【特集|離島留学】4島5校に広がる長崎県立高校の離島留学は個性派ぞろい(後編)

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長崎県は国内でも最も多くの島を有する県である。離島地域に県民の約10パーセントが暮らし、県立高校も13ある(2018年5月時点)。現在、離島留学を実施する4島5校では、それぞれに特色あるコースが設けられ、志の高い留学生の存在が活気をもたらしている。(記事前編はこちら)

※この記事は『季刊ritokei』24号(2018年5月下旬発行)「島と親子に離島留学という可能性を」特集連動記事です

文・竹内 章

少人数で行われる奈留高校「E-アイランド・スクール」の英会話授業

島々の離島留学 そろう「個性派」

豊かな自然は確かに島の大きな魅力ではあるが、それだけが子供たちにとって離島留学を決断する決め手ではないようだ。
各校のコースは、島で築かれてきた歴史や地域文化などを色濃く反映させた「個性派」がそろい、専門的なカリキュラムにより目的意識の高い子供たちのニーズを満たしている。

15年前にコースを導入した3校のうち、五島高校(福江島|ふくえじま)はスポーツコースを設けるが「五島地域は伝統的に武道が盛ん。地域を含めスポーツ教育を支える土壌があった」(五島高校)ことがコース設立のきっかけの一つになったという。

地理的にも韓国とかかわりが深い対馬高校(対馬島|つしまじま)では、全国の公立高校で唯一、韓国語や韓国の歴史・文化を学べるコースを採用。韓国人講師も招き、実践的なカリキュラムを組む。

古来より東アジアの交流拠点で、歴史遺産が数多く残される壱岐島(いきのしま)の壱岐高校では、中国語や東アジアの歴史を専門的に学ぶことができる独自性あふれる教育体制を敷く。

上:厳原港まつり対馬アリラン祭の朝鮮通信使行列に参加する対馬高校生/下:壱岐高校の上海研修の様子

2018年度から離島留学を導入した2校に目を向けると、五島南高校は学校になじめなかった経験を持つ生徒などが対象。生徒の心に寄り添いながら、地域住民と触れ合う活動などを通じて社会性や生きる力を育む教育を目指す。

奈留高校(奈留島|なるしま)では、英語を重視したカリキュラムを構築。5~10人程度の少人数授業により、英会話や異文化交流など英語に特化した授業を展開する。

生徒からは「一般の高校ではできない学習や体験ができる」(壱岐高校)「スポーツについて専門的な授業が多く、自分の競技に思い切り打ち込める環境がある」(五島高校)などと評価する声が上がっている。

学校や地域への波及効果

「お魚教室」の様子=五島南高校

離島留学は、生徒側だけでなく学校や地域にもさまざまな効果をもたらしている。
コースの生徒は入学時からやりたいこと・目的意識が明確な傾向があり、また文化や風土が異なる他県からも集まっている。

これを受け、離島留学生以外の地元の生徒を含め、学校全体として「多様性」が醸成され、生徒同士で刺激し合ったり切磋琢磨したりする環境が生まれるという。ある教諭は「教育活動の場として、奥行きが生まれている印象がある」と分析する。

また、地域住民の視点で見た場合「奈留島のような規模の島(人口2,000人強)では、高校がなくなると人口減が加速するおそれがある」と警鐘を鳴らすのは、奈留高校の髙比良裕教頭。

奈留高校の全校生徒はわずか29人。1年生は16人と最も多いが、本年度受け入れを始めた離島留学の生徒が半数を占める。これらの生徒がいなければ高校の生徒数がますます先細っていくことが見込まれる。

髙比良教頭は「小中学生の子供がいる家庭は、島に高校があることが島で安心して生活できる理由の一つになっているのでは」と推測。「高校が無くなると、この比較的若い世代の家族が島で生活するための防波堤の一つが決壊することになりかねず、島の高齢化と過疎化がさらに進んでしまう」と、高校存続と島存続は車の両輪のようなものだと訴える。

また、商圏人口が極端に限られる島の経済環境において、わずかでも人口が増えることは新たなお金の流れを生み出すことにつながるため、離島留学が地域に経済効果をもたらしていることは確かなようだ。

ある島関係者は「離島留学の子供たちをめぐり、生活費や交通費などの形で島にお金が落ちる。特に人口が少ない島では、その効果は決して小さくはない」と話す。

島の将来を担う人材に

島にある「島らしい教育資源」だけに寄りかかるのではなく、特色あるコースを設けることでさらに魅力を増している長崎県立高校の離島留学制度。離島留学を管轄する長崎県教育庁高校教育課の担当者が期待を込める。

「高校卒業後にいったん島を離れたものの、島に戻ってきて働き始める卒業生もいます。離島留学を経験した子供たちから、島の将来を担うような人材が誕生してくれればうれしいですね」。

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