つくろう、島の未来

2019年08月24日 土曜日

現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えるとも予測されています。離島地域にも人影を失った建物が増えるなか、住居や旅館など、かつての役割を失ってしまった空き家が英気を取り戻し、にぎわいを呼び込む拠点となった「島に福よぶ空き家活用」の事例を紹介します。

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。

曽祖父の家を改修。人が集うゲストハウスに

愛媛県の北端、今治市から伸びるしまなみ海道の広島県との県境付近にある佐島。人口は約500人で、左右に隣接する生名島と弓削島とはゆめしま海道で結ばれ、近年はサイクリングスポットとしても知名度が向上している。その佐島の北部に、古民家を改修したゲストハウス「汐見の家」がある。

(提供:汐見の家)

2016年4月に開業し、まもなく3年が経とうとしている「汐見の家」。定員8人のゲストハウスの利用者数は順調に推移しており、開業年は約400人、2017年は約700人、2018年は約800人(西日本豪雨のため7-8月は前年比割)となっている。利用者の多くは首都圏や中・四国で、2割はインバウンドという。

「汐見の家」は移住者をも島に呼び寄せている。準備期間から数えて、汐見との関わりがきっかけで9人が佐島に移住。1ヶ月以上の長期滞在者が6人いる。ゲストハウスのヘルパーを経て、島内で生業を得た人もいる。

「私は『汐見の家』という箱をひとつ作っただけですが、そこに集まった皆さんが魂を入れ、新しい宝物を次々と作り出しています」と喜ぶのはオーナーの西村暢子さん。西村さんにとって「汐見の家」は母方の祖父の生家で、曽祖父が約40年前に亡くなるまで暮らしていたが、その後は親族が住まずほぼ空き家となっていた。

処分のために2012年4月、約30年ぶりに島を訪れた西村さんは、古民家の趣のある佇まいと桜が満開のしまなみ海道の美しさに心を打たれ、1年半ほど迷ったのちに再生したいと思うようになった。

(提供:汐見の家)

再生の過程で、親族の歴史を知ることにもなった。古民家は西村さんの大叔父・アメリカ日系一世のロバート汐見さん(1904-2004)の生家でもあり、第二次大戦後にロバートさんが両親のために建て替えて現在の形になった。ロバートさんはアメリカに渡りオレゴン州ポートランドで医師として活動。

しかし戦時中は日系人排斥運動により強制収容所に送られ、財産を奪われる悲劇に見舞われた。戦後、無事に戻りはしたが、娘にも強制収容された当時のことを語らなかったという。医師として復帰したロバートさんは、日本人留学生の支援活動も行うなど民族間の相互理解に務め、1976年には叙勲されている。

ロバートさんは引退後、年4回ほど島に戻って手を加え、風呂やトイレ、台所をアメリカ風に改装。結果的に家屋にユニークな味わいをもたらした。

西村さんは母方の姓である「汐見」をゲストハウスの名称に採用し、ロバートさんの遺志を受け継いで、出来るだけ多様な人達が出会える場を作ろうと改修工事に取り組んだ。工事は足掛け5年にわたった。2015年の1期は殆どが自費で賄ったが、費用が膨らんだため簡易宿所申請に最低限必要な改修に留まった。

放置状態だった庭は、ガーデンデザイナーである西村さんの実姉・関晴子さんが手がけた。その後、管理人を探し直すことになり、開業が数か月延びた間に、地域のボランティアが内装等を手掛け、柱や壁を磨き上げた。この期間を西村さんは感謝を込めて1.5期と呼んでいる。2期は「被災地域販路開拓支援事業」を活用し2019年1月に工事を終えた。改修には当初想定した数倍の費用を要した。

(提供:汐見の家)

かつて西村さんに「こげな何もない島に何しに来よん」と声をかけた島の住民には、ゲストハウス開業後に若者や外国からの旅行者が島を訪れるようになり驚かれた。

移住してきた人々が島の魅力を発信し、それにより島の住民から「あたりまえと思っていた事が島ならではの魅力だと気付いた」という声も届く。島の変化をおおらかに受け止めて下さり本当に有難いと西村さんは語る。

「汐見の家」の施設は島の生活環境の改善にも貢献している。ゲストハウスの中庭にあった古井戸を再生させたところ、西日本豪雨後の11日間の断水時に大活躍。五右衛門風呂と共に開放し、島の住民に喜ばれた。

(提供:汐見の家)

「暮らしの半分を島でまかなえたら」と考えた西村さんは、実験的な取り組みも進めている。離れにある汲み取り便所は流し水不要、無臭のコンポストバイオトイレとした。2018年の末には松江高専と地域の高専助教の協力で木炭蓄電器とソーラーパネルを利用した照明を設置した。

東京在住の西村さんはゲストハウスの運営を2人の管理人に一任し、「彼女たちの魅力でさらに人が集まっている」と信頼を寄せる。2018年9月には、島に移住した女性2人が保育所だった建物を再生し「book café okappa」を開いて話題を集めた。西村さんが作った「箱」が、これからも島に楽しい循環を生んでいく。

【施設概要】
素泊まりは1泊4,000円(小学生以下は2,000円、乳幼児は無料)。一棟貸しは1泊30,000円。所在地は愛媛県越智郡上島町弓削佐島299。予約は宿のウェブサイトで行える。問い合わせは汐見の家(shiomihouse@gmail.com)。

特集記事 目次

特集|島に福よぶ空き家活用
2019年現在、日本には800万戸以上の「空き家」が存在し、今後も増え続ければ2033年には2100万戸を超えると予測されています。 過疎地域だけに限らず、空き家の増加が社会問題となるなか、少子高齢化や都市部への人口流出が続いてきた離島地域でも、島の風景に家主を失った家々が増えているのではないでしょうか。 廃校などの公共空間を中心にした休眠空間の利活用事例を特集した前号「島の休眠空間利活用」に続き、今号では空き家となった住宅や民間施設をテーマに、離島地域の活用事例を特集します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』27号「島に福よぶ空き家活用」特集(2019年2月25日発行)と連動しています。

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