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インタビュー

【島Interview|訊く】榊英雄さん「右往左往しながら生きていく」

俳優や映画監督として活動する榊英雄さんは、五島列島・福江島で生まれ育った。
人生の転機となった監督作品「捨てがたき人々」の撮影を通じ、舞台に選んだふるさと、五島列島の姿を捉え直したという。
榊さんに映画づくりや島々へ向ける想いを聞いた。

※この記事は『季刊ritokei』16号(2016年2月発行号)掲載記事になります。

聞き手・石原みどり 写真・大久保昌宏

−五島のご出身だそうですね。

生まれは五島列島の福江島です。大学進学で島を離れ、その後上京し、やりたいことができるまで10年ちょっとかかった。その間、五島へは帰っていないんですよ。憎らしくもあり、愛すべき島だけど、どっか距離を置いていました。ある程度自分の中で、独立独歩でできてないっていう思いがある限り、帰らない。中途半端で帰るのは恥ずかしくて嫌だった。

2006年、36歳の時に結婚して、福江島の教会で式を挙げたんです。それが島に帰るようになるきっかけでした。そこからですね、「五島列島、福江島に居たんだなあ」みたいなことって。娘たちも島が大好きで、毎年家族でひと月くらい帰っています。

−俳優をされながら映画監督としても精力的に活動されていますが、映画を撮り始めたきっかけは。

俳優の仕事がなくて、暇でしょうがなくて腐っていた時に、女優の片岡礼子さんに「女々しい……。そんな時に脚本書いて自分で撮れば、自分で主役できるじゃないの。それぐらい動いてやんなよ、あんた」って言われて、すごく悔しくて。五島でいうと「おなごに言われよる、悔しい」と。

それで自主映画を撮り、映画祭に出したものの優勝できず6位で落胆していたら、同じ映画祭でグランプリを獲った北村龍平氏から出演の誘いがきた。「いや、もう僕自信ないです。田舎帰ります」って断ったら「僕は榊君のデビュー作観てるよ。僕なら、あなたをもっと良く撮れる。やってみてダメなら帰ればいいじゃん。一度試してみない?協力してよ」と言われて。それならと思って、彼の映画に俳優として参加したんですよ。

そしたらその作品が海外の映画祭でドカンドカンうけて。日本でも公開が決まり、業界関係者からも認知され、俳優として食えるようになったんです。監督としても、2006年頃から長編のデビュー作を撮ることができ、お陰様で、映画を撮ることもできつつ俳優業もできています。

五島に帰る余裕もでき、結婚して子どもができて、親のありがたみを知った。そこで当然のことながら、故郷があって己がいることを分かってくるわけです。こんなに海と山と風のあるところで育ってきたんだなって。そう思った時に、強烈に「ここで映画を撮りたい」と思った。

−それが『捨てがたき人々』。

『捨てがたき人々』は、爽やかな青春映画みたいなものじゃない。原作はジョージ秋山さんの漫画で、人間の深い業とか汚わしいものをあぶり出す作品なんです。漁師町なのか、海の近い街が舞台で、第1巻を読んだ時に「あっ、これを五島で撮ろう」と思った。

−自分の、島で撮ろうと。

周りは「何でわざわざこんな話を五島で撮るの?」と言ったけど「五島列島ばい。これこそ島じゃ」と。僕がちっちゃい頃から見ていたような、濃厚な人間関係と、見えないところの男と女のエログロ。旦那が死んで四十九日も済まないうちから間男を連れ込むオバちゃんたち。「人間、所詮男も女も変わらんっちゃねー」みたいな。「人間やっぱり飯を食って、糞してセックスしてんのが普通よ」っていうベースが、漫画に強烈に描かれてるんです。

−それは幼い頃から目にしてきた人々の姿でもあったと。

つまりそれは日本であり、世界でもあるわけで。たまたま離島という場だから濃厚に見えやすかっただけ。隔離された場所だから、良いところも悪いところも近くに見える。

青春映画も大事ですよ。しかし、もっと別な、何か人生を抉るものであってもいいわけです。それで、僕が自分でプロデューサーをして資金を集め、役者を口説いて撮影しました。「人間を見つめてみたい」そんな作品のときは五島で撮りたい。人間とはこういうものじゃないかな、というのを教えてくれるんです、島で撮ってると。

−撮ることで、故郷の島を見つめ直して……。

自分の生まれた島で撮ったことで、成長できた。「俳優風情が映画も撮ってる」なんてことは、それ以降言われなくなったし。映画監督としてのステップになって、腰が据わった瞬間だった。

それを与えてくれた大地、どん!と背中を押してくれたのは、かつて憎らしくもあった五島だったんです。映画を撮ったことで、島を肯定でき、好きになれました。

−島に対する気持ちにも、変化があったんですね。

同じ五島列島の赤島、黒島、黄島でもロケをしたんです。赤島は最盛期には500人くらいいたのが今や十数人。友だちのお父さんが出身者で、市役所を依願退職して島で暮らし始めたんです。その人が「最後は自分の生まれた島で死にたい」っていうのに、すごくグッときて。

赤島には古い無縁仏の墓地があるんです。誰もいない墓地に、勝手に鬼百合が咲き乱れていて。それを見て「おじちゃん、この場所撮っていい?」って聞いたら「よかよか。誰一人帰ってこんけん、ヒデ坊撮っていいよ。ここにあんたらの祖先がいるよ、っていうのを一人でも気づけるように撮ってあげて」って。自治会の会長をやっている方が「俺が文句言わせんけん、やって。その代わり、ちょっとでもこの島を残してくれんね」って言ってくれたんです。

−島の姿を、残して欲しいと。

だから僕は堂々とその墓を撮った。誰も戻ってこない島の姿を。

赤島は平均年齢65歳、数世帯だけで子どももいないので、先々はなくなる。黒島は、僕が映画を撮った頃は、漁師とその奥さん姉妹の3人がいたけど、今は80代の姉妹が2人。その方々がいなくなれば、そこも廃島です。黄島は、まだ百何十人いますけど、何年か前に小学校が廃校になった。そこからもう衰退が始まっているわけです。

その島々を、映画のためにロケハンで周ったんです。同じ五島出身のくせに、初めて周った。いやいや凄かったですよね、こうやってどんどん無くなっていって……。そうやって自然に帰っていくんだと。いろんなことを教えてくれるトコですね、五島は。人がいなければ、ただ自然に帰るだけだと。

ただ、そこで踏ん張っていく人間たちにはエールを送りたい。今なら、地域おこし協力隊とか。そのうちの何人かが自分で住もうと決意して、島で根付こうとしている。僕が10年前に結婚して帰省した頃よりは、若い人たちが目につくようになってきた。あとは、ここからどうやるか。市が、県が、国がどうやるかですね。

福江島で暮らしながら仕事がしたいという思いも芽生えてきました。ちょっと深呼吸がしたいなと思ったら「いつでも帰ってきんしゃい」みたいな感じかな、僕にとっては。恥ずかしがらずにね。

−自分から島に距離を置いていた時期もあったけれど、今はほっとできる場所になったんですね。

ほっとできると同時に、人が減って自然に戻りつつあることに寂しい思いもあります。だけど現役世代としては、精一杯やって次の世代にバトンタッチするのが唯一できることで、僕が映画をつくり芝居をすることで五島を知ってもらえるなら、一つの意味があるんじゃないかと。突き詰めると「お前頑張れよ」ということ。今頑張んないといけないなって。頑張れば、島にいられる時間が増えるだろうし、島でできることも増えてくるだろうし。

地元で試写をやったんですよ。200人くらい、いろんな世代が観にきてくれて。始めは「そんな裸が出てくるような映画」って言われるのかなって心配したけど全然。
「英雄くんの撮った映画、どんなのかなーって思ったら、良かったぁ。いろいろあるね、人生はね。頑張ろうと思う」とか、70くらいのおじさんが「良かったよ、ヒデくん。人間ちゅうのは愚かだけどかわいいよね」と。「英雄くんの映画を見て、ざわざわした。当分眠れんばい。酒が増えるばい。でも、死んだじいちゃんもばあちゃんも、そうやって生きてきたのかなと思うと、俺も迎えが来るまで精一杯やるしかないね、って覚悟を決めた」っていう人もいた。

−そうやってみんな生きてきた。

そう。右往左往しながら生きて、死にんしゃい、ってことだよね。



(お話を聞いた人)
榊英雄(さかき・ひでお)

1970年長崎県生まれ。俳優・映画監督。『VERSUS -ヴァーサス-』(映画・2001年)ほか、映画やドラマに多数出演。主な監督作品に『GROW -愚郎-』(2007年)『捨てがたき人々』(2014年)『木屋町DARUMA』(2015年)。2女の父。

© 2012ファミリーツリー

『トマトのしずく』
榊英雄監督作品『トマトのしずく』。美容院を経営する真とさくらは結婚式を挙げるにあたり、さくらの父・辰夫を式に呼ぶか呼ばないかで言い争いになる。さくらの胸中には、幼い頃、母を亡くした時の出来事がわだかまっていた。一方、辰夫は亡き妻が残した家庭菜園の前で、久しく会ってない娘に直接会いに行こうと決意する。「お蔵出し映画祭2015」グランプリ、観客賞受賞。出演:小西真奈美、吉沢悠、原日出子、石橋蓮司 2016年全国順次ロードショー

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『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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