つくろう、島の未来

2019年09月19日 木曜日

日本の離島地域では1990年代頃より表出してきた海ごみ(海岸漂着物)問題は、今や地球規模で議論される大問題になっている。海ごみ問題に詳しい一般社団法人JEANの金子博代表理事と小島あずさ事務局長に話を聞いた。(文・鯨本あつこ)

海に流れ出すプラごみは1年間で東京ドーム4杯分以上?

島に流れ着く海ごみのなかでも特に目立つプラスチック製品は、日本国内だけでも年間600万トン以上が販売されている(※1)。

※1 日本プラスチック工業連盟2018年確定値

ある研究は世界192カ国で1年間に2億7,500万トンのプラスチックが製造され、そのうちの480万~1,270万トンが海に流出していると推計(※2)。自然分解されるには数百年以上かかるといわれるプラスチック生態系への影響も危惧されている。

※2 ジョージア大学の研究チームによる2010年の推計

プラスチック製品はどのようにして海ごみとなるのか。製造~流通~消費~処分のイメージ図(図1)を見てみると、「消費」やマテリアルリサイクル(再資源化を目的とした材料リサイクル)として「海外輸出」されたプラスチックから海にこぼれ落ちていることがわかる。

離島地域の海岸清掃活動にも数多く携わる小島さんは、「今日直ちに、世界中の国からプラスチックゴミを出さなくなったとしても、すでに流れ出てしまっているプラスチックは変化を続け、流れ着き続けるでしょう」と語る。

対馬の漂着ごみに絶句。離島ごみサミットを開催

1990年から日本各地で海のごみ調査とクリーンアップを行うJEANでは、全国各地で「海ごみサミット」を開催しているが、開始当初の名称は「離島ごみサミット」だった。

「海ごみは広域的な問題なので、霞ヶ関の人も含めて一緒に考えられるよう、サミットを始めました。そこで、対馬が特にひどいと聞いて旧上県町(現在の対馬市)で漁師の方に船を出してもらい、船でしか行けない場所を見に行きました」(小島さん)。そこで目にしたごみの量に、小島さんは絶句。「見なかったことにしたいくらい」というほどのごみが、島の海岸を埋め尽くしていた。

対馬の海岸線に流れ着く海ごみ(提供・対馬CAPPA)

同じ頃、山形県酒田市の飛島では海岸に流れ着いた海ごみが高さ2メートルまで堆積していた。人口わずか200人台の飛島の住民だけでは到底対応できず、県や市に要望を続けた結果、島外からボランティアを募るクリーンアップ作戦が導入された。

対馬や飛島の惨状をきっかけに、超党派による議論が巻き起こった日本では、2009年7月「海岸漂着物処理推進法(※3)」が制定され、海ごみの回収・処理にかかる費用に補助がつくようになった。

※3 「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」の略称

しかしながら、漂着する海ごみの莫大さに対して万全とは言い難い。年間3億円もの補助金を活用し、海岸清掃を行なっている対馬でも、海岸清掃ができているのはわずか5%の海岸という。

 

お金も人手も不足する地域が多いなか、「企業の方と現場を見に行っていただくようなスタディツアーを実施したい」と小島さんは言い、「日帰りで行けるような場所にはごみはありませんが、一番大変な地域は搬出さえできていません。本当に厳しいところに行ってほしい」と期待する。

海ごみ問題は回収だけでなく、回収したごみの保管や輸送、処分も簡単ではない。すべてのごみを本土に輸送する飛島では、本土側の焼却能力が高いことが救いだが、塩分を含む海ごみの問題は焼却炉の寿命さえ縮めかねないという。「回収すればいいという単純な問題ではないのです」(金子さん)。

「拾う」だけでなく「減らす」ことも重要

20世紀最大の発明と言われるプラスチックは、命を守る医療用具や暮らしの糧を得る道具としてもくまなく浸透している。物質の優秀さゆえすべてを無くすことが不可能だとしても、これ以上増やさないために「蛇口を閉めること」が必要と金子さん。

 

海岸漂着物処理推進法の整備に関わってきた金子さんは、「2018年の法改正では、循環型社会形成推進基本法などとの接続が明記されました。海ごみの回収とあわせて、そもそも海ごみを発生させない社会をつくっていくことが大事です」と話す。

6月に大阪で開催されるG20に向けて、政府も「プラスチックの資源循環戦略」を打ち出し、使い捨てプラスチックを大幅削減やリサイクル100%に向けて動き出す方針という。

石垣島に流れ着いたプラスチックごみ(撮影・水野暁子)

海ごみの削減は一人ひとりにできることもある。それは「使い捨てを減らすこと」(小島さん)。「残念ながら、安いものを人は大事にしません」という小島さんは、ごみの回収や処理のシステムが十分でない新興国からこぼれ落ちる海ごみを問題視しながらも、「そうした新興国でも安く売られるような消費材を製造してきた先進国のあり方を見つめ直すことも重要です」と話す。

この問題は小さな島だけで解くことはできない。現代に生きるすべての人々がその暮らしを見つめ直すとともに、すでに流れ出したごみを回収し続ける力を結集させ、美しい海と島を取り戻していく壮大な問題なのだ。

特集記事 目次

特集|島と海ごみ
四方を海に囲まれる海は離島地域では近年、「海ごみ」の急増に頭を痛める人が増えています。 海洋ごみ(本特集では海ごみと表記する)は主に、海を漂う「漂流ごみ」海岸にたどり着く「漂着ごみ」海底に沈み堆積する「海底ごみ」の3つに分類され、いずれも世界規模で解決が迫られる大問題となっています。 なかでも問題になっているのは、人工的に合成され、ほとんど自然に還らないプラスチックごみ。ペットボトル、発泡スチロール、漁業につかわれる網など。都市や田舎に限らず、現代の暮らしに浸透するプラスチック製品が、なんらかの原因で海に流れ出し、海を漂流し続け、島に流れ着いているのです。 紫外線を浴びて変質した微細な「マイクロプラスチック」は回収困難といわれ、多くの恵みを与えてくれる海が「プラスチックスープ」になると警鐘を鳴らされています。 海から離れた地域に暮らす人には、遠い話にも聞こえる海ごみ問題は、その一端を知るだけでも、現代社会の恩恵を享受するすべての人が関係する問題であることがわかります。 本特集では、そんな海ごみ問題を「島」の現状や取り組みを軸に紹介します。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』28号「島と海ごみ」特集(2019年5月28日発行)と連動しています。

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