つくろう、島の未来

2018年11月19日 月曜日

「島々仕事人」は島にゆかりのある仕事人の想いを紹介する企画。今回は、島根県の中ノ島(海士町)を中心に、日本国内の離島の食材を使った料理を通して「文化」「歴史」「物語」など離島の魅力を伝える飲食店「離島キッチン」代表取締役・佐藤喬さんです。

※この記事は『ritokei』24号(2018年5月発行号)掲載記事です。

文・上島妙子 写真・渡邉和弘

人生を変えた「行商人募集」のワンフレーズ

2009年、映像制作会社に勤めていた佐藤さんは転職を思い立ち、求人サイトで「行商人募集」のフレーズに目をとめた。海士町観光協会による島のPR人材を募集するその広告は、当時、島とは全くゆかりのなかった佐藤さんの人生に大きな変化をもたらすものとなった。

学生時代、地方の小さな町を訪れては野宿をし、ニホンザルに襲われた思い出もある佐藤さんは、「都会より田舎の方がおもしろい体験ができる」と感じていた。そこで、行商人に応募、人生初の離島訪問で海士町を目指した。

島で待ち受けていたのはなんと2日間に渡る宴会。島の人々と杯を交わし続け、最終日は二日酔いの中で面接を受け見事合格。新たな人生をスタートさせた。

海士町から受けた行商人修行のファーストミッションは、約1カ月間、島のブランド岩ガキ「春香」の出荷作業。「カキについた大量のフジツボをローラー状の機械で手が震えるまで取り続け、フジツボに叩きのめされる夢を見るほどハードでした」(佐藤さん)。

フジツボとの格闘後は、海士町のPR企画作成というミッションが与えられ、30を超える企画を提案。「移動販売のキッチンカーで海士町をはじめとする離島の食をPR」が採用され、佐藤さんの新たな戦いが始まった。

キッチンカーで各地をめぐり、海士町のサザエカレーや奄美大島の鶏飯などを販売。誰にも見向きもされず悶々と悩む日もあったが、機動力ある移動販売は「人の輪が広がり、キッチンカーで参加できるイベント情報が入るなどメリットもありました」(佐藤さん)。

転機が訪れたのは2011年、東京ドームで開催された「全国ご当地どんぶり選手権」への出場だった。話題の丼が全国から集結し、来場者の人気を競うその大会で、佐藤さんは島の人々とCAS(※)で凍結したスルメイカの「寒シマメ漬け丼」を販売。初日は最下位に沈むも、7日間で約1万杯を提供し、最終日には20種の丼の中で7位を獲得したことで、佐藤さんは手応えを感じた。

※CAS……「Cells Alive System」の略。海産物などを磁場エネルギーで細胞を振動させ、細胞組織を壊すことなく凍結させるシステム。新鮮な味を封じ込め、消費者に届けることができる。

しかし、移動販売では生ものの提供ができない。そのため、期間限定店舗などを経て、2015年、海士町観光協会直営で、都内初の路面店舗となる「離島キッチン 神楽坂店」が誕生した。

店舗とお客、島の生産者の絆をより深めたい

現在、離島キッチンは神楽坂、札幌、福岡、海士町、日本橋の5店舗を展開し、正社員20名、アルバイトを含めると約50名が勤務している。古民家を改造した神楽坂店では、島々の味覚と笑顔のスタッフが和やかな雰囲気でお客様を迎えている。

島ファンや離島出身者が島の食材が主役の料理に舌鼓を打つ様子は、佐藤さんにとってうれしい光景で、各離島の自治体関係者が出張の折に訪れることも多い。

現在は約80の島と取引があり、岩城島のレモンポークや屋久島の鯖スモークなどを使う定番料理の他、「今月の島」と題して特定の島の食材を使用した特別メニューを提供。そのためスタッフは3カ月前からリサーチを進め、島に足を運んで食材を決定するという。

こうした努力が、島を存分に味わい、楽しめる空間をつくりあげているが、特別メニュー終了後、現地の生産者との関係も終えることもあったため、「これからは、お客様の声を生産者に伝え、離島キッチンと生産者がもっと結束し、一緒に商品開発をしたい」と佐藤さんは展望する。

日本の島々の魅力を伝えることがライフワーク

「お店を通して島に関わる人が幸せになり、日本がもっとよくなれば」と語る佐藤さんにとって、島の魅力とは「どの島も原色の個性を持ち、隣同士の島でも全く違うこと。418の有人離島、そして国内の6,800の離島にはそれぞれ魅力がある」。

行商人募集をきっかけに島と出合った佐藤さん。今後は「島の魅力を伝えることをライフワークにしていきたい」と目を輝かせ、島の商品のインターネット販売や、島への移住や仕事づくりのシステム構築、さらには「各島から資金を募り、離島の若者が東京で学べる学生寮をつくりたい」など、尽きることのないアイデアの実現に向けて邁進する。


プロフィール/
佐藤喬(さとう・たかし)
株式会社離島キッチン代表取締役。秋田県秋田市出身。現在国内に5店舗を構える「離島キッチン」の他、2017年4月より出身地である秋田県内の東成瀬村を中心に、国内に183ある村の食材を使った料理を提供する飲食店「むらむすび」を展開。

【関連サイト】
離島キッチン

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

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