つくろう、島の未来

2018年12月10日 月曜日

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。

この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。

猫集う島で「カフェでもすればいいのにな」を自ら実現

人口約70人。おそらくは島の住民よりも多い猫島・佐柳島(香川県多度津町)にあるゲストハウス「ネコノシマホステル」と「喫茶ネコノシマ」。

代表の村上淳一さんは大阪府出身で、父方の祖父母が佐柳島出身。幼い頃に父親に連れられて墓参りをしたことはあったが、その後は20年ほど足が遠のいていた。

島の休眠空間利活用

そんな村上さんが夫婦で島を訪れたのは2016年6月。写真家の岩合光昭さんが「猫島」として紹介していたことなどがきっかけだった。

2人は休憩場所や自販機などもない島内を散策するうちに、島の東の通りに面した古い木造校舎を発見する。そしてその建物を「カフェにでもすればいいのにな」と考えた村上さん自身が、その思いつきを実現していくことになる。

村上さんはその校舎をゲストハウスと喫茶室として再活用する企画書を作成し、同年9月に多度津町に持ち込む。すると、その動きは町が地域活性化に向けて動き始めた時期と重なったことも手伝いトントン拍子で話が進んだ。

町は同12月の町議会で村上さんの企画を検討し、個人に対して校舎を貸し出せるように条例を改訂する。こうしてゲストハウス開業の下地ができ、2017年3月には村上さん夫婦の島への移住が決まった。「偶然ばかりなので参考にならないかもしれません。ただ話が進むスピードはめちゃくちゃ早かった」と村上さんは振り返る。

借り受けた建物は、1954年に開校し1995年に閉校した旧佐柳小学校の校舎だった。村上さんの父も通っていた学校であり、島の住民のほとんどが卒業生だ。それだけに柱の傷ひとつであっても誰かの思い出かもしれない。そう考えた村上さんは、改修が必要なところには手を加えた上で「できる限り現状のまま」を重視。全体の費用の約30%は町の補助金を活用し、残りは自己資金で乗り切った。

工事を地元の業者に依頼したことで、結果的に地域のネットワークにスムーズに入っていけた。かつての図書室は相部屋に、資料室と図工室は個室に、職員室は食堂兼喫茶室などとして再生。こうして2017年8月に「ネコノシマホステル」と「喫茶ネコノシマ」がオープンした。

「猫をきっかけに島に来てもらいたい」とオープンして1年が経ち、観光客はもちろん島の住民も頻繁に利用するようになった。村上さんによると、東京や大阪から毎月1度のペースで来島するほどの固定ファンがおり、その他にもリピーターが多いのが特長だという。

村上さんを驚かせたのは、島を訪れる若い世代の反応だった。若者たちはスマートフォンや携帯電話がつながらない島の通信環境を新鮮に感じ楽しんでいる。一方、島の住民は特に不便に感じてはいない。このことから、村上さんは観光客向けに特別な施策をせず、「何もない島」という現状を維持した方がいいのではと考えるようになった。

想定外の出来事は続く。「ネコノシマ」オープン後、佐柳島にルーツをもち、現在は島外で暮らしている人からの応援が多く届いた。メディアの取材を受けると拡散し、お盆休みなどの帰省時には来店してくれる。村上さんは喜ぶと同時に「島の人口は約70人だが、ルーツをもつ人々を含めて考えれば、今後もっと島にとって良いことが起きるのでは」と気付かされた。

課題もある。高齢化による人口減少が急速に進む一方で、移住者は増えていない。だが村上さんは悲観もしていない。村上さんが自ら事例となって情報発信を続ければ、島に戻ろうとする血縁者が現れるはずだ。

島を清潔に保つため、住民が頻繁に手入れや掃除をしている。ており島内は清潔に保たれている。そうした積み重ねもが島の魅力となり、2軒の「ネコノシマ」とともに相乗効果を生み出し続ける。(文・竹内松裕)

<施設概要>
ネコノシマホステルは17時チェックイン、10時チェックアウト。喫茶ネコノシマの営業時間は9時〜17時、ランチは11時30分〜、火曜定休。問い合わせは 0877-35-3505まで。詳しくはホームページで確認できる

【関連リンク】
ネコノシマホステル+喫茶ネコノシマ(旧佐栁小学校)

特集記事 目次

特集|島の休眠空間利活用

人口減少に転じた日本では、各地で空き家や廃校を見かけることもめずらしくなくなりました。

離島地域にも、にぎわいを失った建物に草木が生い茂り、割れた窓や崩れ落ちた屋根など、寂しさを感じる風景が増えてきています。

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっています。

リトケイではフリーペーパー26号・27号に渡って休眠空間の利活用について特集。26号『島の休眠空間利活用」では、この10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設を中心に、公共系空間の利活用事例を紹介します。

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