つくろう、島の未来

2018年12月10日 月曜日

2018年、ユネスコの世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に登録された黒島(くろしま|長崎県佐世保市)。島のシンボル「黒島天主堂」だけではない、じんわり温かな魅力があふれています。「させぼ黒島の秘密」では、黒島に暮らす3人が “島の住民だからこそ知っている島の魅力“を、さまざまな角度からご紹介。第3回目はこの春、黒島へ移住した初田育子さんが黒島の人たちの「速度(時間)の感覚」について紹介していきます。

写真・文 初田育子

九十九島の多島美に浮かぶ黒島からみる風景

黒島の人はせっかち?!

こんにちは。今年4月に黒島へ移住した初田育子です。

関西から黒島に越してきた私は、たまに「こっちの人はせっかちでしょ?」と言われることがあります。

島の人はせっかち???

黒島どころか、九州の人にせっかちなイメージがまったくなかったので、初めはとてもおどろきました。どちらかと言えば九州は寡黙で頑固なイメージで、せっかちでいらち(関西の方言で短気な人のこと)なのは関西人の専売特許だと思っていたからです。

しかし、実際に黒島へ越してきて車を運転してみるとせっかちといわれる理由が分かりました。もちろん法定速度の範囲内ですが、小さな島にしては皆さんかなりのスピードを出して運転されているのです(私がペーバードライバーで運転に慣れていなかったからかもしれませんが)!

そしてもう一つおどろいたのが、島で運転している人たちの多くがご年配の方々であること!

黒島も他の地域と同様、若者が少なく高齢化社会の一途をたどっていますが、都会の高齢者と違うのは皆さんが農業や漁業など仕事を持たれていることで、仕事をもたれているが故、時間に追われて車のスピードもあがるのかもしれません。

5分前行動が通じない黒島時間

私が黒島に来て私が育った地元と「時間の感覚が違うな」と感じた出来事があります。

周囲12.5キロメートルの黒島は、自然が豊かで島の半分近くが樹木に覆われています。豊かな自然はとても素晴らしい魅力ですが、少しだけ困ることもあり、植物が成長する時期になると、普段、私たちが使っている道路にまでむくむくもじゃもじゃと植物が迫り、道を塞いで生活に支障をきたすのです。

そのため、黒島では梅雨明けと秋口の年2回「路(みち)掃除」という草刈りが町内毎に行われます。各町内に住む人々が、それぞれの持ち場で朝から昼にかけて草刈りを行う行事で、私も自分の町内の掃除に参加しました。

朝早くから始めると聞き、集合時間を確認すると「8時半頃でいいよ」と言われたので、5分前の8時25分に集合すると、なんと! ほとんどの参加者が集合しており、すでに作業が始まっていたのです。

聞くと8時に来て作業をしていたとのこと(集合時間の30分前!)。

子どもの頃によく言われていた「5分前行動」でさえ、黒島では通用しないのだなと思った瞬間でした。

「テーラー」の速度

黒島では、島内での交通手段は自家用車がほとんどです。

というのも、電車やバスなどの公共交通がなく、起伏のある道も多いので車がないと生活が成り立ちにくいのです。

細い道が多いので、小回りのきく軽自動車や軽トラがほとんどです。ですが、もう一つ都会ではあまり見たことのない車両が島の人の交通手段として使われています。

その名も「テーラー」。

通なリトケイ読者のなかにはご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、テーラーとは農作業に使う耕運機に似た農業用車両です。

耕運機は主に畑を耕すために使用されますが、テーラーは主に農作物を運ぶのに使用されます。

見た目は耕運機の後ろに荷台が付いたようなもの。定員は運転手1名と、後ろの荷台に乗せた荷物が落ちないように「荷物押さえ係」として乗車していい1名という、少人数限定の乗りものですが、黒島ではメジャーな移動手段として用いられているのです。

時速おおよそ15~20キロメートル程度。ガタゴトガタゴト走るテーラーの速度は、ものすごくのんびりしています。

……と、ここで読者の皆さんは、ここまでお話してきた速度(時間)感覚との矛盾が出てきたことにお気づきかと思います。

自動車の運転と集合時間については、黒島の人たちは明らかにせっかちで時間の感覚が早い。

しかしその一方で、原付自転車の制限速度(約30キロメートル)よりもゆっくりしたスピードしか出ないテーラーを使って生活されている方もいるのです。

人口400人ちょっとの小さな島で、それだけ時間感覚が違うのはなかなか面白いです。

不思議な時間感覚と独自のルール

黒島では車と同じようにテーラーも移動手段に用いられていることを知った時、不思議に思ったことがありました。黒島には前述の通り、車一台がやっと通れるような細い道が多いからです。そんな道で車とテーラーが出会ってしまったら、もめることはないのか?

その答えはほぼ「ない」でした。

実は、黒島には「テーラー優先」という島独特の暗黙ルールがあるため、もめることがないようなのです。

車を運転する人は、前にテーラーが走っていたら常にテーラー優先。たとえ追い抜きができそうな道幅であっても、どんなに急いでいても、テーラーの速度にあわせ運転しているのです(!)。

ちなみに、急いでいる人はなるべくテーラーに遭遇しないで済む道を選んで走るようにしているとのこと。時間感覚や暗黙のルールは、小さな島でおだやかに暮らしていくための知恵かもしれません。


プロフィール/初田育子 京都府出身。今年の4月に地域おこし協力隊として黒島に着任。黒島観光協会(ウェルカムハウス)を主な拠点とし、黒島の集落の魅力をFacebookなどのSNSを使い島外に発信。島外の人たちが「また来たい」と思ってもらえるようすることを目標に島の人々に支えてもらいながら島暮らしを満喫中。

特集記事 目次

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2018年、ユネスコの世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に登録された長崎県は佐世保市の離島・黒島(くろしま)。「させぼ黒島の秘密」では黒島に暮らす3人の女性が、“島の住民だからこそ知っている島の魅力”を、様々な角度からご紹介します。

【おすすめリンク】
・"花群れる"祈りの島 黒島(佐世保・小値賀「海風の国」観光情報サイト)
・黒島へ旅する(黒島観光協会HP)

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