つくろう、島の未来

2024年03月29日 金曜日

つくろう、島の未来

この春、沖縄本島北部、本部半島の北西9キロメートルに浮かぶ伊江島(いえじま|沖縄県国頭郡伊江村)に自生するユリの花から分離・培養した酵母を使った泡盛「伊江の華」が誕生した。那覇市の泡盛蔵が、東京農業大短期大学部の中田久保名誉教授の指導を受けながら2年かけて開発。泡盛蔵のなかった伊江島の新たな特産品として販売されている。

沖縄県北部の伊江島では、約23平方キロメートルの島に約4,600人が暮らす。
島内では、水はけの良い土壌を活かして生産される紅芋や、島らっきょう、落花生、黒毛和牛の素牛(※)などの産地として知られている。

※素牛(もとうし)……肥育牛として使用される前の、生後6カ月〜1年の子牛

伊江村の村花はテッポウユリで、島内の「リリーフィールド公園」では毎年4月下旬に「伊江島ゆり祭り」が催され、青い水平線を背景に100万輪のテッポウユリが咲き誇る。

€

写真提供:伊江島村商工観光課

島内にはサトウキビのバイオマスエタノール試験プラントを再生した「伊江島蒸留所」があり、地元産のサトウキビの絞り汁を原料にラム酒が製造されているが、泡盛蔵はなかった。

沖縄本島・那覇の瑞穂酒造は、先代が沖縄角力(すもう)協会の会長をしていた縁で角力の盛んな伊江島に泡盛を卸し、20年ほど前に「伊江島」の名を冠した泡盛も一時販売していた。2010年、伊江島の酒販店から「伊江島」復刻の要望を受けて復刻版「伊江島」を販売し、島との縁が再び結ばれたという。

瑞穂酒造には、花酵母を専門に研究する東京農業短期大学部 醸造学科 酒類学研究室の中田久保(ひさやす)名誉教授の門下生がスタッフとして在籍していた。そのスタッフを中心に、瑞穂酒造は島のテッポウユリから採取した花酵母の泡盛造りに挑戦。2014年に開催された「伊江島ゆり祭り」の花から泡盛に適した酵母の分離・培養に成功した。

瑞穂酒造代表取締役の玉那覇(たまなは)美佐子さんは、「専門家によると、自然界に存在する数多い微生物の中から泡盛製造に適した発酵力を持つ菌を分離するのは大変難しく、奇跡に近いことだと言います。伊江島のユリ酵母を大切に培養し、今後も製造を続けていきたいと思います」と語る。

IMG_7431

「伊江の華」20度 720ml

伊江島のユリ酵母を仕込みに用いて完成した泡盛「伊江の華」(20度 720ミリリットル)は約5,000本製造され、今年4月22日に催された「第22回伊江島ゆり祭り」でお披露目された。

ゆり祭りの会場で販売に当たった伊江島物産センターの担当者は「ゆり祭りの会場と伊江港売店で販売しました。事前に地元新聞で紹介されて話題になっていたので、島内の方々も興味津々の様子でした。中には『伊江の華』を目当てに来場したという方もいて、大変にぎわっていました」と語る。島の風景やユリの花を思わせる爽やかでフルーティーな味わいの泡盛は、来場者の好評を博したという。

「伊江の華」は、伊江港ターミナルの伊江島物産センターや、製造を担う那覇市の瑞穂酒造本社で販売されている。

製造元の瑞穂酒造では、伊平屋島(いへやじま|沖縄県島尻郡伊平屋村)で生産される米を使った泡盛も製造。玉那覇さんは、「地域の特徴ある素材を使った泡盛を造ることで、地域活性化につながればうれしい」と話す。


【関連サイト】

瑞穂酒造株式会社

関連する記事

ritokei特集