つくろう、島の未来

2019年11月13日 水曜日

鹿児島と沖縄の中間に位置する奄美群島の徳之島には、徳之島町、天城町、伊仙町の3町に約2万3000人が暮らしている。島の中心部に人口が集中し山間部の過疎化が深刻になる中、小規模化が著しい徳之島町の1校区と天城町の3校区では「離島留学」を実施。島外から留学生を受け入れ、学校と地域コミュニティの活性化に期待を寄せている。

一方、留学生たちは地域の人々に温かく見守られ、友達と手を取り合い、大自然の中でたくましく成長。そんな小規模校ならではの離島留学を追った。

(取材・宮澤夕加里)

自然を求めてやって来た子どもたちにとって、海も山もすぐ近くにある手々地区は絶好の遊び場だ

留学生の受け入れが地域の活力になる

徳之島の北端に位置する手々地区(徳之島町)は、人口100人ほどの小さな集落だ。

かつては1,000人以上が暮らしていたが、時代の変化とともに新しい仕事や生活環境を求め、島外へと移り住む人が増えたという。戦後まもない頃は200人ほどいた手々小中学校の児童生徒も10人にまで減り、集落の空き家率は現在60%を超える。

敷地内に小学校と中学校が併設。行事やふれあい学習など、地域ぐるみの活動も多い

この地区では平成8年から平成29年まで、里親制度で60名を超える離島留学生を受け入れてきたが、高齢化の波は避けられず、とうとう里親を引き受ける家庭がなくなってしまった。

しかし、どうにかして離島留学生の受け入れを続けていきたいという地域の思いから、ふるさと納税制度を活用して「徳之島町手々地区ふるさと留学センター」(留学生寮)を整備。住み込みで留学生たちの世話をするセンター長として、熊本から移住して来た川口明さん・裕美子さんご夫婦を迎え、平成30年4月に再スタートを切った。

古民家を改修してオープンした徳之島町手々地区ふるさと留学センター

「私たち家族や留学生たちが地域に入ったことで、(高齢化は進んでいるが)まだできることがあるんじゃないかと積極的に考えてくれる方もいて、それが地域の力になっていると感じます」と、妻の裕美子さん。

地域行事をきっかけに住民同士が交流する機会も多く、お年寄りが子どもたちに遊びを教えてくれることもある。自治会では子どもたちのためにと、かつて集落で行われていた伝統行事を復活させようという動きもある。

手々小中学校の「われんきゃガイド」活動では、児童生徒たちが作成した集落マップを片手に集落の見どころを案内

センター長一家と家族のように過ごす寮生活

留学生たちが寮生活を送る徳之島町手々地区ふるさと留学センターは、手々小中学校の目と鼻の先にある。夕方5時半、「ただいまー!」という元気な声とともに、5年生の留学生2人と、同級生の川口さんの長男が帰って来た。

運動会を目前に控え、応援団練習でいつもより遅い帰宅だ。手には袋いっぱいの餅を握りしめている。「見てー!ムチタボリ(※)の餅!」留学センターは一段と賑やかになる。

300年以上前から集落に伝わる伝統行事「ムチタボリ」

川口さんご夫婦には4人の子どもがいるため、留学生2人を含め、留学センターは現在8人暮らしの大所帯。子ども同士、歳が近いということもあって、まるで兄弟のように仲がいい。

「里親と留学生だけだとどうしても会話が詰まってしまったり、発散の場がなかったりして、お互いにストレスを溜めてしまうことがあると聞きます。その点、我が家にはもともと同じ年代の子どもたちがいるので生活スタイルを大きく変える必要もなかったですし、留学生たちも打ち解けるのに時間がかからなかったように思います」(明さん)

留学生2人(写真中央)と川口さんの子どもたち。みんなで仲良く大合唱

留学センターでの寮生活に細かなルールはない。決まっているのは就寝時間、テレビを見る時間や曜日、そして「言葉遣いや態度が悪いと叱られる」ことくらい。

川口さん夫婦は、我が子に対するのと同じ眼差しで留学生たちを育て、見守る。そして留学生たちもまた、川口さんご夫婦を「お母さん」「お父さん」と呼び慕い、信頼を寄せる。その空間に、他人が暮らしているような壁はどこにも感じられない。

(※)かつては稲作地域だった手々地区に伝わる豊年祭。子どもたちが家々を回って踊りを踊り、餅をもらう、ご当地版ハロウィンだ。伝統文化継承のために残されていた田んぼを利用して今年、有志メンバーで米作りを復活させた。

少人数、自然豊かな環境で、のびのびと遊び学ぶ

現在(平成31年度)手々地区が受け入れている2人の子どもたちは、横浜と京都からの留学生だ。自然が大好きだという2人は、いくつかある留学先候補の中から自分でここを選んだ。

「海が近いし、自然の写真がきれいだった。見たことのない虫に会えるかもしれないと思った」「徳之島の海が一番楽しい!週末は海で泳いだり、潜ったり、飛び込んだりして遊んでいる」と、この島の魅力を教えてくれた。

自然のない地域から来た留学生の中には「海に入ったことがない」という子もいるのだとか

一学期を終え、留学生たちは夏休みをそれぞれの親元で過ごした。数か月ぶりに帰って来た子どもたちを見て、親は確かな成長を感じたようだ。

「もともと問題がある子たちではないんですが、親御さんからは『話し方が穏やかになった』『少しだけど自分のことを自分でするようになった』と言っていただきました」(裕美子さん)

たとえば、大規模校で「大勢の中のひとり」として存在していると、自分の存在や意思を表現するために、無意識に口調や性格がきつくなることもあるだろう。

一方、手々小中学校は小学生7名、中学生3名(平成31年6月現在)の小規模校だ。「少数の中のひとり」なら、一人ひとりの存在感は大きくなる分、じっくりと互いを知り、自然と思いやる心を育んでいける。

最後に、留学生の2人に「徳之島にずっといたいと思う?」と問いかけると、「(京都と横浜にいる)家族や友達が来てくれるんだったら、ずっとここにいたい!」と元気いっぱい答えてくれた。

特集記事 目次

特集|離島留学
人口減少により休校・廃校となる島の学校が増えるなか、島外から児童生徒を受け入れる「離島留学」を行う学校が増加しています。 離島経済新聞社では、少子化という島の緊急課題と、都市部の親子のニーズを引き合わせる離島留学・離島通学を、島の未来をつくる希望と捉え「離島留学」を特集しています。(当記事は、「子どもたちが暮らせる島づくり」をコンセプトに明るい島づくりを推進する「島の未来づくりプロジェクト」のサポーター会費やご寄付をもとに制作しています)

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