つくろう、島の未来

2024年04月20日 土曜日

つくろう、島の未来

島に限らず、地域づくりの現場では「地域づくりは人づくり」という言葉が語られ、人材育成に力を入れる地域も多い。教育を軸に島づくりを行う島々のなか、瀬戸内海の離島、周防大島町と大崎上島町では、島の子どもたちに対して「実践的な学びを通して子どもたちが自らの将来を見据えることを目的にしたキャリア(=経験)教育」を、学校・地域・私塾の連携により提供。民間の立場から教育島づくりを推進する2人のキーマンを紹介したい。
※この記事は、『季刊ritokei』23号(2018年2月下旬発行)「注目の島づくり特集」連動記事です。

(記事前編はこちら)

「離島振興法の父」と呼ばれる民俗学者の宮本常一が生まれ育った山口県の周防大島(屋代島|やしろじま)では、島出身の大野圭司さんが「起業家教育」を推進。小中学校で年間130時間以上の「総合的な学習」を担当し、自ら開発した教材を用いて「自分の仕事をつくる」授業を行っている。

一方、瀬戸内海の中心に位置する広島県の大崎上島(おおさきかみじま)でも、島出身の取釜宏行さんが地域連携型のキャリア教育を提供している。

2011年、島にUターンした取釜さんは島の教育の現状について調べた、「将来、島に戻ってきてほしい」という親世代の回答がわずか2割だったことに衝撃を受けた。

「親がそういう気持ちだと、子どもについ『帰ってこんでいい』『継がんでいい』と言ってしまいますが、そう言われると本当に帰ってこない。それではまずいと感じました」(取釜さん)。

その後、島で中学生向けの私塾をはじめた取釜さんは、2014年に「島を担う」力を育てるキャリア教育プログラム「島キャリ」を開発。以来、受験に必要な基礎学習に加え、「島を担う力」を身につける地域連携型の実践学習を塾生に提供している。

「島キャリ」は島体験活動や外部講師による授業など、6つのプログラムで構成。子どもたちは「どこに座ってもみんなの顔が見える」という島型のデスクを囲み、島の地名を呼び合いながら学びを進めていく。

私塾でキャリア教育を展開することについて、取釜さんは「基礎学習とキャリア教育をともに学ぶことは自転車の両輪のような関係」と語る。自分が進むべき方向を決めるキャリア教育が前輪であれば、基礎学習力が進みたい方向へと進む力を生みだす後輪となるわけだ。

取釜さんは「高校魅力化プロジェクト(※)」を進める県立大崎海星高校でもコーディネーターも担当している。

※2016年に統廃合の危機に立たされた大崎海星高校では、取釜さんをはじめ島内外の専門家を学校現場に招聘し、高校の魅力化を図る「高校の魅力化プロジェクト」を実施。無料公営塾や「大崎上島学」「夢⭐︎ラボ」など魅力的なプログラムを展開し、存続可能な定員数の確保に至っている。

同校で実施されている「大崎上島学」では、造船や海運業、農業により栄えてきた大崎上島に残る技術や伝統を「島の匠」から学べるよう、高校生らが島で活躍する大人に取材を行い小冊子『島の仕事図鑑』を制作。

その過程で、「島で輝いているかっこいい大人の背中を見せたい」と取釜さん。足元に広がる島にある「島を担う」ヒントを子どもたちへ伝えている。

文部科学省が推進する「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)(※) 」が努力義務化に向かう今、学校と地域が連携する機会は増えつつある。

※学校が地域住民等と目標やビジョンを共有し、地域と一体となって子どもたちを育む「地域とともにある学校づくり」を進める法律(地教行法第47条の6)に基づいた協議会制度

学校が得意とする基礎学習に対して、「島を担う」人材を育てるキャリア教育は、長くても5年で異動してしまう教員だけでは難しい。

近い未来、誰が島を担うのか。教育の結果が見えるには多少の時間を要するが、自ら島を愛し、島の子どもたちへの教育に情熱を注ぐキーマンが存在する島の未来は明るく輝いて見える。


プロフィール/
大野圭司(おおの・けいじ)
株式会社ジブンノオト代表取締役、キャリア教育デザイナー。周防大島出身、15歳で島おこしを志し、26歳で東京からUターン。100年続くふるさとをつくるために2013年に教育ベンチャーを起業。

取釜弘行(とりかま・ひろゆき)
株式会社しまのみらい代表取締役。大崎上島出身。2011年にUターンし、中学生向けの私塾で「島キャリ」を展開。大崎海星高校魅力化推進コーディネーター、大崎上島町総合戦略会議委員等も担当。

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