。

小豆島の農村歌舞伎の歴史

さて、そのレポートの前に、小豆島の歌舞伎の歴史について
すこしだけおさらいを。

小豆島の歌舞伎の伝統はいつ、どのようにしてはじまったのでしょうか?
その歴史は、今からおよそ300年前の江戸時代中期までさかのぼります。
当時、日本人の一大ブームといえば、お伊勢参りでした。
小豆島の人々も例外ではなく、海を越えてはるばる伊勢神宮を目指しました。
ところが荒天のため、島へ戻る船を出すことができません。
仕方なく大阪に足止めとなった島の人々を魅了したのは、
上方歌舞伎の華やかな舞台でした。
いまでこそ歴史と格式を持つ「伝統芸能」として知られる歌舞伎ですが、
その創成期である江戸時代においては、21世紀の現代に例えるなら
「人気絶頂のアイドルが出演する最新ミュージカル」といえるでしょう。
島の人々も、きらびやかな千両役者やドラマチックな物語など、
熱気あふれるステージに夢中になりました。
しかし、海を渡って歌舞伎を観に行くのも、そうそうできることではありません。
島の人々は、歌舞伎の名場面を描いた絵馬や衣裳などを島へ持ち帰り、
旅の一座や振付師を島へ招いて、自分たちで歌舞伎を演じるようになりました。
現在、ブロードウェイのミュージカルが日本でも上演されているように、
江戸や上方で大人気の歌舞伎を、島でも自前で上演ができるようになり、
島の人々の大切な娯楽として、歌舞伎公演が行われるようになったと伝えられています。

島内には明治や大正の時代は歌舞伎舞台が30以上あったといわれています。
が、現在残っているのは中山と肥土山の2つのみ。
肥土山では新緑薫る5月に、中山では稲刈り後の10月に、
現在も毎年歌舞伎公演が行われています。
「小豆島の歌舞伎の魅力は、プロの俳優や大きな会社ではなく、
島の人が歌舞伎を演じ、公演を作り上げていること」
餅つきの挨拶で小豆島町長が語っていたのですが、
出演だけでなく、舞台の裏方などのあらゆる役割を
中山、肥土山地域に暮らす人々が務めています。

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2012年4月15日。
中山地区では朝から餅つきと餅投げの準備が始まりました。
前日に用意された4000個の紅白餅をそれぞれ袋に詰め、餅米を蒸します。
舞台上に紅白の引き幕が張られ、立派な松の木の臼が登場し、
中山の重鎮たちがねじりはちまきをしめ、黄色いはっぴに袖を通すころ、
噂を聞きつけた「観客」が集まりはじめました。
「近くに住んでいるんだけど、神社の前を通りかかったらね、
今日餅投げがあるって聞いたから」
老若男女みな一様に、大きなビニール袋を手に提げています。

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工事完了の報告と挨拶のあと、いよいよ舞台上での餅つきが始まりました。
杵を持った4人が臼を囲み、順々に餅をついていきます。
息のぴったり合ったチームワークで、つややかな餅がつきあがりました。

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そして、あらかじめ用意してあった大量の紅白餅が籠一杯に登場すると、
遠巻きに見ていた人も、いそいそと舞台の近くへ集まり始め、
ビニール袋を広げて「臨戦態勢」となりました。
そう、いまからがメインイベントです。

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「それでは、お待ちかねの餅投げをはじめます!
みなさん、餅を拾うのに夢中になって、転んだりしないように!」
舞台上からはっぴを着た男性陣がいっせいに紅白餅を投げ始めると、
観客席は騒然となりました。

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「あ、そこ!」「これ、わたしの!」
さっきまでのんびりと餅つきを見ていたおばあちゃんが
地面に落ちた餅をすばやくビニール袋に放り込んでいくのを見ていると、
投げられた餅が見事に記者の顔にヒット。
凶器のゆくえを見ると、隣にいた地元の子どもがすかさず拾っていました。

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餅投げはものの15分ほどで終了し、あれだけ沢山あった紅白餅は、
観客のビニール袋に納まりました。
ご近所にお住まいの方に「どのくらい拾えました?」と伺うと、
「3人で集めたよ。20個くらいかなあ。あんたは?」
「わたし、ひとつも拾えませんでした…」「あらら。残念だねえ」
大きな袋いっぱいに詰まった餅を、得意そうに見せてくれました。

餅投げが終わり、ほくほく顔の観客が引き上げた後には、
新しい茅葺き屋根を誇らしげにいただく歌舞伎舞台が残されました。

次回配信の後編では、3月の葺き替え工事の様子をレポートします。

     

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