つくろう、島の未来

2019年04月24日 水曜日

南西諸島を中心にいくつかの島々に残る風習「洗骨」(※)を描いた映画が公開中だ。監督・脚本は照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)監督。小さな島の民俗文化を描いた本作がどのように生まれたのか、照屋監督と主演の奥田瑛二さんに作品誕生の背景について伺いました。(インタビュー撮影・垂見健吾)

(※)風葬や土葬を経た遺骨を洗い清めて改葬する風習。東南アジアなど世界各地で見られ、日本の離島地域にも残る。

映画『洗骨』あらすじ

洗骨───。粟国島の西側に位置する「あの世」に風葬された死者は、肉がなくなり、骨だけになった頃に、縁深き者たちの手により骨をきれいに洗ってもらうことで、晴れて「この世」と別れを告げることになる。

沖縄の離島、粟国島・粟国村に住む新城家。長男の新城剛(筒井道隆)は、母・恵美子(筒井真理子)の“洗骨”のために、4 年ぶりに故郷・粟国島に戻ってきた。実家には、剛の父・信綱(奥田瑛二)がひとりで住んでいる。生活は荒れており、恵美子の死をきっかけにやめたはずのお酒も隠れて飲んでいる始末。そこへ、名古屋で美容師として活躍している長女・優子(水崎綾女)も帰って来るが、優子の様子に家族一同驚きを隠せない。

様々な人生の苦労とそれぞれの思いを抱え、家族が一つになるはずの“洗骨”の儀式まであと数日、果たして 彼らは家族の絆を取り戻せるのだろうか?

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

なんでこんなことを? から始まった。照屋監督インタビュー

ritokei

『洗骨』の舞台は粟国島ですが、粟国島で作品をつくられたきっかけは?

照屋

沖縄国際映画祭で上映するために、毎年沖縄の各市町村で短編映画を撮っているのですが、毎年3地域くらい候補があがってきて、その中から1地域を決めて撮影しています。それで3年前に粟国島が候補として挙がってきて。島で映画を撮ったことがなかったので、粟国島で撮りたいと思いました。

照屋

最初は不倫をしている島の男の家に、不倫相手の女が遊びに来てひと悶着起きるというドタバタコメディを書いていたんですけど、粟国島でロケハン(下見)しているときに、プロデューサーが「そういえば粟国島ってまだ洗骨文化が残っているよね」ってボソッと言ったことですべてが始まりました。

洗骨の話を聞けば聞くほど「なんだ?!洗骨って?」「この時代に本当に?」と思って調べていくうちに洗骨の風習の魅力に取り憑かれて、それまで書いていた脚本を捨て、ゼロから書き始めました。

ritokei

どういうところに取り憑かれたのでしょうか。

照屋

まずは怖いもの見たさです。 「え!?ミイラにするの?!」「人を?!」「燃やさないの?!」「骨を手で洗う?」「怖くないの?」と、興味本位ですよね。それから洗骨の経験がある島のおじいちゃん、おばあちゃんにインタビューをしました。そこで印象に残ったのは「洗骨っていうのは二度悲しみがある」ということでした。

まず、大切な人が亡くなったときの悲しみがある。普通はそこで終わるのに、何年か経って、また墓から棺桶を出して愛する人の代わり果てた姿に対面しなければいけないという二度目の悲しみがある。「なんでこんなことするんだろう?」って思ったんです。こんなに苦しくて、辛いことを……。

ritokei

確かに。

照屋

洗骨は島の男でも酒を飲まないとやってられないらしく、おばあたちは「男は弱いのよ」とか「そういうのは女が率先してやるのよ」と言うんです。

でも、話を聞いていくうちに、亡くなった人の骨を一本一本洗う行為は、亡くなった人とのしっかりした別れとか、その人への感謝の気持ちになっていて、その骨がおじいちゃんおばあちゃんやお父さんお母さんだったら、「この人がいたからいまの自分があるんだ」という、命をつないできてくれた感謝の気持ちとかを抱きながら行う儀式のように感じたんです。

これは物語になる。普遍的なテーマとして人間を描けると思いました。沖縄だけじゃなく、日本だけじゃなく、世界中の誰もが人から生まれて死んでいく。世界中の人が共感できるテーマなんです。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

ritokei

『洗骨』という言葉のイメージで、同じように「何だそれは?」と思う人は多いと思いますが、実際は「命のリレー」を描いた普遍的な物語でした。

「洗骨」の二文字をみるとおどろおどろしいけど、見た人には「こんなに笑いがある映画だとは思わなかった」「良い意味で裏切られた」と言っていただけました。

今の日本社会では生や死が生活の中から遠ざかっていて、鮮やかに体験できる機会はほとんどなくなっているように思います。粟国島のような場所には、いまや貴重な民俗文化が残っているとも言えますが、劇中である人がさらりと発言する「洗骨よりも大事なことが東京にはあるのか」というセリフは印象的でした。

照屋

良いところついていますねー! 一族よりも大事なものはあるのか? まずは家族だろう? ということを、両肩つかんで「洗骨よりも大事なことが東京にはあるのかーっ!!」と泣きながら言わせることもできるんですが、そうはしなかった。

照屋

うれしいですね。もっとください(笑)。

ritokei

劇中にはいわゆる「東京に住んでいて島のことは全く知らない一般の人」の立場で発言する役も出てきますが、その人が「島の中にあの世とこの世があるの?」と言われたセリフも良かったです。

照屋

「あの世」というなら、地面が湿っていて、薄暗くて、入るだけだ怖い……。そんな感じかなと思っていたのが、ごく普通の細道だったんです。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

照屋

でも「ここです」といわれたら何か感じる。そして本当に「あの世」といわれる向こう側には一切、人が住んでいない。「陽の昇るところに命あるものが住んで、日が沈む場所に死者が眠る」というセリフが本編にもある通り、島の東側にしか集落はなくて、西側に墓場があるんです。

ritokei

ひとつの島の中に「あの世」「この世」と呼ばれる場所があるなんて、都会の人には理解しがたいかもしれませんが、『洗骨』では笑いを交えながら表現されているので、独特の離島文化を重たすぎず、でも軽くもなく、すっと理解することができました。

照屋

お勉強になってしまうと面白くなくなってしまうので、印象付けたいところは笑いでさらっと入れるよう、かなり神経使いましたね。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

ritokei

『洗骨』で一番、描きたかったところはどんなことでしょうか。

照屋

一番ラストのシーンです。

ritokei

なるほど。確かに最後のシーンはみなさんに見ていただきたいですね(※詳細は映画にてお楽しみください)。照屋監督は「人間の面白さを描きたい」ともおっしゃっていますが、その点はいかがでしょう。

照屋

人間ってみんな何か「抱えているもの」があるじゃないですか。それぞれ完璧じゃなくて、不完全で、ダメな部分を隠しながら一生懸命生きていたり、弱さを補うために強がったり、見られたくないから人から逃げ回ったり。そういう人間らしい弱さや、弱いからこそ、みんなと手をつなぎながら生きていくのが大事だという事を、『洗骨』では描けたかなと思います。

ritokei

粟国島の印象はいかがでしたか?

照屋

短編の撮影で最初に訪れた時は、ロケハンで島に着いた初日から台風で天候が荒れ、帰りの船が出ないとなって。

ritokei

!!

照屋

次の船もでない、次の船も出ないとなって、結局4日間、閉じ込められたんです。僕、プロデューサー、カメラマン、照明、みんな4日間他の仕事全部とばさなければならなくなって。粟国島から「代役はいないか?!」と電話をかけ続け、4日後にヘリコプターがなんとか1機飛ぶというので、僕はのせてもらって。他の人たちはと2日くらい残っていました。

ritokei

島ちゃび(沖縄地方の方言で離島苦)をリアルに体感されたんですね。

照屋

でも、歓迎でヤギを1頭つぶしてくれたのは嬉しかったですね。ヤギ刺し、美味かったー。僕、ヤギは苦手なんですけど、上手な人がさばいてくれたのか、美味しかったなあ。

照屋

食べる場所もほぼ決まっていたので、いつも同じ居酒屋に行って、カラオケを歌ったり。青年会の方や、漁師の方たちとか、村長や役場の人たちとしょっちゅう飲んでいました。皆さんもすごく協力的で、漁師の方も船を貸してくださったり。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

ritokei

いいですね。

照屋

ただ、漁師の方は酒を飲んでいるときはすごく雄弁なんですけど、次の朝、港で「この船を貸してもらえるんですねー」と言ったら、まったく無口なんです(笑)。

ritokei

ははは。

照屋

あんなにしゃべっていたのに!人見知りなんだな〜と思って、可愛かったです。

ritokei

島の方へのメッセージをお願いします。

照屋

粟国島に着いた時、まず海の神様と島のなかにいる山の神様に拝むために、いわゆるユタ(※)をされている民宿のおばあちゃんに儀礼事をやってもらいました。

(※)沖縄や奄美地方の民間霊媒師(シャーマン)

『洗骨』ではお墓を撮影するので、もしかしたら亡くなった方に失礼かもしれないと、不安だったんです。

そしたらそのおばあちゃんが「死者だってね、にぎやかなほうがうれしいんだよ。何も恐れることはない。いいんだよ撮影して。大丈夫誰も怒っていないから」と。

その一言でホッとしましたね。あの言葉をくれたおばあちゃんにも本当に感謝しています。

ritokei

洗骨文化は粟国のほか、与論島などでも現存していますが、『洗骨』を拝見するなかでも、こうした文化が残る島々では生きている人々と死者との距離が近いように思いました。

照屋

そういう感じはするかもしれませんね。いまや病院で亡くなる人ばかりですが、昔は家のなかで亡くなっていたので、生と死が近かったと思いますね。

ritokei

『洗骨』を見ていると、洗骨をしてもらえること自体がうらやましいことと感じました。

照屋

いいですよね。さすがに大変な作業なので僕も自分の子供に洗骨してくれとは言えませんが、洗骨っていいなと本当に思いました。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

『洗骨』作品情報

ガレッジセールのゴリが本名の照屋年之名義で監督・脚本を手がけた長編作品。原案は2016年に粟国島で撮影し、数々の映画祭で好評を博した短編映画『born、bone、墓音。』。本作は奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女が共演し、筒井真理子、大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎らが脇を固める。2019年1月18日(金)に沖縄先行公開、2月9日(土)より丸の内TOEIほか全国公開。 http://senkotsu-movie.com/

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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