つくろう、島の未来

2024年03月19日 火曜日

つくろう、島の未来

  • 島唄528+2=前カバー・帯=cs5
  • 『唄者 武下和平のシマ唄語り』

    著者/武下和平 聞き手/清眞人
    録りおろしCD
    唄・三味線/武下和平 囃子/武下かおり
    (海風社/2,000円+税)

    武下和平による誌上シマ唄入門教室、さまざまなシーンで歌われる祝い唄や教訓歌の現代語訳と歴史的解釈などの考察、エピソードに満ちた回想録の3部構成。書中に登場するシマ唄5曲を収録した取りおろしCD付き

こうこうと光る月灯りのもと、浜辺から風に乗って届く波の音と、草かげにひそむ虫やカエルたちの大合唱が重なりあう、にぎやかな島の夜。人里離れた畑のそばに佇む一軒の掘っ立て小屋からは、三味線の音色も響いてくる。

しばらく続いた三味線の音が止んだかと思うと、小屋から釣竿をかついだ男が現れ、夜釣りをするのか浜の方へと歩いていった。男が出て行った小屋の片隅には、きちんと調律された三味線が置かれ、それを見つめる子どもがひとり。まだ幼かった彼の息子は、寝床を抜け出して三味線を手に取り、父親の姿を思い出しながら、見よう見まねに爪弾き始める。開け放たれた夜に、ポツリ、ポツリと拙い三味線の音がこぼれ、小さな生き物たちが奏でる生命の合唱に、一緒に遊ぼうと歌いかける……。

奄美の民謡界で「百年に一人」と称される、奄美シマ唄の唄者・武下和平さんが語る、幼き日の回想録を読むと、そんな原風景が脳裏に浮かんでくる。

昭和8(1933)年、奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)南部の加計呂麻島(かけろまじま|鹿児島県)に生まれた武下さんは、幼き日々を小作農家の父が畑に建てた掘っ立て小屋で過ごしていた。雑木を骨組みに、サトウキビの搾りかすを編んだ小屋の壁からは、月がよく見えた。そこで夜な夜な奏でられる父の三味線とシマ唄を聞き、育った武下さんはその後、シマ唄の名手となった。

『唄者 武下和平のシマ唄語り』は、1974年に「奄美民謡武下流」を立ち上げ、シマ唄の継承に力を注いできた武下さんの、初となる著書。初心者にも分かりやすくシマ唄を紹介する「誌上シマ唄入門教室」に始まる第1部から、奄美大島で歌い継がれる、祝い唄や教訓唄などの歌詞に触れながら、奄美の文化や歴史を学べる第2部、武下さん自身の回想録を通じて、戦後から今に至る島と唄の歴史を振り返る第3部へと続く。

本作には、「行きゅんにゃかな節」「ヨイスラ節」など、書中に登場する5曲を収録した録りおろしのCDが付属。本を読み、シマ唄への興味が高まったところで、歌詞を見ながら歌い、解説を読みながらさらに理解を深めることができる本作は、「奄美のシマ唄を身近に感じ、その心に触れ、次の世代に受け継いでほしい」という、唄者の創意と意気込みが随所に込められている。

かつて、読み書きを知らなかった島の人々は、「唄半学」といって学問を兼ねた唄を唄いながら、コミュニケーションの機微や人生の教訓を学んだ。島の暮らしの中から生まれたシマ唄からは、先人たちの喜怒哀楽や、さまざまなメッセージを受け取るができる。さて、そんなシマ唄をあなたも学んでみませんか?

(文・石原みどり)

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