つくろう、島の未来

2024年03月19日 火曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は「人には1年に1度、必ず訪れたくなる島がある」をキャッチフレーズに、「島旅」を専門に扱う旅行会社を立ち上げた旅の輪九州株式会社の代表・戸田慎一さんにお話を伺いました。

※この記事は『ritokei』20号(2017年2月発行号)掲載記事になります。

文・鯨本あつこ 写真・旅の輪九州

19,800円の壱岐ツアーで述べ6万人が島旅へ

2月1日、ヤフオクドームに近い福岡市内の商店街に、島旅専門のトラベルカフェがオープンした。運営する旅の輪九州株式会社は、昨年12月に設立されたばかりの新会社だ。

九州男児といえば豪快な熱血漢を思い浮かべるものだが、旅の輪九州の戸田慎一さんの人柄は、まさにその人。「大学の頃、島に出会った衝撃で人生が変わったんです」と語りはじめた戸田さんは、島への想いに目を輝かせる。

今から25年前、戸田さんが魅せられた島は、長崎県の壱岐(いき)だった。福岡港から高速船で約1時間の壱岐は、エメラルドブルーの海や、海の幸・山の幸に恵まれる島。島に渡った戸田さんは、民宿で出会った愛情たっぷりの女将のおもてなしに驚き、鮮度抜群のグルメに、美しい海に、星空に、感動を覚えた。「島旅の素晴らしさを世の中に広めなければいけない! と一瞬で思ったんです」。

福岡県の田舎町で育った戸田さんの家庭環境は、決けして温かいとはいえなかった。そんな環境をバネに小学生時代から経営者になることを志ざし、大学時代にバスツアーの添乗員を経験したことをきっかけに、バイト先の上司と共に、20代で旅行会社を立ち上げた。

会社を立ち上げた戸田さんは、早速、島への想いを形にする。「学生向けに19,800円の壱岐ツアーを発売したんです。最初は年間16人だったのが、今では年間3,000人。24年間売れ続けているベストセラー商品になっています」。福岡発着、1泊2日19,800円とならば格安だが、この代金には、フェリー代、宿代、レンタカー代のほか、夕食の舟盛りや壱岐牛のバーベキューまで付くという。

「19,800円っていい響きですよね」と戸田さん。曰く、学生が島旅に出やすい金額は、現地でのお小遣いをいれて25,000円なので、19,800円にこだわっているという。実際、このツアーをきっかけに、述べ6万人の若者が、かつての戸田さんのように島の魅力に触れているわけだ。その後、戸田さんがつくる島旅は、対馬、五島列島、甑島列島へと守備範囲を広げて行った。

島の悩みに触れるなか「人と人をつなぐ」ことを決意

島外の旅行会社が旅行商品をつくる際に重要なのは、現地との“関係性”である。戸田さんは、たった1時間の打ち合わせでも直接島へ足を運び、宿、飲食店、観光協会から自治体関係者まで、信頼関係を構築してきた。

「島には素晴らしい素材があるんです。でも、その良さに島の人が気づいていないことが多い」。島との関係が深まるなか、戸田さんは島側が抱える課題にも触れはじめた。「地域には活躍している人がいて、パワーがある。でも、頑張っているのに叩かれてしまう人や、個人だと戦えない人がいて、それぞれが悩んでいたんです」。

人には1年に1度必ず訪れたくなる島がある

そこで戸田さんは、各島に「点」で存在しているキーマンをつなぎ、島旅を盛り上げていこうと、のちに社名となる「旅の輪・九州」というプロジェクトを立ち上げ、ライブストリーミング配信による旅の紹介や、写真コンテストなどを通して、人と人をつなぎはじめた。

それから5年、旅の輪九州は法人化し、より多くの人が島旅に出会えるよう、誰でも気軽に旅の相談ができるトラベルカフェが開業した。

現在、旅の輪九州に在籍するスタッフには、島に暮らす現地人材も含まれる。鹿児島の上甑島(かみこしきじま|薩摩川内市)で現地スタッフを務める斎藤純子さんは、地元の観光業を盛り上げるべく、6年前に戸田さんを訪ねた。当時を思い出しながら戸田さんが笑う。「『弟子入りさせてください!』って言ってきたので、『弟子はとっとらん!』って、最初は断ったんですが(笑)」。

その後、斎藤さんは年間1,000人の観光客を受け入れるまでに成長。 現地の仕事を、旅のプロとして、ひとりの経営者として、影で支える戸田さんは、島側にとって頼れるアニキのような存在にもみえる。「人には1年に1度、必ず訪れたくなる島があると思うんです。いまの日本にとって、島で過ごす時間は大事。僕自身、育った環境が悪かったので卑屈になるタイプですが、定期的に島でリフレッシュしながら、よし、頑張ろう!と思っています」。

旅の輪九州は九州が起点だが、戸田さんが描く未来には「旅の輪日本」が広がっている。「大手旅行社の場合、年間1,000人が動かなければ旅行商品にできないです。でも、うちでは1人からでも島旅をつくりたい」。その情熱から生まれる新たな島旅が、1年に1度、必ず島を訪れるファンを増やしていく。


【関連サイト】

旅の輪九州

旅の輪九州株式会社 トラベルカフェ
福岡県福岡市早良区西新7-1-57
10:00〜18:00(土日祝休み)

離島経済新聞 目次

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