つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

日本海に浮かぶ粟島(あわしま|新潟県粟島浦村)には、島の人に愛される在来種の青大豆があります。

その名も「一人娘」。

農家さんの手で愛情たっぷりに育てられ、代々受け継がれてきた「一人娘」は、粟島自慢の農産品として皆に愛されてきました。

一方、粟島の人口は1955年の885人をピークに減りつづけ現在は340人に。粟島浦村は国内で4番目に小さな自治体でもあり、このまま生産者の減少が続けば「一人娘」の未来が危ぶまれる状況にありました。

そんな粟島から遠く離れた東京でのこと。菓子・食品の製造販売メーカー・カルビーの商品企画会議で、新商品を開発しようとする面々が、全国から取り寄せた豆を試食していました。

数種類の豆のなか、静かに並んでいた「一人娘」に手をのばす社員たち。

「この豆、めちゃくちゃおいしくない?」

この出会いが、企業と島が手を組む一大チャレンジに発展。プロジェクトを牽引するカルビーのマーケティング本部CX戦略チーム・藤東亮輔さんと、粟島観光協会事務局長の松浦拓也さん、一人娘生産者のひとり戸田トキイさんの話とともに、チャレンジのあらましを紹介します。

カルビー、粟島の極旨農産品「一人娘」と出会う。

豆の素材を生かしておいしくてヘルシーな、おいしいおやつをつくるー。

そんなコンセプトで生まれた人気のスナック菓子「miino(ミーノ)」シリーズを販売するカルビー。カルビーのマーケティング本部CX戦略チーム・藤東亮輔(ふじとうりょうすけ)さんは、ある日、社内のメンバーたちと全国から取り寄せた豆を食べ比べるなかで、1種類の豆に心を惹かれました。

<藤東さん>
「それが『一人娘』でした。素材だけですごく甘みがあり、加工すればさらにおいしくなるに違いないと思って、試しに『miino』をつくるラボで揚げてみました。そうすると、まるでお豆腐屋さんのような匂いが辺りに漂って、隣の開発チームまでもが『何してるの?』と集まってきたんです」

「これはすごい豆だ」と確信した藤東さんは一路、産地である粟島へ。東京から新幹線と在来線、フェリーを乗り継ぎ、たどり着いた島で直面したものは、生産者の減少により特産である「一人娘」の未来に頭を抱える粟島の人々でした。

最大の壁は、生産力の確保。

生産者の減少について、粟島観光協会事務局長の松浦拓也さんが教えてくれました。

<松浦さん>
「一人娘の生産能力が年々落ちる中で、村長も『粟島としてもなにか手を打たなければいけない』と話していました。そんなときにカルビーさんからお話をいただいたので、生産体制構築につなげられるのではないかと思いました」

カルビーは、2030年に達成を目指す「Next Calbee」と名付けられた3つのビジョンを掲げています。そのひとつが「Be Local」、地域に眠る素材を生産者さんとともに価値を磨くこと。「一人娘」を扱う以上、その生産や未来について自分ごとのように考えることはカルビー社員としても必然のことでした。

しかし、現実は想像以上に深く重たいもの。粟島ではじめて説明会を開いたときに「覚悟が決まった」と、藤東さんは振り返ります。

<藤東さん>「島の方から言われた言葉が忘れられなくて。『カルビーが取り組むことはありがたいが、目前に高齢化という課題があって、生産者がやめていく中で、どう実現させるのか?』と。そこで分かっていたつもりになっていた自分を反省して、この取り組みで最大の壁は担い手の確保であり、それをいかに解決するかなんだと強く実感しました」

それから粟島とカルビーで、一人娘を「miino」ブランドとして商品化するとともに、未来に向けて生産拡大を目指すプロジェクトが始動。粟島全体に向けて協力を募り、今年の種まきや雑草刈りでは30人以上の老若男女が集まりました。

とはいえ、過疎化が進む粟島で持続可能な生産力を確保することは簡単ではありません。カルビーの看板商品、ポテトチップスの生産を支える存在には1800戸のジャガイモ農家がありますが、「一人娘」は小さな島でわずかに生産される希少な農産品。藤東さんの挑戦は、やはり地域に寄り添う「Be Local」でしか成し得ません。

<藤東さん>
「『一人娘』の場合、商品を販売利益そのものよりも、粟島のツアーで成り立つようにしたいんです」

miinoをきっかけに粟島に人を呼び込みたい

カルビーといえばポテトチップス。そんなイメージもあって、同社が開催する、生産農家さんとじゃがいもを収穫し食べるという体験ツアーは人気を博しています。そんなファンの力を目にしてきた藤東さんは、「一人娘」をmiinoブランドでの商品化をきっかけに「多くの人に粟島に来てほしい」と意気込みます。

<藤東さん>
「粟島のツアーを通して、地域の人とふれあって農業体験をすることが、参加者の思い出になれば、またプライベートで来島するきっかけになる。一人娘という豆を通して関係人口を増やせるのではないかと思っています」

粟島では島内の小中学校で本土からの児童を受け入れる『しおかぜ留学』を行っており、今年の種まきや草取りには留学生も参加。miinoブランドでの商品化により、さらなる相乗効果も期待できそうです。

もちろん子どもばかりではありません。miinoをきっかけに粟島と出会って人は何を得られるのか? その答えは一概には言えませんが、「昨年6月から3カ月に1度のペースで島に来ている」という藤東さんの笑顔が、ひとつの答えのようにも思えます。

<藤東さん>
「粟島で何より良いのは『人』。行くたびにいろんな人に声を掛けてもらえるんですよ。東京の家族にも気付くと『あのばぁばがね…』と粟島の話をしていて、第二の故郷になっている。島の人からすると、いきなりカルビーという会社がやってきて『いっしょに一人娘を栽培しませんか』って訳が分からないじゃないですか。それでも少しずつ信用を得てというか、いっしょにやろうとしてくれることがうれしい。絶対に裏切ることはできないな、と思います」

毎回、社内でも参加者を募っていて、これまでに20人ものカルビー社員が来島したとのこと。そして一緒に農業体験や地域の人々とふれあうなか、皆が一様に「なんで藤東が粟島でやりたいと言ってるか分かった」と口にしたそうです。

11月のツアーでは粟島のまぼろしグルメも

「一人娘」の収穫期は11月。今年はカルビーのファンや粟島に興味関心のある一般参加者を募る収穫ツアーを企画しています。

しかし11月の粟島といえば完全なオフシーズン。そんな時期だからこそ、「また違った粟島の表情が見られる」と松浦さんは話します。

<松浦さん>
「粟島のオンシーズンは7月後半から10月中旬。そもそもコンビニもないし、事前に調べておかないと食事にもありつけない。でも、都会に住んでいる人にとって、普段の便利な生活からちょっと外れる体験ができることはある意味で魅力なんじゃないかなと思っています」

都会暮らしの人にとってはハードともいえる環境ですが、この時期ならではの魅力もあります。それは秋から冬にかけての粟島グルメ。海産物はもちろん「芋だこ」や魚をぬか漬けにしてつくる「しょがら」など。知る人ぞ知る島のグルメに魅せられたファンの話を、粟島育ちの戸田トキイさんが教えてくれました。

<戸田さん>
「ずっと前に息子の知り合いが島に来たんですよ。でも帰る日に運動会があって民宿ではご飯を出さないので、うちにお昼食べに来いと言ったんです。そこで『しょがら』を食べさせたら、翌年やって来て『また食べたい』と言ってね。それから10年くらい送ったの」

粟島で「一人娘」を収穫して人々とふれあって、「しょがら」を食べれば、また翌年には粟島に来てしまう。そうするうちに藤東さんのように3カ月に一度通う人になっているかもしれません。

粟島の人と、粟島に集う人々が手塩にかけて育てた「一人娘」の予定収穫量は、年間400キログラム程度というわずかなもの。そんな希少な豆でつくる「miino」の発売時期は、順調にいけば来年4月。miinoの最高級ラインとしてカルビーのECサイト「カルビーマルシェ」限定での販売を予定しているそうです。

「miino」として生まれ変わる「一人娘」は単なる豆菓子にあらず、島へのパスポートであるともいえそうです。

(募集終了)「一人娘」収穫体験ツアー募集中!抽選で20名様をご招待します。

11月4日(金)〜6日(日)に粟島で「一人娘」の収穫体験ツアーが開催されます。島ファンやカルビーファンの皆さまを抽選で20名様ご招待します。
詳しくは、カルビーマルシェの応募情報をご覧ください。

※本土側の港から島までの往復旅費や宿泊費(滞在中の食事付き)、体験イベントが無料になります。集合場所の岩船港(新潟県村上市)までの交通費は各自のご負担となります。

※この募集は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。