つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

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2012年1月27日、人口約29,000人の長崎県の壱岐島(いきのしま)に劇団四季がやって来た。
劇団四季『こころの劇場』プロジェクトは、劇団四季が日本各地を巡り、
現地の子どもたちをミュージカルに招待するものだ。

劇団四季『こころの劇場』、壱岐島へ

北は利尻島から南は石垣島まで、本土や島、地方や都市部を限らないことから、
離島へも積極的に出向いている。
今回の壱岐島公演は、2年前の秋、
長崎のとある寿司屋で偶然隣り合わせた客同士の会話から始まった。

「校長先生、もし壱岐に劇団四季が行ったら子どもたちは喜びますかね?」
「島の子どもたちに生の劇団四季を観せることができたら
そんな素晴らしいことはありません」

3年前に商社マンを辞めた私は、北海道で小型風力発電事業を手伝ったり、
九州のある街でカフェをやってみたりと、北から南へと飛び回り、
地方絡みの活動をしている。
たまたま長崎県の五島列島のひとつ、
新上五島町の移住体験ツアーに参加したことがきっかけで
すっかり離島ファンになり、少しでも島に関わりたいと考えるようになった。

劇団四季に所属する友人に相談したところ、
昨年3月に新上五島町に『こころの劇場』を誘致することができた。
淺田校長との出会いから動き出した壱岐公演。
私は現地をレポートするため、公演の2日前に、劇団四季スタッフと共に
博多港から壱岐島に向かうジェットフォイル(高速船)に乗り込んだ。
大道具の搬入やリハーサルのため、
スタッフは前々日25日の夕方に壱岐島に向かった。
15時35分定刻に博多港を出航したジェットフォイルは
午後から吹き始めた強い風に揺さぶられながらも
時速約80kmのスピードで玄界灘を渡り、
定刻の16時45分に壱岐島 郷ノ浦港に到着した。

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  • 揺れる船内では緊張と船酔いのためか寡黙になっていた四季スタッフではあったが、郷ノ浦港に掲げられた「ようこそ壱岐へ 劇団四季様」という横断幕を発見するや否や大きな歓声が船内に湧いた。

強風が吹く寒さ厳しい郷ノ浦港であったが、
島の方たちの温かい歓迎に四季スタッフも大いに喜び
早速記念撮影をし、互いに挨拶を交わし合っていた。
壱岐に到着後、26日には今回の演目『ユタと不思議な仲間たち』の
主役である菊池正氏・上川一哉氏・奥平光紀氏が
市庁舎に白川市長と須藤教育長を表敬訪問した。

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  • 和やかな雰囲気の中で白川市長は、「劇団四季の皆さん海を渡り、よく壱岐に来てくれました。壱岐の子どもたちにミュージカルを観せていただけることは大変嬉しいことです」と語り、俳優たちも「初めてミュージカルを観る壱岐の子どもたちに感動を届けたい」と抱負を語っていた。

同じ頃、俳優の柏谷巴絵氏、齋藤舞氏、厂原時也氏は
壱岐市芦辺町の市立瀬戸小学校を訪問し、
「美しい日本語の話し方教室」を開催していた。
この「話し方教室」は、俳優が美しい日本語を話す方法を
対話形式で子どもたち(約30名)に説明し指導するものである。

実際の流れとしては、
日本語における母音の重要性を判りやすく説明し、
最後に演目の主題歌にもある『友だちはいいもんだ』の歌を
教わったばかりの発声方法で合唱し、日本語の美しさを体験する。
瀬戸小学校の4~6年生の子どもたちは、
俳優たちが教室に入って来るや、大歓声と拍手で迎えた。
最初は少し緊張気味だった子どもたちも徐々に打ち解け
俳優たちと一緒に大きな声で楽しそうに発声練習を始めていた。
そして、発声のコツをつかんだ後、
みんなで輪になって『友だちはいいもんだ』を合唱した。

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  • とても素直で真っ直ぐな反応を示してくれる子どもたちに、俳優たちも「授業が進めやすく、教え甲斐があった」と嬉しそうに振り返っていた。
    公演前、今回の公演委員長(座長)である俳優の吉谷昭雄氏に話を聞いた。

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  • 吉谷氏は一年のほぼ半分は全国公演のため各地を巡っている。演ずるという意味では都市であろうと地方であろうと同じ気持ちで舞台に立つそうだが、離島公演は船に乗って島に渡るという高揚感もあり、かつ島民の方々の「島に来てくれたんだ」という気持ちが伝わってくるのでいつも以上にワクワクするという。

「ミュージカルを観たことがない島の子どもたちが
 生のステージを観て感動してくれれば」
と、俳優たちの願いを代表して語ってくれた。

特に今回の演目では台詞が全て東北弁なので
壱岐の子どもたちが異文化をどう理解し、
どう感じてくれるのかが大変楽しみなのだそうである。

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  • 瀬戸小学校の淺田校長先生にも話を聞いた。
    壱岐島に校長として赴任して3年、離島の教育格差をなくそうと努力してきたが、そもそも壱岐島は教育熱心な島であり、本土と大きな違いはないと感じているとのこと。

ただ、壱岐はスポーツ面での活動は大変盛んだが
芸術文化に接する機会が少なかったので
今回劇団四季が島に来てくれたことをとても喜んでくれた。
島の子どもは純朴で素直で優しい子が多い。
そんな子どもたちが、島ではなかなか観ることができない
ミュージカルを生で観ることによって、きっと彼らの人生において
忘れられない有意義な機会になるはず、と語っていた。

そして迎えた、公演当日。

公演当日、『こころの劇場』壱岐公演には、
壱岐島内の全小学校から922名の小学4~6年生が招待され、
子どもたちはそれぞれの小学校からバスで壱岐文化ホールに来てくれた。

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  • 壱岐島は東西約15km、南北約17kmの小さな島である。
    一番遠い小学校でもバスで約30分の距離だが、中には壱岐島の属島の小学校から船で渡って来てくれた子どもたちもいた。

ほとんどの子どもにとって、初めて観る生のミュージカルである。
劇団四季という名前すら知らない子どもたちも
親から劇団四季のことを聞いたと目を輝かせていた。
ある子は早引きして長崎に行く予定だったが
「お母さんが劇団四季は観なくちゃって、船をキャンセルした」
と言っていた。
ホールに行儀よく座った子どもたち、これから始まるステージを前に
ワクワクドキドキの時間が過ぎていった。
ミュージカルが始まると、四季独特の特殊な舞台装置や鮮やかな照明に
驚くやら感激するやら皆ステージに惹き付けられ真剣に俳優たちを見つめていた。
途中、共に歌を口ずさんだり、大きな拍手をしたりと、
子どもたちは自然にミュージカルに溶け込んでいった。

そして、いよいよラスト、
俳優たちと子どもたちがみんなで合唱するフィナーレでは、
誰もが大きな声で主題歌『友だちはいいもんだ』を歌っていた。
そもそもこの演目は、仲間からいじめられる転校生 勇太(ユタ)が
座敷わらしたちに助けられ、
生命の尊さと友情の大切さを教えられるストーリーだが、
“生きているってすばらしい、友達を大切にしよう”というメッセージが
伝わったのか、たくさんの子どもたちがそして先生たちまでもが
歌いながら涙を流していた。

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  • 終演後の玄関ホールでの、
    俳優たちのお見送り。
    「楽しかったよ」
    「感動しました」
    「ダンスすごかった」
    子どもたちは舞台衣装のままの俳優と握手を交わしながら、キラキラした笑顔で歓声を上げていた。

俳優たちにとっても初めて訪れた壱岐島での公演、
旅慣れた俳優たちではあるが、いつになく緊張した面持ちであった。
いざ本番が始まると、真剣にステージを見つめてくれる
子どもたちの様子に、俳優たちも演じやすい雰囲気、
やりがいのある空気を感じたようである。
ラストの合唱のシーンでは、涙を流す子どもを見て俳優たちも感動していた。
そして島の子どもたちを見送りながら、素直に喜びを表現する
島の子ならではの純粋さや純朴さを感じた。

壱岐島公演を終えて

子どもたちの笑顔と大合唱に支えられ、
『ユタと不思議な仲間たち』公演は大盛況のうちに終了した。
劇団四季『こころの劇場』プロジェクトは、
北は利尻島から南は石垣島まで日本各地を巡り
子どもたちをミュージカルに招待している。

無論、都市部での公演もあるが、普段ミュージカルとは縁遠い
離島へも積極的に出向き公演を行っている。
劇団四季は日本全国津々浦々に感動を届けることが彼らの務めだと考えている。
だからこそ、日頃なかなか接することができない
島の子どもたちと生のステージで直接向き合い
感動を共有し共感し合えることに価値と喜びを感じているのである。
『こころの劇場』プロジェクトの島巡りはこれからも続いていく。

瀬戸小学校の子どもたちの感想文より

<ミュージカルについて>
「こんなにすごいミュージカルをみせてくださって
 ありがとうございます。
 またもう一度みてみたいなぁと思いました。」(6年男子)

「今日のミュージカルは今迄観たことのないすごさだったので
 びっくりしました。ユタにも大事な仲間ができたので
 よかったなと思いました。」(6年男子)

「この物語でぼくは命と生きることの大切さを教えてもらいました。
 本当にありがとうございました。」(6年男子)

「生きることはすばらしいということがぼくたちに伝わってきました。
 なのでこれからは、くじけずに何事にも挑戦して
 乗り越えていきたいです。」(6年男子)

「生きていることはこんなにすばらしいんだなぁと思いました。
 わたしが今生きていることに感謝しようと思います。
 なので劇団四季のみなさんもお仕事をがんばってください。」
(6年女子)

「私たちに、助け合う大切さや生きることの大切さを
 劇で伝えて下さってありがとうございました。」(6年女子)

「“友だちはいいもんだ”の歌詞がすごく気に入ったし、
 みんなでうたったのがとても心に残りました。
 みなさんの演技を見て、私もがんばろうという気持ちになりました。」
(6年女子)

「神様からもらった命だから、
 大事にしなくてはいけないという事を感じました。」(5年男子)

「声やパフォーマンスがすごくて、よく見ると汗をいっぱいかいていて
 すごかったです。これからも世界に向かってがんばってください。」
(5年男子)

「みなさんの演技がうますぎて釘付けになって、
 周りの音も聞こえず、お話の世界に吸いこまれました。
 時間が経つのが早いなぁと思いました。」(5年女子)

「最後にあく手ができたのですごくうれしかった。」(5年男子)

「ユタが最初は友達があまり出来なくて、いつもやられていたけど、
 座しきわらしと力を合わせて、友達を作って、
 ユタが強くなる所が感動しました。」(5年男子)

「ユタとクラスのみんなが仲良くなる時がとっても感動しました。
 劇団四季のみなさんはこんなに長いセリフを覚えていたので
 すごいなぁと思いました。」(5年男子)

「このように劇を見たりできることはめったにないことなので、
 この体けんは心にきざんでおきます。
 これらかもはいゆうをつづけて、
 みんなにかんどうと生きる意味などおしえていってください。」
(4年男子)

「ぼくのゆめはサッカー選手だけど
 劇団四季の仕事もいいなと思いました。
 ユタさんのジャンプが高かったのですごいと思いました。
 これからもゆめを届けてください。」(4年男子)

「ぼくはこの公演で生きていることのうれしさや
 仲間の大切さがわかりました。
 そして、はいゆうさんの声の大きさがすごく、
 ぼくもあんな大きな声を出せたらな、と思いました。」(4年男子)

「ミュージカルを見て友達を大切にしようと思いました。
 生きていると友達との別れもあると思います。
 だけどはなれていてもずっと友達なんだと強く思いました。」
(4年女子)

「わたしのゆめはようち園の先生だったけど、
 はいゆうというゆめもいいなあと思ったし、
 みんなは一人のために一人はみんなのためにというのも
 この公演であらためてわかりました。」(4年女子)

「“友だちはいいもんだ”と言う歌詞にも書いてあるとおり、
 みんなは一人のために、一人はみんなのために
 していきたいと思います。これからも劇団四季のみなさんで
 全国の人に友達のよさを伝え続けてください。」(4年女子)

<美しい日本語の話し方教室>

「教室に参加することができて本当によかったです。
 とても勉強になりました。
 これを卒業式に生かしていきたいです。」(6年男子)

「ぼくは前までは母音や子音にきをつけて言っていませんでした。
 でも美しい日本語の話し方教室に参加すると、
 母音や子音をきをつけて言えるようになりました。」(6年男子)

「おかげで美しい日本語の話し方がよく分かりました。
 母音に子音をつけないだけで“おはよう”が“おあおう”になるのが
 ふしぎだなぁと思いました。」(6年男子)

「すごくためになることばっかりで今日はいいことを
 教えてくれたなあと思いました。
 本当にありがとうございました。」(6年男子)

「はいゆうのみなさんの声は、はっきりしていて響きがすごいなっ
 と思いました。私達の卒業式の時に、
 習ったことを意識しながらしたいと思います。」(6年女子)

「日本語をハッキリと話すための方法がよく分かりました。
 母音をハッキリ話すことが大切だということが分かりました。
 習ったことを生かしていきたいです。」(6年女子)

「授業はとても分かりやすかったです。母音と子音を入れ替えるだけで
 あんなに変わるなんて思いませんでした。」(5年男子)

「母音や日本語のしくみもすごく理解でき
 とても楽しくいい勉強になりました。」(5年男子)

「言葉は、あ行でなりたっていた事がわかりました。」(5年男子)

「全校の前に立つと、どうしてもボソボソ言ってしまっていました。
 でも、もう全校の前に立って発表してもハッキリ、
 ゆっくり大きな声で言えると思います。」(5年女子)

「いろんな言葉を母音でいうと
 言葉が言いやすくなるのがおどろきました。」(4年女子)

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