つくろう、島の未来

2019年09月19日 木曜日

たとえそのごみが何処から流れ出していたとしても、美しい島を汚すものは拾うほかない。人口数人から数万人の離島地域に容赦なく流れ着く、膨大な海ごみに対峙するならひとりよりも「みんな」が心強い。全国の離島地域で海岸清掃を行う団体に話を聞いた。(文・竹内松裕)

約3000万人が関わる瀬戸内海の海ごみ

1986年の海上保安庁の調査によれば、727もの島々が点在する瀬戸内海。おだやかな海と温暖な気候に恵まれた風光明媚な地域というイメージがあるが、実際は太平洋などと比べて圧倒的に海ごみが多く、汚れている現状がある。

(提供・せとうちクリーンアップフォーラム)

周囲に本州と四国、九州がある瀬戸内海は、外洋と海水が循環されにくい「閉鎖性海域」であるため、瀬戸内海で発生する海ごみの大部分は外洋から漂着したものではなく、周囲の陸地から川などを通じて流れ込んでいると考えられる。海ごみには主に海を漂う「漂流ごみ」、海岸にたどり着く「漂着ごみ」、海底に沈み堆積する「海底ごみ」の3つに分類され、すでにある海ごみの回収と処理を進めると同時に、発生を抑えなければならない。

2007年度に環境省中国四国地方環境事務所が行った調査によると、瀬戸内海53地点のうち52地点で海底に堆積した海底ごみが確認され、全体では約1万3千トンの海底ごみがあると推計。その多くは空き缶やペットボトル、プラスチックごみなどの生活ごみであり、約3000万人の瀬戸内海沿岸流域で暮らす一人ひとりが密接に関わる問題となっている。

瀬戸内海の海ごみに向き合う「せとうちクリーンアップフォーラム」

こうした状況を変えようと、「美しい海を瀬戸内から」というメッセージを掲げて活動をしている団体がある。NPO法人アーキペラゴ(香川県)は主な事業のひとつとして「せとうちクリーンアップフォーラム(SCF)」を2009年から開始。瀬戸内海を中心とする海ごみ問題に向き合い、年に4回、海ごみが大量に漂着回収する地点でクリーンアップイベントを実施するほか、香川県の委託事業として海ごみの調査や研究や、マイボトル・マイカップ、エコバッグの推進などに取り組んでいる。

(提供・せとうちクリーンアップフォーラム)

この事業の中心人物は、香川県出身で同NPO副理事長の森田桂治さん。森田さんが中心となって企画するSCFのクリーンアップイベントには、参加者が楽しめる複数の仕掛けがあるのが大きな特長だ。ではなぜ、森田さんがこのイベントを企画したのだろうか。

もともとアウトドアアクティビティが好きだった森田さんは、学生時代に海辺で貝殻などの漂着物を拾い集める「ビーチコーミング」やシーカヤックなどを始めた。そこで友人たちと目についた海ゴミを拾うなどしていたが、一時的にきれいになってもすぐに別の海ごみが漂着するのを見て「拾うだけでは解決しない」と感じていた。

楽しくなければ続かない。探究心をくすぐるアイデア

やがて森田さんはシーカヤックを通じて鹿児島大学の藤枝繁特任教授(鹿児島大学)と交流し、海ごみについての講座を受けて知識を深めるとともに、「ICC(International Coastal Cleanup)」という調査方法を知る。

ICCとは全世界共通のデータカードを使い、回収した海ごみの品目別個数などを数え、その結果に応じて改善策を考えていく国際的な調査・清掃活動だ。「これだと思いました。ただ拾うだけではなく調査も行い、その結果をもとにどうやっていくかを考えていく。そんな方向性が生まれました」と振り返る。その後、森田さんは郷里を離れたが、やがて香川県を拠点に同NPOの活動に参画した。いまではICCはクリーンアップイベントに参加する子どもや若者の探究心を満たす宝探しの様相も帯びている。

(提供・せとうちクリーンアップフォーラム)

「楽しくなければ続きません」と断言する森田さんはさらに、郷土料理という魅力も付け加えた。クリーンアップイベントを行う地域に呼びかけて、地元のお母さんたちが手製の郷土料理を振る舞うようにしたところ、それを楽しみにする人も増え、いまでは平均50人前後が参加する。そこには子どもから大人まで幅広い世代の姿がある。

(提供・せとうちクリーンアップフォーラム)

海ごみを取り除き、海ごみを分類し環境への影響について学べ、作業終了後には郷土料理も食べられる。こうした複数の魅力をもつクリーンアップイベントを通じて森田さんが目指すのは仲間づくりだという。

「参加者同士が仲良くなって次回の参加を約束したり、別の場所で会って他の活動を一緒にしたり。そうした仲間づくりはすごく意識しています」と森田さん。現在は香川県と共同で、海ごみ対策に取り組む主催者の養成にも乗り出している。「主催者が地域に散らばっていって、規模や人数にかかわらず、毎週どこかでクリーンアップを行うのが理想です」と森田さんは話す。平行して愛媛県や岡山県、徳島県などで海ごみ対策をしている団体とも交流しネットワーク形成も試みている。

(提供・せとうちクリーンアップフォーラム)

人口わずかな島の情報発信も課題

地道に歩みを進めてきた森田さんだが、海ごみ問題の難しさを痛感することもある。そのひとつは「海ごみを出す人と、迷惑を被る人の住む場所が違うところ」だ。例えば大阪府や奈良県に住む人は瀬戸内海の海ごみを見る機会がほぼない。しかし川と海でつながった香川県丸亀市の人口約10人の牛島には、大量の海ごみが漂着し浜辺に堆積している。森田さんはこうした離島の情報発信も課題に挙げている。

瀬戸内海は前述したとおり閉鎖的海域ではあるが、1日に2回太平洋の海水が流れ込み、同じ回数で流れ出している。そのため瀬戸内海の海ごみが外洋を渡ってハワイやミッドウェイ近海まで運ばれる。海ごみに含まれるプラスチックをコアホウドリの親鳥が雛に与えてしまい、雛は胃に入ったプラスチックを吐き出すことができずに死んでしまう。死んだ雛の胃からは瀬戸内海に由来する海ごみがあるという。

「グローバルに視点を変えていかなければ」と森田さん。瀬戸内海の流域に暮らす一人として当事者意識を持ち、海ごみの問題に関わっていく。

特集記事 目次

特集|島と海ごみ
四方を海に囲まれる海は離島地域では近年、「海ごみ」の急増に頭を痛める人が増えています。 海洋ごみ(本特集では海ごみと表記する)は主に、海を漂う「漂流ごみ」海岸にたどり着く「漂着ごみ」海底に沈み堆積する「海底ごみ」の3つに分類され、いずれも世界規模で解決が迫られる大問題となっています。 なかでも問題になっているのは、人工的に合成され、ほとんど自然に還らないプラスチックごみ。ペットボトル、発泡スチロール、漁業につかわれる網など。都市や田舎に限らず、現代の暮らしに浸透するプラスチック製品が、なんらかの原因で海に流れ出し、海を漂流し続け、島に流れ着いているのです。 紫外線を浴びて変質した微細な「マイクロプラスチック」は回収困難といわれ、多くの恵みを与えてくれる海が「プラスチックスープ」になると警鐘を鳴らされています。 海から離れた地域に暮らす人には、遠い話にも聞こえる海ごみ問題は、その一端を知るだけでも、現代社会の恩恵を享受するすべての人が関係する問題であることがわかります。 本特集では、そんな海ごみ問題を「島」の現状や取り組みを軸に紹介します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』28号「島と海ごみ」特集(2019年5月28日発行)と連動しています。

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