つくろう、島の未来

2025年12月22日 月曜日

つくろう、島の未来

2025年3月8日に開催された「離島医療会議2025」のトークセッションより、離島医療に従事した経験者が、離島医療と出会ったきっかけや医師としてのキャリアに離島での経験がどう活きるかを語る、session1「離島医療の現在地」のレポートをお届けします。

左から、モデレーターの白石吉彦さん、厚生労働省の中西浩之さん、医師の小徳羅漢さん

過渡期を迎える日本。2040年に向けた医療の在り方とは

白石

白石吉彦と申します。私は1998年、「ちょっと辛いけど、1年間頑張ってこいよ」と上司に言われて島根県の隠岐諸島に赴任しました。来てみたら全く辛いことはなく楽しくて、もう1年、もう1年……と延長しているうちに27年が経ちました。4年前からは、島根大学で総合診療医の育成にも携わっております。

このセッションでは、私がモデレーターを務め、奄美大島の大島病院から医師の小徳羅漢さん、厚生労働省から中西浩之さんをお迎えして「離島医療の現在地」について話し合いたいと思います。

小徳

鹿児島県の奄美大島で、産婦人科や総合診療科の医師をしている小徳羅漢です。今日は、茨城県出身の僕がなぜ離島医療を志したのか、そして離島地域における周産期医療の大切さについてお話しできれば幸いです。

中西

厚生労働省医政局 地域医療計画課の中西浩之です。へき地医療や医師の偏在への対策など、離島地域を中心とした地域医療に広く携わっております。

私からは国の保健医療施策や、2040年(※)に向けた新たな地域医療体制の構築など最新のトピックについてご紹介できればと思います。

※医療・介護の複合ニーズを有する85歳以上人口を中心とした高齢化に加え、生産年齢人口が大きく減少する中で、限りある医療・介護資源の中で、質が高く効率的な提供体制の確保が重要となると考えられている

白石

離島地域では、医療に限らずさまざまな地域課題が顕在化しやすいなか、国がDX推進などの支援を進めていることも、後のセッション3「離島医療の未来」につながっていきそうですね。

一つ、おもしろい質問が届いています。「中西先生、厚生労働省のお仕事はやりがいがありますか」とのことですが、いかがでしょうか。

中西

今はまさに、2040年に向けて医療の在り方を考える過渡期で、今後厳しくなる時期を見据えて制度を整備していく段階です。やりがいというよりも、日々責任を持ってやらせていただいております。

白石

小徳先生には、医学生の方から「へき地医療を担う総合診療医の育成において、現行の制度でネックになることは何か」との質問がきています。

小徳

広大な国土を持つオーストラリアやカナダ、アメリカなどのルーラルGP(※)では、救急時の搬送に時間がかかるため、総合診療医が救急分娩に対応して帝王切開を行う事が多いため、総合診療医が産婦人科や麻酔科の資格を取る際には、研修期間を短くして取りやすくしています。

※オーストラリアで生まれた「Rural Generalist(へき地医療専門医)」は、General Practitioner(総合診療医)としてへき地の診療所で働きながら、全身麻酔をかけたり外科手術や緊急の分娩に対応したり、フライングドクターとして患者搬送を行うなど、幅広い疾患に対応できる医師を指す

日本の現行制度でも、総合診療医が麻酔科専門医をとる際は比較的とりやすい制度になっていますが、搬送に時間のかかる離島を多く抱えている日本でも、そろそろオーストラリアなどと同様の制度ができても良い頃ではないかなと思っています。

白石

お産での帝王切開率は30年前だと1割程度でしたが、現在は3割近くにのぼります。ニーズがあるとはいっても、国全体の中で占める離島の人口割合は大きくないですから、どう判断されるのでしょうか。

中西

地域差もある中で、必要な医療をどのように効率よく提供していくか。医療の高度化に伴って専門が細分化されてきていますので、求められる質をどこまで担保できるかが地方の課題になると思います。

白石

これは住民の思いも交えて話し合っていかないと、離島のような辺境の地から少しずつ、日本の医療が崩れていくような恐れを感じます。

働き方改革で長時間労働が是正される一方、医師が研鑽に充てられる時間が不足してしまうという課題もあります。昔のように「俺がやるんだ」と離島に飛び込んでいくような形とは違ったやり方で、医師が経験を積める仕組みも必要だと思います。

小徳

オーストラリアでは医師のスキルアップのための仕組みがあって、へき地の医師が定期的に本土に行って研修するよう義務付けられています。僕が研修に行った2,000人の島では15人のルーラルGPがいて、専門医ではないけれど産科の認定医によってお産が守られていました。

認定医の中にも若手・中堅・指導医のグラデーションがあって、経験の浅い医師がへき地に飛び込んでも安心して働けるシステムになっていました。

お産の少ない地域で、1人の産科専門医を雇ってお産のない時は待機させておくよりも、いざとなったらお産にも対応できる産科総合診療医が複数名いる方がいいと思います。

白石

小徳先生の周りにも、そのような総合診療医を志望する医師はいるのでしょうか。

小徳

総合診療医に関心のある若手医師はたくさんいるのですが、専門医を取得するために医局に入る道を選んだり、子どもを育てながらいろんな病院で勤務するのが大変だと聞きます。

産科で数年の勤務経験があって総合診療医として働いている方から、産婦人科の技術を持っているのに専門医の資格がないため活かせていない、という話も聞きました。そういう医者が、経験を活かせるような認定制度があると良いなと思います。

白石

海外のルーラルGPは麻酔科が多いようですが、どうしてでしょうか。

小徳

救急で移送する際に挿管したり、終末医療の緩和ケアなどで麻酔が必要になることが多いです。

白石

過疎地域で医療を提供する場合、マルチタスクできる方が効率が良いですよね。土台になる総合診療科に加えて産科や麻酔科のスキルを持っていると強いですね。

東京のような人口の多い都会であれば専門医を極めるのも良いと思いますが、島根県は19市町村あって半数の自治体は人口1万人以下なんです。そこで100床の病院を持てるかというと、ランニングが難しい。

50床となると、医者の配置は5〜6人になります。そういう場合に、ルーラルGPのような得意分野を持った総合診療医を集められるといいですよね。少なくとも、小児科、整形外科、カメラやエコーのできる総合診療医が、島根では必要だと思います。

中西

ジェネラル領域に加えてプラスアルファの専門的付加価値をつけていくという考え方は、国内ではまだ認知が進んでいない状況だと思います。

人口減少が進む中、2040年頃を見据えた地域の医療機関の役割分担や連携などを含めた医療提供体制全体の構築に向けて、2025年度の新たな地域医療構想(※)のガイドライン策定等を通じて、国としてしっかりと議論していきたいと思います。

※85歳以上人口の増加や生産年齢人口の減少がさらに進む2040年とその先を見据え、全ての地域・世代の患者が、適切に医療・介護を受けながら生活し、必要に応じて入院し、日常生活に戻ることができ、同時に、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制の構築を目指すもの。「治す医療」と「治し支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療・介護提供体制を構築し、外来・在宅医療、介護連携等も新たな地域医療構想の対象とする

併せて、医師の偏在への対策やDX推進など、今回の離島医療会議でも共有された様々な地域課題や、地域ごとに異なる実情などにも配慮しながら、医療の基盤を整備していければと考えております。

白石

1万人を切る地域だと、50床の病院でやるべきことは総合診療医がいて肩こり・腰痛・五十肩など運動器の診療が主になると思います。

100床の病院ならちょっと頑張ればお産ができる。そのためには麻酔科医がいる。お産をするなら小児科も要る。常勤の麻酔科医がいれば、整形外科や外科手術もできる病院になると思います。

そこで、近隣の病院でお産ができるからと集約化を進めてしまうと、その病院では麻酔科が必要なくなり、お産だけでなく小児科も整形外科もやめてしまう、といったケースもでてくると思います。

生活の医療であるはずのお産が、なかなか厳しい状況におかれていますが、小徳さんが血縁もない奄美大島に移住して、お産がとれる総合診療医として活動することで、共感する人が集まり、必要な制度などの議論が進んでいます。

ルーラルGPのような文化が日本の離島でつくられていくことで「離島だからこそ働いてみたい」という若い医療従事者が増えていくと良いなと思います。

私は27年間島で暮らしてみて、海も山も人もいて圧倒的に豊かだと感じています。島の豊かさをたのしみながら社会に貢献し、地域の人々に交わりながら活躍してみませんか。それを、今日お聞きのお医者さんや看護師さん、ケアワーカーさんにお伝えしたいですね。

登壇者プロフィール

小徳羅漢(鹿児島県立大島病院 総合診療科 産婦人科医)

1991年茨城県生まれ。中学、高校生は横浜で過ごす。2016年東京医科歯科大学卒業後に離島医療がしたくて単身で鹿児島に移住。現在は奄美大島で「お産がとれる総合診療医」として「暮らしの保健室」や学校での「コンドームを配る性教育」に力を入れている。

中西浩之(厚生労働省 医政局 地域医療計画課 医師確保等地域医療対策室長)

内科・公衆衛生領域等に従事した後、厚生労働省入省。現在、医政局地域医療計画課に在籍し、医師偏在・へき地医療等の地域医療対策を担当。

モデレーター
白石吉彦(島根大学医学部附属病院総合診療医センター長)

1992年自治医科大学卒、徳島で研修、山間地のへき地医療を経験。1998年に島根県の隠岐諸島にある島前診療所(現隠岐島前病院)に赴任。2001年には院長。2021年より隠岐島前病院参与となり、島根大学医学部附属病院総合診療医センター長に就任。

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